海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ヘンリー・カヴィル
連載
第121回

ヘンリー・カヴィル
マシュー・ヴォーンの“常識を覆す”新作でスパイ小説の主人公を快演
── 今回はヘンリー・カヴィルです。マシュー・ヴォーンのスパイアクション『ARGYLE/アーガイル』に出演しています。彼はスパイを演じているんですか?
渡辺 スパイ小説の主人公アーガイルを演じています。原作者はエリーという女性で、人気の“アーガイルシリーズ”の著者です。そんな彼女のシリーズ最新作が出版されるんですが、その内容が実在するスパイ組織の活動と一致していたものだから大騒動になるという物語です。とてもストーリーが凝っていて、誰も想像できないような展開が待っているので、これ以上の前知識を入れずに観た方が楽しめると思います。
── それは気になりますね!
渡辺 そうなんですよ。これまでのスパイものの常識を軽々と覆していると言ってもいいかもしれない。私は大好きでした……ちょっと長いけど(笑)。

── ヘンリー・カヴィルは小説の中だけ出てくるんですか?
渡辺 だから、その辺は映画を観てのお楽しみです(笑)。カヴィルはかつてジェームズ・ボンドのオーディションを受けて最終審査まで残ったという経歴があり、監督のヴォーンは、スパイを演じさせるならカヴィルと決めていたようです。ヴォーンのかつての盟友ガイ・リッチーも『コードネームU.N.C.L.E.』(15)でナポレオン・ソロ役に抜擢してますから。私はこの作品の彼は凄くいいと思いました。
── 彼はスーパーマン役でブレイクしましたね。
渡辺 ザック・スナイダーの『マン・オブ・スティール』(13)でスーパーマン/ブルース・ウェインを演じてブレイクしましたが、私はその前の『インモータルズ-神々の戦い-』(11)のときに初めてインタビューしました。彼が演じていたのはギリシャ神話に登場する英雄テセウスなんですが、この取材のときにはすでにスーパーマンを演じることが発表されていたので、自分のどういう部分がヒーローに向いていると思うかと聞きたくなるじゃないですか?

── そうですね。
渡辺 でも、答えは「誰だってヒーローに憧れるし、なりたいものだろ? 正しいことをして、世界を救いたいし、意義あることをやりたい」とはぐらかしたような感じでした。
ただ、この作品で共演していたフリーダ・ピントは「ヘンリーは朝5時に現場に入り、一番最後に現場を去った。私はその仕事ぶりにとても感銘を受けてしまった。そういう意味では本当にヒーローよ!」と言っていたんです。
で、ヘンリーは「どんな仕事をするにも、人生で何をするにも、僕は同じやり方を実践している。全力を尽くしてちゃんとやるんだ。そうすれば楽しむことができる。どんなに困難なことであっても、必ず楽しめる何かを見つけることができる。たとえば肉体を改造する場合でも、めちゃくちゃ大変だったけれど、その結果を楽しむことができた。苦痛はほんの短い間しか続かない。でも、その苦痛を通して得た恩恵は永遠に続くと僕は思っている」
── 真面目な人、なんですね?
渡辺 真面目でもあるけれど、私の印象は英国人らしくウィットに富んでいるというものでしたね。ギリシャ神話とアメコミ、どちらに親しみがありましたか?という質問に「どっちも同じだよね?」と返すあたりはいいなーって。
ほら、日本でも一時、英国男子ブームがあったじゃないですか? 『マン・オブ・スティール』のときに英国役者についていろいろと聞いたんですよ。当時、バットマンを演じていたのもイギリス人のクリスチャン・ベールで、今度はスーパーマンまでイギリス人ですから、まさにハリウッドで英国アクター旋風が巻き起こっていた時期です。

「こういうアメリカのブロックバスター映画は英国のインディペンデント映画とはまるで違う。とにかく観客の数が段違いだから。英国だけで役者の仕事をしていると、舞台に立ったり、映画やTVの小さな役を演じたりで収入は限られる。だから本当に演技が好きでやっている人がとても多い。彼らはお金や名誉を求めてないんだよ……ってアメリカ人がそういうものを求めていると言いたいわけじゃないんだけど……でも、その辺は大きく違うと思うよ」
ちなみに「撮影中も紅茶を飲んでいるし、実はビスケットも大好き。とはいえ撮影中にはビスケットは口にしなかったけどね」って。
── やっぱり英国人ですね(笑)。
渡辺 ベネディクト・カンバーバッチもマーティン・フリーマンもインタビュー中、紅茶とビスケットでした(笑)。
オーディションに落ちまくって俳優業をあきらめかけたことも
── 英国スパイものの『U.N.C.L.E.』でもインタビューしたんですよね?
渡辺 しました。この映画は大好きだったのでぜひとも続編を作ってほしいんですが成績はイマイチでしたね。実はこの企画、最初のニュースではトム・クルーズがナポレオン・ソロを演じ、ヘンリーがイリヤ・クリアキンというキャスティングだったんです。だから、同じくスパイものの『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』でトムと共演したことに因縁を感じるかと尋ねてみました。
「感じるよ。まるでぐるっと1周回って元に戻ってきたという感じだった。ただ、ハリウッドというのはそういう因縁だらけのようなんだ。あの役をあの役者が演じるという話が浮かんだと思ったら、次の日には違う名前が挙がっている。そういう中でこうやって実際トムと共演をできたのはとても喜ばしいことだ。僕はトムのことを優れたストーリーテラーだと思っているから」
── なるほど!

渡辺 このときはヒゲをたくわえていたんですよね。自分のアイデアだと言っていましたが、あまり似合ってない(笑)。でも、彼が素晴らしいと思うのは、スーパーマンを演じていながら、そのイメージを引きずっていないところ。クリストファー・リーブの例を挙げるまでもなく、これだけ強烈なキャラクターを何度も演じてしまうと他の役ができなくなる場合が多いんですが、彼はちゃんと他の役もできている。その理由をどう思うかと尋ねたら「苦労しているから」と笑っていました。実際、彼は苦労人でもあるんです。
「オーディションに落ちまくっていた頃、本当に役者を辞めようと考えていた。“僕には合わない仕事なのかもしれない”って。いつも“いや、いい感じなんだけど……”と言われてさ。その後に“キミはちょっと知名度がなさすぎる”という言葉が続くわけだよ。『トワイライト』のときも、作者が僕を念頭に書いたにもかかわらずダメだったし、ブライアン・シンガーの『スーパーマン リターンズ』(06)のときもオーディションを受けて見事に落ちたよ(笑)。
でも、そういうことがあまりに続いたので、プロデューサーやスタジオの人たちが僕を覚えてくれるようになったんだ。そういうときにTVシリーズの『THE TUDORS~背徳の王冠~』(07~10)に出演するチャンスをつかみ、やっとみんなに知られるようになった」
── 苦労しているんですね。

渡辺 おそらく今はオーディションなしで役をもらっているんじゃないですかね? 『ミッション:インポッシブル』のときも「クリストファー(・マッカリー)からインスタグラムでオファーされたんだ」と言っていましたから。
これからの作品もたくさんあって、映画から始まりTVシリーズにもなった人気作品『ハイランダー』の劇場版(監督は『ジョン・ウィック』シリーズのチャド・スタエルスキ)や、ガイ・リッチーの作品2本にも出演する。スーパーマンを卒業して、まさに順風満帆ですね!
文:渡辺麻紀
Photo:AFLO
(C)Universal Pictures