海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ドゥニ・ヴィルヌーヴ
連載
第122回
没入感がハンパない! 大画面で観たい最新作『デューン』
── 今回は『デューン 砂の惑星PART2』の監督、ドゥニ・ヴィルヌーヴです。シリーズ2作目で、全米では前作を上回る大ヒットになっているそうです。日本では先行上映を経て、3月15日に本格的に公開されました。
渡辺 全米週末のオープニングの成績が8000万ドルを越えてました。1作目はその半分の4100万ドルだったし、そもそも最近の米国の興行成績は低迷中で、1800万ドルでも1位を取れるくらい。日本の作品が1位を取ったと騒いでましたが、こういう数字でもいいからです。そういうサムい劇場事情なので、まさに“救世主”。この映画のテーマにふさわしい(笑)。
── というと?
渡辺 今回はハヤカワ文庫の新訳の原作本でいうと中巻と下巻の映画化で、主人公のポールが砂の惑星の一族、フレメンの救世主として成長する姿が描かれているからです。劇場から離れてしまった人もさすがにこれは映画館の大画面で観たいと思ったのではないでしょうか。私は普通の試写とIMAXで観たんですが、もう別の映画でしたね。とりわけ音響が素晴らしく没入感がハンパなかった。フレメンの戦士のひとりになった気分を味わえました。
── 1作目と比べるとどうなんですか?
渡辺 1作目は原作の上巻だけで、ほぼ世界観と設定を描いているだけ。原作どおりなので、原作を読んでると驚きが少ないんですよ。でも、今回はアクションに次ぐアクション。しかも2冊分を2時間46分にまとめているせいか展開が早く、アダプテーション(脚色・翻案)の醍醐味もある。こっちの方がダンゼン面白くて、この長尺があっという間でした。ポールを演じるティモシー・シャラメもとてもよかったですね。
── 『デューン』シリーズはヴィルヌーヴ監督の念願の作品なんですよね?
渡辺 彼は『メッセージ』(16)でテッド・チャンの中編SF『あなたの人生の物語』を映画化し、続いて『ブレードランナー』の続編『ブレードランナー2049』(17)を手がけ、SFファン御用達の監督になった。余談ですが、これからの予定作に(アーサー・C・)クラークの『宇宙のランデヴー』が入っているから、マジでSFファン御用達になりますよね。
『メッセージ』のインタビューのとき、好きなSF小説を尋ねると真っ先にフランク・ハーバートの『デューン』を挙げていましたね。
『デューン』で話を聞いたときは原作について、「10代の頃に読んで以来、頭からこの小説が離れたことはなかった。本作を製作する際もバイブルのような存在で、ハーバートの美しい筆致を映像に移し替えることを指針にしたくらいだった。本作はまさに私の原作へのラブレターだよ」と言っていました。
── それはすてきじゃないですか!
渡辺 それで原作どおりなんですけどね(笑)。でも、原作への愛はこれでもかと伝わってきた。言うまでもなく観る人によるんですが、原作を読んでいる映画を観る場合、私はどう翻案しているんだろうというところを楽しみたい。だから『デューン』は2作目の方が好きだし、アダプテーションが素晴らしい『メッセージ』がお気に入りなんです。
「映画の神様に感謝する」が口グセ
── ヴィルヌーヴはやはりSF好きなんですか?
渡辺 先ほども言ったように好きなSFを尋ねたとき、挙げたのはハーバートだけだったので、大好きというほどでもないんだと思います。『メッセージ』のときはこう言っていました。
「『灼熱の魂』(10)がアメリカでとてもヒットしてハリウッドのプロデューサーから何を作りたいかと聞かれたんだ。で、私はカナダでは製作費の問題で唯一作れないのがSFだと思い「SF」と答えた。そのとき彼らに勧められた本がテッド・チャンの『あなたの人生の物語』だった。その中編にはとても惹かれたんだけれど、果たしてこれをどうやって映像化するのか分からなかった。
で、アメリカでの最初の作品になる『プリズナーズ』(13)を撮り終わったら、彼らからエリック・ハイセラーの書いた『メッセージ』の初校を渡されて、これなら映像化できると思ったんだ。映画化が難しいストーリーから映画的、ドラマ的な構造を見事に創り上げていたから素晴らしいよ。ただ、かなり原作から離れていたので手を入れてもっと原作の良さを反映した脚本にした。この作業はかなりハードだったけどね」
『デューン』も原作への愛を強く感じる作品なので、そういう原作系の映画化だと原作者に敬意を払うのがヴィルヌーヴ流なのかもしれませんね。ちなみにハイセラーは『君の名は。』のハリウッド版実写リメイクで脚本を担当することになってます。オリジナルよりよくなったりして(笑)。
私がヴィルヌーヴに最初にインタビューしたのは『複製された男』(13)だったんですが、ちょうどそのとき彼が『あなたの人生の物語』を映画化すると発表されたばかりだったので、もっとも映画化に向かないような物語をどう映画化するのかと聞いたら、「素晴らしい脚本が出来上がったから大丈夫」と言っていましたからね。
この中編が収録されたテッド・チャンの短編集は日本のSF小説のランキング(早川書房の『SFが読みたい!』)でもその年の1位だったと言ったら、「プレッシャーよりも、その言葉でモチベーションが上がったよ! 映画化の宿命で原作を裏切る部分も出てくるけれど、日本のSFファンは楽しみにしてほしい」って、ちゃんと期待に応えてくれました。素晴らしい!
── 『ブレードランナー2049』(17)でもインタビューしたんですか?
渡辺 しました。これも大変評判がいい映画でしたよね。リドリー・スコットの最初の『ブレードランナー』(83)はSF映画を大きく変えてしまった、まさに金字塔のような作品なのでその純粋な続編となると引き受けるにも勇気がいる。だから、こんなことを言ってました。
「スタッフ&キャスト、もう全員がプレッシャーを感じていた。名作中の名作の続編なんて興奮することであり、非常に緊張感があり恐怖感すらある。みんなオリジナルが大好きだったから敬意を払って撮影したし、自分たちの記憶や思い出もリスペクトしたつもりだ。私たちは絶対にいいものを創るためにベストを尽くしたから、みなさんの高評価は本当に嬉しかった。映画の神様に感謝したい気持ちでいっぱいだ。これで、誰も私の車に爆弾を仕掛けないだろうから安心してエンジンをかけられる(笑)」
1作目のスコット版を観たときの感想は、「ライティングのやり方、ライトの当て方、雰囲気の創り方、今まで観たことがない世界だった。私の作品にも強い影響があるけれど、同じ世代の監督で『ブレラン』の影響を受けていない人はいなんじゃないの?」
また、こうも言っていました。「私の望みは、オリジナルと同じように時を越えて愛される作品になってくれること」。
── そうなったんですか?
渡辺 これからでしょうが、スコット版は公開当時は大コケしたし評価も低く、それからだんだん評価が上がっていった。ヴィルヌーヴ版とは逆でした。今や別次元の存在になっていて、そういう運命を辿った映画は長い映画史の中でも数えるほどしかないというか、ほぼないと思いますからね。
ちなみに彼の口癖のひとつは「映画の神様に感謝する」です。映画が成功したと感じたときにこの言葉をよく言ってます……ということは彼の場合、ほとんどの映画で口にしていることになりますが(笑)。
── 確かに、負け知らずかもしれませんね。
渡辺 3作目はハーバートの『デューン』シリーズの第2弾『砂漠の救世主』を作るつもりのようです。これを作りたいから2作目は駆け足だったんですよ。私の周りのSFファンはもうこの作品に気持ちが飛んでいるくらい(笑)。3作目も「映画の神様に感謝する」作品になりそうな予感がしまくりますね!
文:渡辺麻紀
Photo:AFLO
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