海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ジョージ・ミラー
連載
第126回

ジョージ・ミラー
御年79歳でも30代のような元気いっぱいのアクションが満載
── 今日は監督のジョージ・ミラーです。5月31日に新作『マッドマックス:フュリオサ』が公開されます。このコーナーで彼を取り上げるの初めてですよね。ちょっと意外な感じがします。
渡辺 すでにやっててもいいだろう監督さんなんですが、前の『マッドマックス:怒りのデス・ロード』が2015年公開で、もう9年も前ですからね。その間に『アラビアンナイト 三千年の願い』(22)がありましたけど、このときは紹介しなかった。
── ミラーは79歳なんですよね。
渡辺 『怒りのデス・ロード』のときは70歳でしたが、その年齢とは思えないパワーを感じる映画になっていました。79歳になったこの作品も30歳くらいのおじさんが撮ったような元気いっぱいのアクションが満載です。
── 今回はシリーズ初のスピンオフ。『怒りのデス・ロード』でシャーリーズ・セロンが演じていた女性戦士フュリオサの若かりし頃を描いているということですが、どんな映画でしたか?


渡辺 意外だったのは子ども時代のフュリオサのパートが、上映時間2時間28分に対して1時間あるんです。アリーラ・ブラウンというオーストラリアの子役が演じていて、この子がとてもかわいい! ミラーのお気に入りなのか、『アラビアンナイト』のときも、ティルダ・スウィントンの少女時代を演じていた。
で、少女フュリオサが“緑の地”からさらわれるんですが、そのバイク集団のあとを彼女の母親が馬に乗って追いかける。このお母さんのアクションがめちゃくちゃかっこよくて、初っ端からハートをわしづかみでした。凄いぞ、ミラーって感じで。途中、ちょっととっ散らかるんですが、そんな細かいことを気にしてたらこの映画のスピードについていけない(笑)。
── 何となく、分かるような気が(笑)。
渡辺 オトナになったフュリオサはアニャ・テイラー=ジョイが演じていて、彼女はとてもよかったです。彼女の宿敵になるバイク集団のボス、ディメンタス将軍は“ソー”でお馴染みのクリス・ヘムズワースなんですが、メイクをしていてちゃんとヴィランなルックスになっていた。このキャスティングは正解だったと思いました。ちなみに、冒頭のアクションが凄いのと、エンディングも凄い。これはジョージ・ミラーっぽいと思いましたね。楽しみにしてください。

(c)Kazuko Wakayama
世界を変える人物は、自分自身の道を歩めるヤツだ
── さて、そのミラーは?
渡辺 大好きな監督のひとりです。一番好きな映画は『ロレンツォのオイル/命の詩』(92)です。息子が遺伝子系の難病を患い、彼を助けるために両親が医学を一から勉強し、特効薬のオイルを見つけるという実際の出来事を描いている。私が好きだったのは、まさにこの両親が“闘病”していたからです。泣いたりわめいたり、医師にすがるのではなく、自分たちで運命と闘い、息子を救おうとする。「すげえなミラー、難病映画でもマジで闘ってる」って。
── そういわれれば、闘っている映画が多いかも。
渡辺 そうなんですよ。『フュリオサ』も過酷な運命と闘う女性ですし、ブタの『ベイブ』シリーズ(95~98)だって食用になる運命なのに、それに抗い牧羊ブタになる話だし、ペンギン映画の『ハッピー・フィート』(06)もそう。だから、“闘い”をビジュアルにするとアクションになる場合が多く、アクション映画の監督にされているのがミラーという解釈をしています。
そういう考えに至ったのも『ハッピー・フィート』のとき、こんなことを言っていたからです。
「私はいつも英雄譚や神話に惹かれてしまう。なぜかと聞かれても、それが私の“性(さが)”だとしか言いようがない。そんな私にとって、『ベイブ』のベイブも、『ロレンツォのオイル』の両親も、『ハッピー・フィート』のマンブルも運命を変えようとしたヒーローなんだ」

それにミラーって、映画監督になる前はお医者さんだったじゃないですか? ERに勤務して、そのお金を貯めて『マッドマックス』(79)を撮ったのは有名な話ですよね。だから、こんなことを言っていました。
「医者をやっているときは“映画監督になりたい? 変わっているねえ」と言われ、監督になってからは“医者をやめて監督に? 変わっているねえ“と言われた。つまり、私は変人なわけだ(笑)。でも、私はこう思うんだ。世界を変える人物は、自分自身の道を歩めるヤツだってね」
── かっこいいじゃないですか!
渡辺 そうなんですよ。“自分自身の道”すら見つけられない人も多いですから、そういう中で、ちゃんと自分の道を見つけ、さらにしっかりそこを歩んでいるという自負があるんでしょうね。彼の映画が力強い理由のひとつかもしれない。

荒野だからといって、美しくできないわけではない
── ミラーは、どんな感じなんですか?
渡辺 あんな過激な映画を撮っているにもかかわらず、当人はとても穏やかで優しい感じなのがまた素敵なんですよ。ギャップがありまくる人です(笑)。
面白いのはアクションの話をしないところ。「アクションが大変だったのでは?」とか「どのアクションが一番大変でしたか?」なんていう質問に対しても「一番大変なのは物語の構築だ」「物語こそが重要だ」と答えて物語の話をするんです。アクションはあくまで物語の副産物で、自分が力を注いでいるのは物語だと言いたんだと思います。
こういう回答にもギャップを感じてしますよね。だって、ケガ人続出に違いない映画ですよ、『マッドマックス』シリーズは。また、ケガ人については『デス・ロード』のときはこう答えていました。
「私はかつて医者だったんだよ」と笑って「現場でケガ人が出るほど最悪な出来事はない。私がもっとも恐れていたのがケガだったから。なので事前に、安全に関するワークショップを延々とやったんだ。擦り傷や打ち傷はたくさんあったとはいえ、骨折は一度もなかった。ただ、ひとりだけ上腕二頭筋腱を切ってしまったけれど、それでも撮影は止めなかったよ」
あの映画でそれだけで済んでるのは奇跡みたいなものですね。
── 日本の漫画等でも、『マッドマックス』の影響を受けているものがたくさんありますよね?
渡辺 私は漫画に詳しくないですが、あるとは聞いています。ミラー自身は大友克洋の『AKIRA』(88)を絶賛していました。アニメーションの方です。
「世界観を創る上でも、ストーリーを語る上でも、何よりビジュアルを大切にしている。『怒りのデス・ロード』でもそこを意識していて“荒野だからといって、美しくできないわけではない”とみんなに言ったんだよ。実際、目を凝らして観てもらえば、ガジェットのひとつひとつに美意識が息づいているのが分かると思う」
それでいうと、『フュリオサ』もとても美しかったですね。
もうひとつ、印象的だったのは洋服についてです。昔、メル・ギブソンが「ジョージは撮影中、いつも同じ服を着ている」と言っていて、『ハッピー・フィート』のメイキングを観ても確かに同じ服なんですよ。それについて聞いてみたら、その答えが面白かった。
「監督というのは毎日毎日、いろんなことを決めなくてはいけない。たとえばテーブルのコップの水をどれくらい入れるかとか、1日に1000もの選択があるんだ。そんな状況で、今日は何を着ようかと迷うのはイヤなんだよ。そういうことに手間をかけたくないから、撮影中は同じ服を7セット揃えて、それを毎日着替えているんだ。『ハッピー・フィート』のときは南アフリカのレストランでシェフが着ていた服が気に入り、それを揃えたんだよ」

── とても説得力がありますね。
渡辺 スタンリー・キューブリックもいつもコーデュロイの黒のスモッグを着ていたそうですから、そういう監督は意外と多いのかもしれない。ただ、『フュリオサ』ではちょっと確認できなかったので、どうだったのかは分かりませんが。
── 『マッドマックス』シリーズはこれで一応、ピリオドなんですか?
渡辺 いや、それがミラーはもう1本作るつもりのようです。『デス・ロード』の続編だというのでトム・ハーディがマックスを演じることになりますね。これを撮るときはもう80歳すぎているだろうけど、ミラーのパワーは衰えないと思いますよ、絶対!
文:渡辺麻紀
Photo:AFLO
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