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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

ジャッキー・チェン

連載

第127回

ジャッキー・チェン

ジャッキー・チェンは結構ズケズケ言うタイプ

── 今回はジャッキー・チェンです。彼の主演作『ライド・オン』が公開されました。資料によると「50周年記念アクション超大作&70歳、映画人生の集大成!」とありますね。初主演作『タイガー・プロジェクト/ドラゴンへの道 序章』(74)から50年のようです。

渡辺 そういう映画になってました。ジャッキーが演じるのは香港映画界の伝説のスタントマン。今は寄る年波とデジタルに追われ、芸達者な愛馬と細々と映画業界の隅っこで暮らしている。ところが、その愛馬が借金の肩に連れていかれることになり、疎遠だったロースクールに通っている娘に助けを求める。

愛馬との絆や、決裂していた娘との復縁、さらにはスタントマンとしての意地など、ドラマとしては予想可能な内容であり展開。ただ、ジャッキーファンとして嬉しいのは、随所にかつての出演作のアクションシーンが流れるところ。『プロジェクトA』(83)とか『ポリス・ストーリー』シリーズとか、香港時代のアクション映画のスタントシーンが満載なんですよ。

エンドクレジットにはジャッキー映画ではお馴染みのNG集も流れます。私はここが嬉しかった。ただし、言語は広東じゃなく北京語。ジャッキーは中国にすり寄っているという意見もよく聞きますが、今の状況を考えると仕方ないのかもしれない。

『ライド・オン』のジャッキー・チェン

── ジャッキーはどんな人でしたか?

渡辺 とても気さくな人でした。しかも結構、ズケズケ言うタイプ。初めてのインタビューはハリウッド映画の『タキシード』(02)だったんですが、「何かと安全性を重視していて、スタントをやらせてくれない」ととても不満げでした。確かに香港映画はマジでやっていますからね。ただ、本作のプロダクション、当時のドリームワークスの会長だった(スティーヴン・)スピルバーグに関してはこんなことを言っていました。

「ある日、スティーヴンから、ぜひ会いたいという連絡が来た。僕はふたつ返事でOKさ。そして、待ち合わせた場所に行くと、彼は開口一番“ジャッキー、サインをくれないか? 息子が君の大ファンなんだ”って。そのとき、彼が渡してくれた脚本が『タキシード』だったんだ」

さらにスピルバーグは「私は、君の考え方やスタイルを分かっているつもりだ。家族全員で楽しめる映画。『タキシード』はそんな君にぴったりだと思う」と言ったそうです。だからジャッキーも「ほとんど脚本を吟味せずに出演をOKした」わけです。

『タキシード』のジャッキー・チェン

── 映画はヒットしたんですか?

渡辺 いや、コケました(笑)。ハリウッド式の撮影についてはこんな愚痴をこぼしていました。

「キックシーンを何度も撮るから何をやっているのかと思うと、3カ月後にデジタル処理した映像が出来上がる。僕にとっては身体を動かすことが普通なので、デジタルの方が遥かに難しい」

また、こんなことも言っていました。

「『ラッシュアワー』(98)の派手なアクションをこなす刑事のような役には正直、うんざりだよ。僕は本当の意味でドラマがやりたい。俳優としてしっかりした地位を築きたいんだ」

── 「うんざり」って、言いますねえ、ジャッキー。

渡辺 でも、すっごく感じはいい。正直に話してくれているのかなあという感じがする。一度会うとファンになると同業者の人が言っていましたけど、それは納得でしたね。

『ラッシュアワー3』(07)のレッドカーペットで相棒クリス・タッカーと。おなじみビッグスマイルのウラで「うんざり」してた!?

ジェット・リーとジャッキーなら“ラリー”が続く

── 当時は日本でも絶大な人気を誇っていました。

渡辺 私の周りにも男女問わずファンが大勢いましたね。

この『タキシード』はロサンゼルスでの取材だったんですが、次は北京でした。ジェット・リーとの共演が大きな話題だった『ドラゴン・キングダム』(08)です。北京での取材、私は初めてだったんですが、他の国とは勝手が違っていて面白かった。

日本も西洋諸国も大体ひな壇にタレントが座って、彼らの前に取材陣が座るというスタイルですが、北京スタイルではタレントは豪華なひとり掛けソファにそれぞれ座り、その前に張られたロープの向こう側にいる取材陣はおよそ1時間、立ったまま。通訳はひとりで、北京語と英語を操るんですが、最後は北京語だけで通訳してなかった。監督はロブ・ミンコフなんですが、完全に置いてけぼり(笑)。私たちも置いてけぼりです。

── 記者会見にはジェット・リーも?

渡辺 いましたね。あとはアクション演出を担当したユエン・ウーピン、そして中国の女優さんがたくさんいました。

記者会見の後、リーとジャッキーのツーショットで取材をしたんですが、やっぱりふたりが並んでキックしているような写真、欲しいじゃないですか? ジャッキーはすぐにポーズを取ってくれたんですが、リーがNGで実現しませんでした。

ジャッキーは私たちに「ごめんよ」って日本語で。全体的な印象としては、なかなか気難しいリーをジャッキーが気にかけるという感じ。ジェット・リー、お前の方が後輩だろうって(笑)。

『ドラゴン・キングダム』の取材で仲良しな雰囲気のふたり

── ふたりは仲がいいんですか?

渡辺 リーはそのときの共演についてこう言っていました。

「8年前と15年前にジャッキーとの共演の企画が持ち上がった。実現しなかったのはふたりともが忙しかったことや、出資者が集まらなかったから。でも今回は、お金を出してくれる人が見つかり、やっと実現したんだ」

ジャッキーの言葉はこんな感じでした。

「僕たちは友人になって20年が経つ。だから共演するのは自然の成り行きだったので、“時間はかかったな”くらいだったんだけど、周囲の方は大興奮。その落差が面白かった。実際、撮影の初日、ジェットと現場で初めて顔を合わせても、昨日も一緒に仕事したくらいの馴染み方だった。とはいえ、実際に撮影が始まると、驚くほどの満足感を味わった。ユエン(・ウーピン)がアクション監督だったことも大きいけどね」

── それはステキな顔合わせじゃないですか!

渡辺 ウーピンは「ジャッキーとの仕事は『ジャッキー・チェンの酔拳』(83)以来、30年ぶりになった。忙しくてなかなかスケジュールが合わなかった」と言っていました。それに対しジャッキーが「本当は『酔拳2』(94)もお願いするつもりだったんだけど……」と言うと、ジェット・リーが「そのとき僕の映画を撮り始めたからダメだった」と笑ってました。いい雰囲気なんですよ、この3人。

ウーピンに、30年ぶりのジャッキーはどうだったか尋ねると「人間としても演技も、カンフーも熟練していた。以前は、こうしてああしてと、いろいろと指導が必要だったけど、今はパパっとこなす。凄いと思いました」って。ついでにジャッキーとリーのアクションの違いを聞くと「それぞれアクションのスタイルが違う。ジェットは武術が完璧で美しい。ジャッキーは難易度の高いカンフーをこなし、巧みでかっこいい。共通しているのはふたりともキングで風格がある点です」。

『ドラゴン・キングダム』劇中の「キングで風格がある」ふたり

── ふたりはお互いのアクションをどう言っているんですか?

渡辺 リーは「ジャッキーとの共演はまるで卓球をやっているような感じだった。長年、こうやって映画を撮っていると、僕がサーブを打っても受け止められない人もいて、じゃあもっと簡単にしようということになる。でも、ジャッキーとはラリーが続き、相手のスピードが上がれば自分もそれに合わせる。ユエンには“もっとスピードを抑えて!”とずっと言われてた(笑)」。

一方、ジャッキーは自分のアクションを「どれも中途半端で、全部をまぜこぜにしたようなもの。言い換えれば、何でもできる」と評してました。

何だかジェット・リーのコメントも多くなってしまいました。ジェット・リーも何度かインタビューしているので、いつかあらためて紹介したいですね。

文:渡辺麻紀
Photo:AFLO
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