海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
マイケル・マン
連載
第128回

マイケル・マン
マイケル・マンらしいかっこいいセリフが満載の『フェラーリ』
── 今回はマイケル・マンです。最新の監督作『フェラーリ』が7月5日に公開されます。
渡辺 前作『ブラックハット』が公開されたのが2015年と、およそ10年前ですから、マンにとっては久しぶりの映画監督作になります。私はその『ブラックハット』がまるでダメだったのでちょっと心配でしたが、これには大満足。とてもマンらしい映画になっていました。
── イタリアの名車、フェラーリを生み育てたエンツォ・フェラーリを描いているんですよね?
渡辺 私生活では仕事のパートナーでもある奥さん(ペネロペ・クルス)と、自分の子どもを産んだ愛人(シャイリーン・ウッドリー)の間を行き来するというめんどくさい状況で、会社的にも資金繰りに窮し、次のレースで勝利しないと潰れるかもしれないという八方ふさがりの時期。エンツォが59歳だったそんな1957年の数カ月にスポットを当てています。

いや、もうかっこいいセリフの連続で、ライバルでもあるジャガーが成績を伸ばしているのにと言われると「彼らは稼ぐために走る。私は走るために稼ぐ」。ドライバーには「勝つために走れ。ブレーキを忘れろ」って。そんなセリフが山盛りで、久々にマンらしい男性像を観たという興奮がありました。
それに、そもそもマンはフェラーリという車が大好きみたいで、その姿を初めて観た1967年のロンドンで恋に落ちた、みたいなことを言っていますからね。ジェームズ・マンゴールドの『フォードVSフェラーリ』(19)も最初に企画を立ち上げたのはマンだったと記憶しています。紆余曲折を経て監督はマンゴールドになり、マンは製作総指揮としてクレジットされていました。
── フェラーリを演じているのはアダム・ドライバーですが、彼はどうなんですか?
渡辺 私にとってアダム・ドライバーって、いつまで経っても『スター・ウォーズ』の中二病男子、カイロ・レンなんですよ。だから正直、「大丈夫か!?」と思っていたんですが、その予想を見事に裏切り、めちゃくちゃかっこよかった! あんなセリフがぴったりの情熱と信念の男にちゃんとなっていた。やっぱりマンの手にかかるとカイロ・レンも大変身するんだって(笑)。


“クール”より“パッショネイト”
── それはかなり気になりますね。マンはどういう感じなんですか?
渡辺 快活な印象でした。白髪のすてきなおじさまという感じ。初めてインタビューした『マイアミ・バイス』(06)のときには「車のレースをするのでレーシングカーをもっている」と言っていました。さらに「ボークスが好きなので、いつも運転しているのはボークスだよ」って。ちなみに“ボークス”というのはフォルクスワーゲンのことなのかな? このときちゃんと突っ込まなかったのでよく分からない(笑)。レースカーについては今はどうか分かりませんが、やっぱり車が大好きなんだと思います。
このとき「あなたの印象は、とてもクールな監督なんですが……」と言うと「そうなの? 自分がクールだなんて思ったこともないし、クールな映画を作りたいという意識もない。私がクールと感じた監督は香港のウォン・カーウァイだよ。彼は好きな監督のひとりで、いつもクールな映画を撮っている」
── 確かにカーウァイはクールかも。
渡辺 ですよね。マンは“クール”より“パッショネイト”という言葉の方がふさわしい映画を作っているという感じでした。今回のエンツォにしてもパッショネイトだからかっこいい(クール)って感じなんですけどね。
ちなみにこの『マイアミ・バイス』で主人公が乗っている車はフェラーリでした。言うまでもなくこの映画はマンが製作総指揮を務めた大ヒットTVシリーズ『特捜刑事マイアミ・バイス』(84~89)の劇場版。あらためて調べてみたら、主人公の刑事(TV版ではドン・ジョンソン)が乗っていたのもフェラーリのようなので、もしかしたらマンの趣味なのかもしれませんね。

『マイアミ・バイス』、映画はイマイチだったんですが、異色だなあと思ったのは主人公の刑事コリン・ファレルとコン・リー演じる麻薬ディーラーの愛人の恋愛パートが多かった点です。「それが意外だった」と言うと彼はこう言っていました。
「私がこの映画を撮りたいと思ったのは、そのふたりのラブストーリーを描きたかったからだ。明日のない恋……私はそれはとんでもない悲劇だと思ったから。銃撃戦とかは二の次。これはロマンチックなストーリーなんだ」
この映画とは関係ないんですが、ジェイムズ・エルロイのファンだった私は彼に「エルロイの小説ってどうでしょう? たとえば『ホワイト・ジャズ』とか」と言うと、「ああ、その小説はエルロイから直接アプローチがあったよ。考えてはみたが実現しなかったなあ。私は彼の小説では『L.A.コンフィデンシャル』が大好きだったよ」って。実現してほしかった!
名作『ヒート』の前日譚も!?
次に取材したのは、ジョニー・デップが犯罪王と呼ばれるジョン・デリンジャーを演じた『パブリック・エネミーズ』(09)でした。そもそも「人間の生活に多大なる変化をもたらした時期が1930年代。さまざまな危険と直面しなくてはいけない時代で、その頃の本のエンディングはほぼ“死”だよ。私がもっとも魅力を感じるこの時代とデリンジャーの間には不思議な繋がりを感じるんだ」と言っていました。

本作もデリンジャーの「最後のダイナミックな13カ月に焦点を絞っている」と言っていて、「彼の人生は短かった(31歳で死亡)にもかかわらず、2、3人の人生を圧縮してひとりの人生にしたような濃くてディープな生きざまだった。私はそういう疾風怒濤の人生の中で、果たして彼は何を考えていたんだろう?と思った。
興味深かったのは、彼は自分の未来、近い未来も遠い未来も、未来というものにまったく目を向けていなかった点だ。見つけることができないだろうと決めつけていた本当の愛を見つけたにもかかわらず、未来を自分の人生から完全にシャットアウトしていた。それはなぜなのか? そこが非常に面白く、この映画を作るきっかけになった。もし彼に会うことができるなら聞きたいことが山のようにある。ぜひとも会ってみたい人間のひとりだよ」。
やっぱりドラマチックなキャラクターが好きなんでしょうね。
── 映画は面白かったんですか?
渡辺 デリンジャー映画ならジョン・ミリアスの『デリンジャー』(73)が私にとっては最高峰なので。これは本当にロマンチック! デリンジャー役のウォーレン・オーツを始め、犯罪者たちがみんなロマンチックに描かれていた。さすがミリアスでした。
つまり、ワタナベ的には最近のマンはちょっと不調だったわけです。ジョニー・デップもそれほどかっこよくなかったし、『ブラックハット』のクリス・ヘムズワースに至ってはミスキャストと思ったくらいで。だから『フェラーリ』の復活が大変嬉しかった。

次の予定作は1940~50年代を舞台に、当時幅を利かしていたシカゴのギャング、サルヴァトーレ・ジアンカーナとトニー・アッカルドの関係性を描くみたいですね。それともうひとつ、『ヒート』の前日譚の企画もあると聞いています。この2本はマンらしい映画になりそうでとても楽しみ!
……とはいえマン、もう81歳なので、早く撮ってほしいですね。

文:渡辺麻紀
Photo:AFLO
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