海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ナタリー・ポートマン
連載
第129回

ナタリー・ポートマン
新作『メイ・ディセンバー ゆれる真実』でジュリアン・ムーアと競演
── 今回はナタリー・ポートマンをお願いします。彼女がジュリアン・ムーアと共演した『メイ・ディセンバー ゆれる真実』が7月12日に公開されます。監督は『キャロル』(15)などのトッド・ヘインズですね。
渡辺 実際に起きた事件に材を取っているようです。本作では、36歳の子どももいる既婚女性グレイシーが13歳の少年と関係をもって実刑判決を受け、獄中で彼の子どもを出産。その後、最初の夫と離婚してふたりは結婚し、幸せに暮らしている。そんなふたりの事件を映画化することになり、主演女優のエリザベスがリサーチのためふたりのもとを訪れる。
ナタリーはエリザベス、ジュリアンがグレイシーを演じています。タイトルの『メイ・ディセンバー』というのは5月と12月、つまり年の離れたカップルを意味する言葉で、実際の事件も“メイ・ディセンバー事件”と呼ばれていたようです。

── ということは、本当に幸せそうなふたりだけど、女優が密着取材するうちにヤバいことが明らかになる……という展開なんですか?
渡辺 そうなんですが、私はその真実が曖昧な印象でしたね。ふたりは子どもたちと豪華な家に住んでいるものの、若い旦那の仕事も医者っぽい感じだけで、ほとんど働いてない。奥さんの方はケーキなどを作って近所の人に売っているんですが、どうもそれはみんなが気を遣って購入しているらしい。もう20年近くもその土地で暮らしているのに、どうして、何に対して気を遣っているのかが分からなかった。彼女と近所の関係性が描かれていないのも気になりましたね。
ただ音楽はとてもドラマチックで「どんな事実が明かされるのか!?」という期待感を最後までもたせてくれる。
監督のトッド・ヘインズはこういうテーマは得意のはずなんですけどね。実話でまだ関係者も生きているからストレートには描けなかったのかもしれません。

── ナタリーはどんな感じなんですか?
渡辺 『ブラック・スワン』(10)でアカデミー賞主演女優賞を獲得し、そのとき一緒に仕事をしたフランス人の振付師と結婚、ふたりの子どもをもうけたものの今年の3月に離婚したようですね。
こうやってざっと彼女の経歴を書いてみると、とてもハリウッド女優という感じですが、実際の彼女は派手なことを嫌う真面目でクレバーな女子という感じ。今は分かりませんが、結婚前にインタビューしたときには「お化粧はめんどくさい。おしゃれも興味がない。革製品は一切身に付けない、お肉も絶対に食べない」と言い切っていました。ただし、女優をやっているので「お化粧とおしゃれに関しては対処する」と言っています。今でもディオールの香水のアンバサダーをやっていますからね。
フェミニズム的な印象も強いんですが、女性に生まれて一番よかったと思うのはどういうときですかという質問には「いつもよ!」と言っていました。
「そう思わないときなんて、ほんの少ししかない。赤ちゃんを産めるということには感謝しかない。マッチョのように振る舞わなくてもいいことにも感謝している(笑)。その反面、女性でいることが億劫になるのは外見的なことに重きを置いているところ。たとば撮影するとき、私はちゃんとメイクアップして、ヘアスタイルを整え、美しくて高価なドレスをまとうの。自前のTシャツとデニム、ノーメイクでは仕事にならないのよ。そういうときに、男子にちょっとジェラシーを感じるかな(笑)」

ファッションのことを尋ねられるのが苦手のようで、「男性は“好きなデザイナーは誰ですか”なんて聞かれないから羨ましい」って。
MeToo運動が始まる前のハリウッドでは確かに女優さんに「そのドレス、どのブランド?」的な質問がありましたね(笑)。女性誌やファッション誌ではそれが重要だったからだと思います。さすがに今はやってないんじゃないですか?
監督の希望を満たしながら自分の希望を満たせるか
今回、この原稿を書くので、彼女の前のインタビューをチェックしたんですが、結婚についてこんなことを言っていました。
「離婚率がとても高いじゃない? 離婚がそんなに簡単にできてしまうなんて、結婚の意味がすでになくなっているんじゃないかって感じるわ。今の結婚って“これでうまくいかなければ離婚すればいいし”という軽い感じでやるのかなーって」
だからといって彼女が振付師の彼と軽く結婚したとは思えない。自分はそうはならないと思っていても、結婚は相手がいることだから仕方ないんでしょうね。彼女の離婚、調べてみたら2012年に結婚して2023年に夫の不倫が発覚、2024年3月に離婚したようですね。この旦那さん、有名なバレリーナがパートナーだったのにナタリーと恋愛関係になり結婚したと書かれていました。恋多き男性だったのかもしれない。

── 今回の作品では製作も兼ねていますね。
渡辺 『ジェーン』(16)や『ポップスター』(18)でも製作や製作総指揮で参加してますよね。オムニバス的な『ニューヨーク、アイラブユー』(09)では監督もやっている。おそらくカメラの向こうにも興味があるんだと思います。なので、こんな発言もありました。
「私の役者としての仕事は、監督のもつイメージやビジョンを満たすことなのよ。だから、他の人のクリエーションのために働いている。その中で自分自身のクリエーションを見つけていかなきゃいけない。子役時代から大人の役者になるとき、それが新しいチャレンジになった。子どもの頃は、監督に言われたとおりにやればいいだけだったから。
もちろん今も、いろんな監督のために働きたいという気持ちはあるけれど、それと同時に自分の個性や持ち味を織り込みたいという気持ちが強い。どうやれば、ボスの希望を満たしながら自分自身の希望を満たせるか。演技をするときはいつもそれを考えている」
この答え、「子役から大人の役者になるとき、どうやって乗り越えた?」という質問だったんですが、やっぱりクレバーですよね。

ちなみに好きな監督はミヒャエル・ハネケとテレンス・マリックと、このときは言っていました。この傾向だとおそらく、トッド・ヘインズも好きな監督のひとりだったのかもしれない。
── 次はどんな作品に?
渡辺 ガイ・リッチーのファンタジーアドベンチャー『Fountain of Youth』です。不老不死をもたらしてくれる伝説の命の泉を探し求める兄妹の物語のようです。ナタリーがどんな役を演じるかは明らかになっていませんが、『ソー』シリーズにも出演していたので、それほど意外ではないのかも。
文:渡辺麻紀
Photo:AFLO
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