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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

ライアン・レイノルズ

連載

第131回

ライアン・レイノルズ Photo:AFLO

ディズニーになってもFOX愛に溢れていた『デッドプール&ウルヴァリン』

── 今回はライアン・レイノルズです。彼とヒュー・ジャックマンが共演を果たした『デッドプール&ウルヴァリン』が7月24日に公開されました。

渡辺 日米同時公開のせいなのか、試写があったのは公開日の前日の夜。ギリギリでやっと観たわけですが、とてもヘンな映画でした。ひと言でいうとお金のかかりまくった予告編&プロモーションビデオを見せられた感じ。それでも全然OKだったのは20世紀FOX愛に満ち溢れていたからです。

つまり、偏愛に満ちた映画だったので私的にはすっごく楽しめました。

『デッドプール』シリーズはこれまで20世紀FOXの映画だったんですが、同社がファミリームービー中心のディズニー傘下になり、果たしてR指定のままで許されるのか?という不安がファンの間で囁かれていた。もしかしたら、ヤワな“デッドプール”になっているかもしれない……そういう事情のせいで予告編もそれをネタにしていて、「みんな、R指定でOKもらえたよ!」的な感じで、いつもよりも下品なギャグが多いような気がしていましたが、その予想を上回る流血と下品ギャグで驚きました。

『デッドプール&ウルヴァリン』

── FOX愛に満ちていたというのは?

渡辺 “オレたちはディズニーとは違う。FOXなんだ!”と宣言したような作品に思えたからです。かつてのFOX映画へのオマージュというか、それからの流れ的なキャラクターがたくさん出てきてドキドキワクワクでしたし、これからMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)がリメイクを考えている某作品のオリジナルの役者がそのキャラクターで登場したのでびっくりだし、彼らがまた驚くようなセリフまで口にする。そういうネタのオンパレード!

もちろん、FOXだったX-MENとデッドプールをMCUに合流させ、これからのMCUを匂わせるのが本作の使命だし、それもちゃんとやっているんですけど、私が気になったのはFOX色だったんです。ちなみにそれがもっとも濃厚に出ているのはエンドクレジットの映像。ここは目頭が熱くなるくらいでしたね。映画ファンはとても嬉しいと思いますよ。

『デッドプール&ウルヴァリン』

── デッドプールを演じるのはもちろんライアン・レイノルズ。そして今回の共演はヒュー・ジャックマン扮するウルヴァリンです。ウルヴァリン、『LOGAN/ローガン』(17)の最後、死んでしまったように記憶してますが……。

渡辺 そうなんですが、MCUにはマルチバースという便利なアイデアがあるので、それを使えば死んだ人が生きていても問題ない。本作ではダフネ・キーンも『ローガン』のときと同じローラの役で出演していますから。

「デッドプールは分身みたいなもの。スイッチひとつで彼になれる」

── どういうお話なんですか?

渡辺 今回は、ワケあってデッドプールが世界を救わなきゃいけなくなり、そういうことが得意そうなX-MENのウルヴァリンに手伝ってもらうというストーリー。そこにマルチバースのネタとX-MENネタが加わるんです。

このふたり、ウェポンX計画の被験者という共通点があるのがポイント。デッドプールはガンを治すために被験者となり、ウルヴァリンと同じ治癒力を手にしたという設定です。

『デッドプール&ウルヴァリン』

1作目のインタビューのときレイノルズは「デッドプールは“X-MEN”の世界にいるところが面白いし楽しい。なぜって、彼らと交流できるからだよ。厳格なX-MENと、おちゃらけたデッドプールが触れ合うのは最高に楽しくないかい?」と言っていました。実際、シリーズにはX-MENのキャラクターがこれまでも顔を出していたし、そもそもデッドプールの銀幕デビューは『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09)でしたからね。ここでデッドプールを演じたのもレイノルズでした。

今回メガホンを取ったのは、レイノルズとは『フリー・ガイ』(21)、『アダム&アダム』(22)で組んでいるショーン・レヴィです。このシリーズ、1作目はティム・ミラー、2作目はデヴィッド・リーチと、毎回監督が違うのも特徴です。考えてみたらこのレヴィもFOXの映画『ナイト ミュージアム』(06~14)シリーズでブレイクした人。言うまでもなくジャックマンもレイノルズもFOX映画で大スターになったので、FOXに恩義を感じているのかも。

ちなみにレイノルズ、劇中でサンドラ・ブロックと共演したディズニーのラブコメ『あなたは私の婿になる』(09)のことを「誰も観てねえよ」みたいなことを言っていましたね。実は大変ヒットしたんですが(笑)。

2009年の『あなたは私の婿になる』でサンドラ・ブロックの相手役として抜擢されたライアン・レイノルズ。このときはまだ知名度もそれほど高くはなかった。
Photo:AFLO

── そういうブラックなギャグはさすがデッドプールですね。で、そのデッドプール、ライアン・レイノルズの念願のキャラクターだそうですね。

渡辺 そうです。私が1作目でインタビューしたときは、20世紀FOXの重役に「キミはデッドプールのようだ」と言われてヤル気満々になったのに、その重役がクビになってしまって頓挫。以来、映画化に向けて邁進していたと語っていました。実現までには11年の歳月がかかったそうですが。

レイノルズの奥さんは『グリーン・ランタン』(11)で共演していたブレイク・ライブリーですが、彼女に「今のあなたはどっち? ライアン? それともデッドプール?」と言われるそうです。そして、「デッドプールは僕の分身のようなもので、スイッチひとつで彼になることができる。(製作の)ゴーサインが出るまで10年以上かかったから、僕でさえもライアン・レイノルズがデッドプールを演じているのか、デッドプールがライアン・レイノルズを演じているか分からなくなるくらいで」と笑っていました。

ちなみに製作がOKになったのは「オレたちがあまりにしつこかったからスタジオが根負けしたんだと思う。“分かった分かった、ギリギリの予算を出すから、もうほっといてくれ”って感じだった」からだそうです。

この1作目の製作費は5800万ドルと低い方でしたが、ワールドワイドで7億8000万ドルの興収をあげるという大ヒットになった。だから第2弾『デッドプール2』(18)では製作費が倍になって1億1000万ドル。興収は1作目とほぼ同じの7億8000万ドル。今回の3作目はまだ発表されていませんが、ヒュー・ジャックマンが出ているので製作費はアップしているかもしれませんね。

『デッドプール&ウルヴァリン』のイベント後に妻ブレイク・ライブリーをエスコートするライアン・レイノルズ。ライブリーと結婚する前は、本連載で前回取り上げたスカーレット・ヨハンソンと結婚していた
Photo:AFLO

── 本作もかなりヒットするのではないですか?

渡辺 最近、アメコミ系映画が不調というか飽きられたなんて言われてますが、これで巻き返すことができるかもしれない。レイノルズにとってもヒットしてもらわないと困るプロジェクトですよね。

また、結構苦労人のレイノルズなので、こんな発言もありました。

「オレがラッキーだと思うのは、大好きな職業をもう20年以上も続けられていること。これはお金に換算できない価値がある。俳優という職業の99%は仕事に就けないというのが現実。人気が出て、注目されるようになってプライベートがなくなったとか、スーパーに行くのさえ大変とグチる役者がいるけど、そんなこと言っちゃいけないんだ。本当にラッキーなんだから!」

── そうかもしれませんね。

渡辺 また、1作目には炎の中でほぼ全裸でアクションするシーンがあるんですが、それについてはこんなことを言っていました。

「実はあのシーン、(デヴィッド・)クローネンバーグのオレが大好きな作品『イースタン・プロミス』(07)にサウナにいたヴィゴ(・モーテンセン)がフルヌードでロシアマフィアと闘うシーンがあって、そこからヒントをもらったんだ。全裸でのアクションはひやひやするし、人間の脆さも伝わってくる。オレのアレが見えたかどうかなんかより、そのアクションを観てほしいなあ」

さすがに裸のシーンはなかったですが、R指定を満喫しまくった作品であることには違いありません。

素晴らしいと思います!

文:渡辺麻紀