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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

ブルース・ウィリス

連載

第132回

ブルース・ウィリス Photo:AFLO

惜しまれつつ俳優引退を発表した大スター

── 今回はブルース・ウィリスです。7月26日から「ありがとうブルース! 不死身の男フェス」というイベント上映があって、彼が引退する前に撮っていた4本が公開されました。『ダイ・ハード THE FIRST』(23)、『ダイ・ハード 最後の戦場』(23)、『ダイ・ハード レクイエム』(23)、そして最後の出演作だという『ラスト・ブラッド 不死身の男』(23)です。

渡辺 “ダイ・ハード”と謳われていますが、あのジョン・マクレーンではなくロス市警のベテラン刑事、ジェームズ・ナイトを演じたアクションのようです。“ダイ・ハード”が付けられているのがそのシリーズで最後の1本は軍人役のようですね。すみません! 4本とも観てないんで、どんな作品か分からなくて。

『ダイ・ハード THE FIRST』
『ダイ・ハード レクイエム』
『ラスト・ブラッド 不死身の男』

── ウィリスは2022年に、失語症を理由に引退表明しました。日本でも大きく報道された記憶があります。

渡辺 引退は67歳と、そんな高齢でもなかったのに病には勝てなかったということになるんでしょうか。私は好きな役者さんのひとりだったので残念でしたね。

── やっぱり『ダイ・ハード』(88)でファンになったんですか?

渡辺 私はTVシリーズの『こちらブルームーン探偵社』(85~89)のときです。シリーズの最後の方で、相手役のシビル・シェパードと結ばれるんですが、それから弾けちゃって、メチャクチャな展開になる。一般的には評判が芳しくなかったけれど、私はそのハチャメチャぶりが大好きだったんです。

映画ではブレイク・エドワーズの『ブラインド・デート』(87)が初の主演作。このとき「この人はスターになるな」と確信したのを覚えています。ルックスは個性的で演技は軽妙。とても魅力的でしたから。

1987年のゴールデングローブ賞では『こちらブルームーン探偵社』のブルース・ウィリスとシビル・シェパードがテレビシリーズ コメディ・ミュージカル部門で最優秀男優賞・女優賞を受賞。ブルースが若い!
Photo:AFLO

その軽妙さを活かして『ダイ・ハード』のジョン・マクレーン刑事を演じて大スターの仲間入り。このシリーズ、毎回、監督を代えて5本も作られましたからね。

── インタビューしたのはマクレーンのときですか?

渡辺 マクレーン役でインタビューしたのは4本目の『ダイ・ハード4.0』(07)でした。前作の『ダイ・ハード3』(95)から12年を経てだったので当人も驚いているようでした。

「何というか……もうクレイジーな感じだった。1作目のときから数えると、もう20年も前にスタートしたシリーズで、オレも50歳を超えたのに、まだその4作目を作っている。その事実に感銘するし、ノスタルジックな気分にも浸る。でも、やっぱりクレイジーな気分が一番強い」と言って笑っていました。

ブルース・ウィリスにとっての最大のアタリ役となった『ダイ・ハード』のジョン・マクレーン刑事。ブルースの俳優引退により、5作目『ダイ・ハード/ラスト・デイ』(13)がシリーズ最終作となった
Photo:AFLO

これはサイバーテロを扱った映画で、私は1作目の次に面白かった。これだけ時間が開いたのはやはり2001年に起きたアメリカ同時多発テロ事件のためで、ハリウッドはテロリストやテロの表現にとても気を遣っていた時期だったからです。

このときのブルースは51歳くらいで、「90分のトレーニングを週に3回、トレーナーについてやったけれど、本当に大変だった。アクションが大変だったこともあるが、年を取ったことも大きい」と年齢を嘆いていましたが、彼の場合、アクション以外でもいい映画はたくさんありましたよね。たとえば『12モンキーズ』(95)とか『パルプ・フィクション』(94)とか『アンブレイカブル』(00)とか。

ブルース・ウィリスの素顔は? イイ人エピソードあれこれ

渡辺 初めての彼への取材はその『アンブレイカブル』でした。監督のM.ナイト・シャマランとは『シックス・センス』(99)に続いてのコラボレーションです。

アクション映画に限らず、ドラマ、コメディ、サスペンスなど幅広いジャンルの作品に出演したブルース。M・ナイト・シャマラン(右)と立て続けに組んだ『シックス・センス』、『アンブレイカブル』は日本でも話題に
Photo:AFLO

私はこの映画が大好きで、リアルな世界を舞台にした異色のオリジナル・スーパーヒーロー映画。ディテールやレイアウトへのこだわりがハンパなかったし、アンブレイカブルなボディをもったことに自覚のないスーパーヒーローという設定も面白い。まだMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)なんて存在してない時期で、映画における善と悪の闘いについて、ヒーローについてどう思うかという質問に、こんな答えを返してくれました。

「映画は生まれたときから善が悪に勝つというパターンになっていると思う。最後に悪が勝つというのは稀、だよね。オレは、みんなが映画を観るのは、善はこの世に存在していることを再認識したいからだと考えている。みんなヒーローはいると思いたいんだ。それは自分が求めているものじゃないというなら、毎日のニュースを見ればいい。悪が幅をきかせているから」

この答えはとてもいいと思いましたね。また、自分の作品選びについてこんなふうに言っていました。

「オレは、自分がどの映画を選ぶべきかについて、誰かに意見を求めたりはしない。脚本を読み、それが気に入ればやってみる。もちろん、裏目に出るときだってあるし、時には自分で責任を取らないといけない立場に追い込まれる場合もある。でも、それが自分のチョイスだったんだから結果を受け入れ責任は取る。オレは自分の“声”を信じているんだ」

また、大スターになったことについてはとても真摯なことを言っていました。

「オレは毎日、自分の名声を大したものじゃないと思うようにしているんだ。必死にね。周りにいる20年来の友人がそれを教えてくれるし、オレは自分が普通の男だと思っている。みんなが見ているのはスクリーンの中のキャラクターという偽装的な姿だよ。オレはとても意図的に、そういうイリュージョンに惑わされないようにしている」

2019年に公開されたエドワード・ノートン製作・監督・脚本・主演作『マザーレス・ブルックリン』のイベントにウィレム・デフォーらとともに登壇。これが現時点での最後の公の場への登場となっているよう
Photo:AFLO

── でも、随分前に、某作品で来日してワガママ放題だったような話も聞きましたよね。

渡辺 ホテルのペントハウスでどんちゃん騒ぎをしてドンペリを20本も飲みまくったとか、でしょ? でも、その一方でイイ話もたくさんあるんですよ。

たとえば『グリーンマイル』(99)で主人公を演じたマイケル・クラーク・ダンカン。ブルースに「お前がここにいる」風なことを言われてスティーヴン・キングの同名原作を読み、あの役を掴んだ云々と言っていました。監督のフランク・タラボンにダンカンを推薦したのもブルースだったと聞いています。

『シン・シティ』(05)で共演したジェシカ・アルバは、フィルムノワールとは何かということをブルースが教えてくれたと言っていました。とても真剣だったのでびっくりしたとも言っていましたね。監督のロバート・ロドリゲスは「ブルースはフィルムノワールが大好きだし、よく理解している。だから是非ともこの役をやりたいと言ってくれたんだ」って。

ちなみにブルースは本作で、シン・シティに残った最後のグッドコップ、ジョン・ハーティガンをとてもクールに演じています。これも大好きな映画でしたね。

また、『12モンキーズ』の監督、テリー・ギリアムは彼の起用について「ブルースの方から“出演したい”という依頼があったんだ。私の出した条件は“お付きの人を最小限にしてくれれば”だった。彼は取り巻きがたくさんいることでも知られていたから。そしたらブルース、ひとりで現場に来て驚かされたよ」って。こういうお付きの人も、彼らの生活を考えてブルースが養っているんじゃないかと思ってるんですけどね。

── めちゃくちゃイイ人っぽいじゃないですか!

渡辺 そうなんですよ。悪いイメージはほとんどない。実際の彼は小柄で精悍な感じ。最後の取材は確か『RED/レッド』(10)で、このときは55歳でしたが、同じように精悍な感じだった。体型が最初の『ダイ・ハード』の頃と変ってないからだと思います。にもかかわらず、引退せざるを得なくなって本当に残念です。

文:渡辺麻紀