海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ティム・バートン
連載
第134回
ティム・バートン Photo:AFLO
新作『ビートルジュース ビートルジュース』はバートンらしさがいっぱい!
── 今回はティム・バートンです。彼の新作『ビートルジュース ビートルジュース』が9月27日(金)に公開されます。映画は『ダンボ』(19)以来になりますか?
渡辺 Netflixでドラマシリーズとして『ウェンズデー』(22)を作りましたが映画は5年ぶり。彼がブレイクした記念すべき作品『ビートルジュース』(88)の続編で、しかも驚愕の大ヒット! 何と全米公開時のウィークエンドの数字が1億1000万ドル!! ブロックバスターの映画どころか、オタク度満載の映画なのにどうしちゃったんだろうとびっくりでした。でも、言うまでもなく素晴らしいことです。おそらくティムくんも喜んでいると思いますよ。
── 映画はいかがでしたか?
渡辺 もう最高でした(笑)。めちゃくちゃティム・バートンしている映画になっていて、オリジナルを観ている人は10倍楽しめるし、初めての人も楽しめるはずです。
何がスゴいって、彼の好きな要素がこれでもかとぶち込まれているところ。『カリガリ博士』的な美術からモデルアニメ、ハロウィン、マリオ・ヴァ―バだってある。ティムくんが驚くほど活き活きしている感じ。彼の幸せオーラが伝わってきました。ファンとしては「ティムくん、よかったね!」と声をかけたいくらい。彼のリハビリ映画としては最高なんじゃないでしょうか。
── リハビリなんですね(笑)。
渡辺 そうです。そのリハビリ作品で大ヒットなんですから、興行的にも最高のリハビリですよ(笑)。
ティムくんはそのときの心情や精神状態などが結構映画に反映されてしまうタイプの監督だと思います。『ウェンズデー』のときは、彼が好きな題材を好きに料理している感覚が伝わってきて「らしくてキュートなドラマ」になっていましたが、『ダンボ』はまるでティムくんらしさのない作品でびっくりしました。みんなとは違う外見のせいでいじめられるキャラクターなんて、ティム・バートンにぴったりにもかかわらず、ですからね。ダンボはかわいかったんですが、当たり障りのない映画になっていて、なぜバートンに監督を頼んだんだろうと思ったくらいで。
当時は、ディズニーにいろいろ注文を出されたせい?なんて邪推していたんですが、これが本当だったのか、しばらくして「ディズニーとは仕事をしないだろう」みたいなことを言っていた。それを裏付けるかのように本作にはハロウィンのコスチュームのくだりで「ディズニーは除外!」なんてセリフが出てくる。大ウケしちゃいました。
ちなみにディズニー映画に関して、モノクロのモデルアニメ映画として自身でリメイクした『フランケンウィニー』(12)のときにこんな面白い発言をしていました。「ディズニーからもっと明るくしろとか言われなかった?」という質問の答えです。
「NO。なぜなら、『フランケンウィニー』は僕の心の中では、とても伝統的なディズニー映画だという自信を感じていたからだよ。ディズニー映画は『バンビ』(42)にしろ『ライオン・キング』(94)にしろ、ある意味、そんなに違わない問題を扱ってきた。人々は忘れてしまったようだけど……たぶん、ディズニーの人たちだって忘れちゃってるかもしれないな(笑)……最初から、つまり『白雪姫』(37)のときから、なぜ人々がディズニー映画を覚えているかというと、ディズニー映画にはある種の危険な要素や暗さがあるからなんだ。そういったものすべてをディズニー映画から削除してしまうと、何のパワーも持てなくなってしまう」
つまり、『フランケンウィニー』に描かれている“死”や“モンスター”や“不寛容”は、実はディズニー映画にもしっかり存在していると言っているんです……ということは『ダンボ』では、それを削除されてしまったのかもしれませんね。
最新のパートナーはイタリアの美熟女モニカ・ベルッチ!
── でも、バートンはディズニーの出身なんですよね?
渡辺 そうです。ウォルト・ディズニーが創設したカルアーツ(カリフォルニア芸術大学)の出身で、同級生に元ピクサーのジョン・ラセターや、『アイアン・ジャイアント』(99)、『Mr.インクレディブル』(04)のブラッド・バードがいる。バードの『世にも不思議なアメージングストーリー』の中の短編『ワンワン騒動記』(87)では、ティムくんがキャラクターデザインをやっている。ちなみに音楽はダニー・エルフマンです。
彼らの作品には、彼らが学んだ教室の番号“A113”がどこかに隠されているというのが有名なトリビアですね。ラセターとバードの関係作には必ず登場している番号ですが、ティムくんの場合はちょっと分かりません。ピクサーでは仕事、してないですし、私は気づいてないですね。
卒業後はみんなと同じようにディズニーアニメーションに入りアニメーターをやっていたんですが、そこでモノクロの短編モデルアニメ作品『ヴィンセント』(82)を作り、後の長編『フランケンウィニー』の原型になる短編のモノクロ実写映画『フランケンウィニー』(84)を撮りました。でも、なぜか長編デビューはワーナーなんですよ。理由は分かりません。
で、ディズニーに帰ってきたのが製作と原案、キャラクターデザインを担当した『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(93)。このとき初めてインタビューしたんですが、久々にディズニーに戻っていかがでしたか?と尋ねると、「昔は“プリズナー№6”だったけど、今回は“№2”くらいにまで出世していた」と笑っていました。あの英国の不条理ドラマ『プリズナー№6』(67~68)で表現するあたり、さすがだなとハートを掴まれてしまいましたね。
── 期待を裏切らなかったんですね(笑)。
渡辺 そうです。やっぱり価値観が常人とは異なるところがあって、子どものころからいろんな葛藤があった人だと思います。たとえば彼はモンスターLOVEじゃないですか? 『フランケンウィニー』のインタビューのときはこう言っていました。
「僕はモンスター映画が怖かったことは一度もないんだ。なぜってモンスターたちはいつももっともエモーショナルなキャラクターだと感じていたからだよ。少なくとも往年の映画ではね。今はちょっと違うかもしれないけど、やっぱりエモーショナルなんだ。そんな僕にとって現実の方が怖かった。モンスター映画はウェルカムで、親戚や家族が訪ねてくる方が僕にとってはホラーなんだよ(笑)」
── バートンらしいですね(笑)。
渡辺 かわいいです、本当に(笑)。で、もうひとつ『ビートルジュース ビートルジュース』でチェックしなきゃいけないのはモニカ・ベルッチです。ご存じの方も多いと思いますが、ティムくんの今の恋人は何と、あのイタリアのセクシー熟女、モニカさんなんですよ!
どこで出会ったのかは知りませんが、すでに2年はつきあっているらしい。本作ではマイケル・キートン扮するビートルジュースを追いかける元妻である魔女役。このシーンはマリオ・バーヴァにオマージュを捧げてイタリア語&モノクロで撮られています。何でもティムくんからオファーされてこの役を演じたそうなんですが、私はビートルジュースがティムくんに見えちゃって……。
── バートンがモニカに追いかけられているということですか?
渡辺 『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(07)で当時、ティムくんのパートナーだったヘレナ・ボナム=カーターがこんなことを言っていたんです。
彼女が演じたのはミートパイ店を営む大家さんで、最後にはジョニー(・デップ)演じるスウィーニー・トッドから火の中に放り込まれるんですが「ティムったら、ずっとこのシーンを楽しみにしていて“さあ、いつになったらお前をオーブンに放り込めるかな、ヒヒヒヒ”と毎日言っていたのよ。ところが撮影の前に私の妊娠が分かり、そのシーンはスタントダブルがやることになったわけ。子どもに助けられたのよ、私(笑)」って。
ほら、ティムくんって今の心情が映画に投影されているはずだって言ったじゃないですか? 私はこのときの彼は本当に彼女をぶち込みたかったような心境だったのではないかと……。だから今は、モニカに追いかけられているような気分になっているのかもしれない。だってもう2年も付き合ってますから、そろそろ……。
── 深読みしますねー(笑)。
渡辺 はい! それに、ティムくんの次回作になるだろう映画が『妖怪巨大女』(58)のリメイクなんですが、これはUFOに遭遇したことで50フィートの巨人になった女性が、浮気中の旦那を懲らしめるという物語。私のヨミではおそらくその女性はモニカが演じるんだと思います。今回はその予行演習みたいな感じすらしましたから。
ティムくんも先日、66歳になりましたが、相変わらず女性にはモテまくりです。かわいい人はいくつになってもかわいいということですね(笑)。
文:渡辺麻紀