海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ブラッド・ピット
連載
第135回
ブラッド・ピット Photo:AFLO
仲良しジョージ・クルーニーとの共演作『ウルフズ』が配信中
── 今回はブラッド・ピットです。AppleTVで彼とジョージ・クルーニーが共演した『ウルフズ』の配信が始まっています。当初は劇場公開してから配信という予定だったのに、公開は中止になり配信のみになりました。どうしたんですか?
渡辺 いろいろと大人の事情があるんでしょうね。このふたりの共演に、監督はトム・ホランド主演の『スパイダーマン』シリーズで株を上げたジョン・ワッツですから劇場公開してもいいと思うんですけど、日本では配信だけになってしまいました。
まだ観てないんですが、ノリはクライムコメディのようです。ニューヨークの裏社会でフィクサーをやっている男が、女性検事のホテルのスウィートルームで起きた男性死亡事件の後始末を任される。まず業界一を自負するジョージが来て仕事をしていると、そこに同じくナンバーワンを自称するブラピが現れる。つまりダブルブッキングされてしまったわけです。何かと反発するふたりだけれど、ドラッグを巡るトラブルも起こり、手を組まざるを得なくなる……というようなストーリーです。彼らの共演だからこそ楽しい映画になりそうな予感ですよね。
── クルーニーとブラピは本当に仲がいい感じがします。
渡辺 ブラピとジョージが『オーシャンズ12』(04)で来日したときの記者会見にジョージが首に包帯を巻いて現われて、こう言ったんです。「聞きたいことはたくさんあるだろうけど、節度を守って対応してほしい……もちろん、この首についてだよ」って。ブラピはジェニファー・アニストンとの離婚を発表した直後で日本に逃げてきた。だから記者会見のときも「映画に関する質問だけ」というお触れが出てました。日本人は真面目というか従順というか、それをきっちり守りますからね。で、ジョージはそういう小芝居をして会場を見事に煙に巻いていました。そんなふたりの共演なんてとても楽しそうじゃないですか?
── おっしゃるとおりです!
渡辺 それにジョージは独身時代、人生の優先順位のトップは友情と言っていました。ブラピにもこんなことを尋ねたことがあります。「女優さんと一緒のときより、男優と一緒の方が輝いて見えるんですが」って。答えは「僕はストレートだよ(笑)。おそらく、男同士の友情映画が続いたからそう見えるだけで、偶然だと思うな。ロマンチックな映画ではなく、そういう映画を選ぶようになったのは、自分の立場を冷静に受け入れられるようになったから。同時に自分の目標もクリアになって、いい演技ができるようになったからかもしれない……いや、実は潜在的なゲイってことも考えられるのかな(笑)」って。
── 最近のブラピはアンジーとの離婚問題でちょっと株が下がった印象もありますよね?
渡辺 離婚訴訟が起きたのが2016年で、今でもまだ続いている。法的に独立する年齢になった子どもが、自分の名前から“ピット”を外したりしているようなので、ブラピは辛いでしょうね。離婚の原因はブラピのDVがアンジーだけから子どもにも及んだからなど伝えられていますけど、どうなんでしょう? 私はブラピくんのファンだし、何度か取材した経験からいうとそんなタイプとは違うような感じがしましたけどね。でも、アンジーもウソをついたり、誰かを貶めようとする人間には全然見えなかったので、その辺のことはふたりというか家族だけしか分からないでしょうね。
── 確かにブラピはいい人っぽいですよね。
渡辺 彼と一緒に仕事した人、たとえば『スパイ・ゲーム』(01)で共演したロバート・レッドフォードは「とても人気者になったのに『リバー・ランズ・スルー・イット』(92)のときとまるで変わってなくて驚いた。本人の努力の賜物だと思う」みたいなことを言っていましたし、そもそもジョージが仲いいわけですから。彼の初来日は『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(97)でしたが、どこかに行きたいということもなくずっとホテルにこもっていて、最後の日はお世話をしてくれた配給会社の人にプレゼントまでしてくれて一同が大喜びしていました。
ちなみに、某配給会社で某女優が来日したとき、すっごく大変だったものの最後の日に立派な花束を送ってくれてみんな感動していたら、後日、請求書が届いたという話もありますからね。
── それは誰か気になります(笑)。
早くから製作側の才覚も発揮、プロデューサーとしても大活躍
渡辺 ブラピくんはプロデューサーとしても大活躍していて、米国でメガヒットとなった『ビートルジュース ビートルジュース』(公開中)も彼のプロダクション、プランBが共同製作。エグゼクティブプロデューサーのひとりとして名前がクレジットされている。プロデューサー業についてはこんなことを言っていました。
「個人的にとても楽しんでいる。というのも映画の初期段階からかかわることができるから。そして、自分たちの生きる時代についての映画が作れるからだ。スタッフやキャストをサポートしつつ、パズルのピースを組み合わせていくのは、僕にとってはとても大きな喜びだ」
これはプロデュースも担当した『ジャッキー・コーガン』(12)のときの言葉ですが、まだ製作に手を出していない『スパイ・ゲーム』のときからこんなことを言っていました。
「僕にとっては、物語を語るフィルムメーカーが何よりも大切。僕は、映画というメディアの限界に挑む人たちと一緒に働きたい。あるいは、オーセンティックな映画を作る巨匠たちだ。それ以外はまったく興味がない。だから、よく書けている脚本であってもフィルムメーカーが個性的じゃないという理由で(出演を)断ることもあるし、逆に脚本の完成度が低くても魅力的なフィルムメーカーだから引き受ける場合もある」
こういう言葉を聴くと、やはり当初からプロデューサー的な感覚をもっていたんだなあって思いますよね。
ちなみにプロデューサーとしてのブラピについて『ジェシー・ジェームズの暗殺』(07)や『ジャッキー・コーガン』で組んでいるアンドリュー・ドミニクは「恐れ知らずの上にチャレンジャー。しかも遊び心ももっているから一緒に組む相手としては最高なんだ」と言っていました。ブラピは彼の『ブロンド』(22)も製作してますから。
『セブン』(95)から何度も組んでいるデヴィッド・フィンチャーは『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(08)のとき役者としての彼に対して「常に正直に接している。『ベンジャミン・バトン』でもメイクに6時間かかり、そのメイクのまま10時間の仕事をこなさなきゃいけない、それも150日間。それでも彼は“やりたい”と言ってくれたから……たぶん、マゾヒストなんだと思うね」と笑ってました。
一方、ブラピ自身は本作の一番大変だったところを「算数をしっかりすること。老人で生まれ、年を重ねながら若返っていくキャラクターだったから常に計算していたんだ。外見は72歳だけど本当は12歳だからって感じで」とメイク以外のことを言っていました。メイクの覚悟はできてていたから大丈夫だったのかも。これでアカデミー主演男優賞にノミネートされたから、やってよかったんじゃないですか。
── アンジーとの離婚問題で仕事にも支障が生じているんですか?
渡辺 いや、そんなことはまったくないんじゃないでしょうか。待機作がザクザクあるからですが、個人的にもっとも期待しているのは2025年公開予定の『F1』です。若手ドライバーの指導をすることになった引退ドライバーを演じているようで、監督はジョセフ・コジンスキー、製作はジェリー・ブラッカイマーという『トップガン マーヴェリック』(22)のチームだから、そのメガヒット映画と重なる。これはとても楽しみです。
プロデュース作もたくさん控えていて、その中には個人的にめちゃくちゃ期待しているNetflixの『三体』の第2シーズンもあれば、ポン・ジュノがオスカー受賞以来、初めてメガホンを取るSF『ミッキー17』もあって大忙しです。出演作は『F1』だけですが、プロデューサーとして大活躍という感じ。がんばれブラピくん!と言っておきましょう!
文:渡辺麻紀
Apple Original Films『ウルフズ』
Apple TV+にて配信中
画像提供 Apple