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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

トッド・フィリップス

連載

第136回

トッド・フィリップス Photo:AFLO

『ジョーカー』は観た後、みんなで意見を交わしたくなる

── 今回は、現在公開中の超話題作『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の監督&共同脚本、トッド・フィリップスです。1作目は日本でも50億円超えの大ヒットとなり、アカデミー賞では主人公のアーサー/ジョーカーを演じたホアキン・フェニックスが主演男優賞を獲得しました。

渡辺 考えてみたら、『ダークナイト』(08)でジョーカーを演じたヒース・レジャーも助演男優賞を獲得してましたね。コミックからですが、リアルに演じると演技力が試されるキャラクターなのかも。

── 通称『ジョーカー2』と呼ばれている本作ですが、賛否両論のようですね。麻紀さんはどっちでした?

渡辺 私は“賛”ですね。“否」の人が何を求めていたのか分からない……というか、1作目にみんな衝撃を受けたわけですが、好きな映画ではあったものの、私はそこまで衝撃的ではなかった。どこが衝撃的だったのかイマイチよく分かってない。今回も「期待したのとは違う」と憤っている人がいるようですが、どんな映画を期待していたのか、これもピンと来てない。

── なるほど(笑)。

渡辺 でも、いろんな意見が出るのはすごくいいことだと思います。そういう映画こそ、最近はあまりない。映画を観た後、みんなで意見を交わしたくなる。そういう意味では、間違いなく観る価値のある作品だと思いますね。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』

── 謳い文句のひとつが「衝撃のラストに備えろ!」となってますが、やはり衝撃的?

渡辺 そうですね。でも、これしかないだろうというラストで、私はOKでした。前回はアーサーがジョーカーになってみんなに受け入れられ、今回はジョーカーになったアーサーが自分に戻ろうとする話です。レディ・ガガ扮するジョーカーの熱狂的なファンが出てきて、いまどきの“推し”文化を思い出させました。ファンはその対象を推しつつ疲労させるという諸刃の剣的存在だって――つまり、いろんな見方ができる。いいと思いますね。

── トッド・フィリップスのインタビューはやはり1作目の『ジョーカー』のときに?

渡辺 それが、調べてみたら『スタスキー&ハッチ』(04)の取材をしたことを思い出し、もしかしたらそこでインタビューしたかもしれない。この作品、取材をしたもののビデオスルーになっちゃったので原稿を書いていない。だから記憶が薄いんです。

トッド・フィリップスがその名を轟かせたのが、『ハングオーバー!』シリーズ全3作。シリーズのメインキャストの3人、左から、ブラッドリー・クーパー、ザック・ガリフィアナキス、エド・ヘルムズ、監督
Photo:AFLO

なので、やっぱり『ジョーカー』ですね。インタビューは公開前だったんですが、すでに前評判も良く上機嫌でした。DCコミックの有名なヴィランのひとり、ジョーカーをリアルなキャラとして描いた理由についてはこう語っていました。

「今のハリウッドではコミックブック映画ではない映画を作るのは難しい。だって大ヒットして、みんなが大好きだから。それは悪いことではないんだけど、そういう壁を突き破れないだろうかと考えたんだ。そしてある日、僕が子どもの頃観て大好きだった映画について考えた。70年代のキャラクター・スタディの映画(※キャラクター描写を中心にした作品)、『セルピコ』(73)や『タクシードライバー』(76)、『カッコーの巣の上で』(75)、『キング・オブ・コメディ』(82)などについてだよ。こういう映画は今ではもう作られないだろうし、もし作られても誰が観てくれるんだろうかということになる。だから僕はこう考えた。“コミックブックのキャラクターについての物語にすれば、みんな観てくれるかもしれない”とね」

結果的には大正解だったわけですよね。アメリカのみならず、日本を含めて世界中で大ヒットしたんですから。

ジョーカー役をホアキン・フェニックスであて書き

── コミックのキャラクターっていろんな設定があって、自在にいじれないんじゃないですか?

渡辺 その辺はいろいろと調べてジョーカーというキャラクターに白羽の矢を立てたようです。

「コミックおたくではなかったけれど、ジョーカーはとても興味深いキャラクターだと子どもの頃から思っていた。で、今回ちゃんと調べたら、彼には正式なオリジナルのストーリーがなかったんだ。もちろん、お約束はあるけれど、それさえ守れば自由に物語を綴ることができる。実際、ワーナーとDCに掛け合ったら、製作費を抑えることでOKを出してくれた」

ちなみに製作費は5000万ドルくらい。撮影中、ワーナーやDCから口出しはなかったそうです。「ワーナーは、僕らにこれを作らせてくれて本当にありがたかったし、とても寛大で大胆だと思う」と言っていました。

── 『ジョーカー2』の製作費はもっと高いんですか?

渡辺 ウワサでは1億9000万ドルですね。詳しい内訳は分かりませんが、ホアキンも1作目のときは出演料450万ドルくらいでしたが、オスカー俳優になってアップして今回は2000万ドル、レディガガも1200万ドルといわれてます。5年前とは経済事情も大きく異なりますから。

前作『ジョーカー』撮影中のトッド・フィリップスとホアキン・フェニックス
Photo:AFLO

── ホアキン、一挙に4倍ですか!

渡辺 彼の貢献度、めちゃくちゃ高いですからね。それに、そもそもフィリップスは彼で脚本を当て書きしたんです。

「脚本はホアキンを念頭に置いて書いた。というのも、これまでジョーカーを演じた役者たちには共通点がひとつある。彼らは恐いもの知らずなんだ。ヒース・レジャー、ジャック・ニコルソン、ジャレッド・レトもね。彼らは大胆不敵にジョーカーに挑んだ。ある世代のそういう役者となると、ホアキンくらいしかいないと思わないかい? それに彼はハンパな役作りはしない。全力で役に挑む。だから彼以外は考えなかった」

── それは大正解だったわけですね。それにしても、1作目はなぜあんなに大ヒットしたんでしょう? R指定のダークな映画なのに。

渡辺 フィリップスはアーサー/ジョーカーをこう分析していました。

「僕にとってのこの作品の核は、共感することについてなんだ。社会的に無視された個人を僕たちはどう見ているのか? もし違うレンズを通したらどうなるのか? 僕にとってアーサーは、歩道の割れ目に裂いている小さな美しい花なんだ。それに気づかず踏みつぶすのではなく、水をやって育てたらどうなるだろうということ。たぶん、僕たちがみんなに見せたいのは彼のハートブレイク(悲痛な想い)なんだと思う」

その例として、バスの中で子どもを笑わせようとしていたアーサーに、子どもの母親が「止めて」というシーンを挙げていました。もしそのとき母親が「ありがとう」と言っていればアーサーは幸せな1日を送れたのにって。

── ありましたね! そのシーン。覚えてます。

渡辺 とはいえ本作のホアキン、ルックスが怖いですから“美しい花”には見えないかなー。だからジョーカーになっちゃう方に説得力がある。

『ジョーカー2』イギリスプレミアのレッドカーペットでホアキンやレディー・ガガと
Photo:AFLO

── この『ジョーカー』、3部作ってありえるんですか?

渡辺 いろんな意味で絶対にないと思います。まあ、1作目のときも「続編はない」と言っていたんですけど、やはりあれだけヒットしちゃうと欲が出るというか、続編が作られるのがハリウッドの宿命なので。今のフィリップスは、みんなにいろいろ言われたり無視されたりでアーサーの気分かもしれない。次はお得意の軽いコメディなどを撮ってリハビリするといいと思います!

文:渡辺麻紀

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
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