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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

ニコラス・ケイジ

連載

第137回

ニコラス・ケイジ

最新作は、自称“キャリアの中で五指に入る名脚本”

── 今回はニコラス・ケイジです。彼が主演したブラックコメディ『ドリーム・シナリオ』が公開されます。これはどんな映画なんですか?

渡辺 ニコケイ演じる地味めな大学教授がなぜかみんなの夢の中に現われ、あっという間に時の人となる。最初はただ夢の中を通り過ぎるだけの登場だったのに、あるときから邪悪な存在になり、今度はみんなに忌み嫌われるようになる……という今どきの社会を映し出したような作品です。確かにジャンルとしてはブラックコメディなんでしょうが、むしろ私はホラーっぽかった。監督&脚本はノルウェー出身のクリストファー・ボルグリです。

『ドリーム・シナリオ』

ニコケイは脚本をとても気に入って出演したようです。何でも自分のキャリアの中で五指に入る名シナリオ、と言っていて、確かにアイデアは面白い。

── 残りの4作はどんな作品?

渡辺 コーエン兄弟の『赤ちゃん泥棒』(87)、自身がアカデミー主演男優賞を獲得したマイク・フィギスの『リービング・ラスベガス』(95)、チャーリー・カウフマンが脚本を書いたスパイク・ジョーンズの『アダプテーション』(02)、そして吸血鬼ホラー、『バンパイア・キッス』(89)を挙げていたそうです。『リービング・ラスベガス』を除くとブラックコメディなので、そういう作品が好みということなんだと思います。ニコケイはおたくなので何となく納得です。

キャリアの中で五指に入る脚本、のうちの1本、『バンパイア・キッス』
Photo:AFLO

── ケイジはやっと借金を返済したと聞きました。

渡辺 そういうニュース、流れていましたよね。ビジネスマネージャーのよくないアドバイスが財政難を招いたとニコケイ自身は言っているようです。彼には浪費癖があるんですが、それをセーブさせなかったということもあるのかもしれない。借金は報道によるとおよそ8億円。自己破産という方法もあったようですが、彼はちゃんと返済する方を選び、山のように映画に出演して完済した。

彼にとって8億円って、それほど凄い数字じゃないと思ってしまうのは、人気絶頂のときのギャラが2000万ドル(およそ30憶円)だったからです。『60セカンズ』(00)、『ウインドトーカーズ』(02)、『ナショナル・トレジャー』(04)などです。で、それを湯水のように使いまくった上に借金までして、2013年から24年まで、40本以上のB級映画に出演してどうにか返済した。それらの作品のギャラはちょっと分からないんですが、1億円に満たないのかもしれない。

── ケイジの取材は?

渡辺 結構してますね。最初はリドリー・スコットの『マッチスティック・メン』(03)、その後『ナショナル・トレジャー』でやったようなやらなかったような、覚えてない(笑)。『ゴーストライダー』(07)や『魔法使いの弟子』(10)などでもやりました。

ニコケイは紛れもないオタクです(笑)。『ザ・ロック』(96)のとき、確かエルビス・プレスリーのレコード等を集めている博士を演じていたし、『ハネムーン・イン・ベガス』ではプレスリーのコスプレ大会に出ていた。プレスリーの大ファンだったわけで、それが嵩じて彼の娘リサ・マリー・プレスリーと結婚したんですよ。

『ハネムーン・イン・ベガス』でプレスリーコスプレ中のニコケイ
Photo:AFLO

── それは徹底してますね。

渡辺 それに、彼はとてもアメコミが大好きで、ケイジという名前もアメコミ『パワーマン』の主人公ルーク・ケイジからいただいているのは有名ですよね。で、大好きだというアメコミヒーローを演じた『ゴーストライダー』のときは、ボツになった企画、ティム・バートンの『スーパーマン』についてこう語っていました。

「僕には『スーパーマン』を契約していたにもかかわらずダメになった過去がある。そうだ、ここではっきり言っておきたいことがあるんだ。当時、企画がキャンセルになったにもかかわらず、ギャラを全額取ったと報道されたけれど、それはウソだ。ものすごくディスカウントした額をもらっただけで、全額だなんてあり得ないよ。そのディスカウントのギャラは準備に時間をかけたことに対する報酬だから正当だと僕は思っている。

で、ワーナーが作った最新の『スーパーマン』(『スーパーマン リターンズ』(06))を観たとき、そうか、スタジオが望んでいたのは伝統的でノスタルジックな作品だったんだと理解したんだよ。僕とティム(・バートン)のバージョンはそれとは真逆だったから」

ちなみにその映像は『ザ・フラッシュ』(23)で観ることができるんですが、続けてこう言っています。

「もちろん、当時は大きなショックだったけど、今はそれでよかったのかもしれない。なぜってこの『ゴーストライダー』の方が僕にとってはよりパーソナルな作品だから。いや、本当にこの役を演じられて嬉しいんだ。『ゴーストライダー』はコミックブックの熱狂的なファンじゃないと知らないだろうから、実写映画化されること自体、めちゃくちゃ嬉しい」

人々はときどき、彼が凄い役者であるということを忘れているんじゃないか

渡辺 その『ゴーストライダー』の魅力についても語ってくれました。

「見てくれはポップコーンムービーだけど、中身は何世紀にわたって存在する哲学的で古典的なテーマだ。もしディズニーがゲーテの『ファウスト』を実写化しようとしたら『ゴーストライダー』みたいになると思うよ、僕は。まあ、ディズニーが『ファウスト』なんてありえないんだけどさ」って笑っていました。

また、「世の中にはバットマンタイプとスーパーマンタイプの2種類の人間がいると考えている。僕はバットマンタイプだ」って。そして「息子にスーパーマンの名前をつけたのは、キャル=エル(カル=エル)という響きが気に入ったのと、もっとポジティブなスーパーマンタイプの人生を歩んでほしかったから」と言っていましたね。

2024年7月、イタリア・ヴェネチアでバカンス中のニコケイ。隣にいるボディガード、のような黒ずくめが息子のキャル=エル
Photo:AFLO

── やっぱりおたくっぽい言葉が多いですね、ケイジ(笑)。

渡辺 別にサービスじゃなく、やっぱり根っからのおたく気質なんだと思います。彼が声優デビューした『スパイアニマル・Gフォース』(09)のときはこんな発言をしていました。

「僕はメル・ブランクのファンだ。ルーニー・テューンズを観て育ったからだよ。彼は凄い。だってバックス・バニー、トゥイーティー、ダフィー・ダック、エルマー・ファッド、ヨセミテ・サム、ポーキー・ピッグ……彼らの声をすべてやったんだからね! だからこのオファーが来たとき、自分の声を変えてやってみようと思ったんだ。とてもワクワクしたよ」 ニコケイは声にもこだわる人で、それは『キック・アス』(10)で組んだマシュー・ヴォーンの言葉からも分かります。

「ニックはディープなコミックファンで、本作の世界観については150パーセント分かっていた。だから、初めて衣装を身につけたとき“アダム・ウエスト(往年のバットマン役者)の喋り方が合うね”と言って、そういうセリフ回しにしているんだ。それは彼のアイデアであって、僕は天才的とまで思った。実際、素晴らしい演技を見せてくれて、僕は本当に感動した。あのキャラクターに対する理解、演技の引き出しの多さ、その奥には驚くべき知識がある。人々はときどき、彼が凄い役者であるということを忘れているんじゃないかな」

パリの蝋人形館でご満悦なツーショット
Photo:AFLO

そうなんです。実は凄い役者なんです、ニコラス・ケイジは! やっと借金を返済したので、本来の“演技派ニコケイ”に戻ってくれるんじゃないかと思いたいのに、あと数本で引退すると発言したというニュースもありました。新作が目白押しなんですけどね。

その中で、本人が一番楽しみそうなのは『スパイダーマン スパイダーバース』(19)で声を担当したスパイダーノワールを主人公にした実写ドラマ。30年代のニューヨークを舞台に、かつてスーパーヒーローとして活躍していた年老いた私立探偵を描くそうです。プライムビデオのドラマシリーズなので、完成したらすぐ日本でも観られますよね、きっと。めちゃくちゃ楽しみです!

文:渡辺麻紀

『ドリーム・シナリオ』
11月22日(金)公開
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