海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
オースティン・バトラー
連載
第138回
オースティン・バトラー Photo:AFLO
そこに佇んでいるだけで美しい『ザ・バイクライダーズ』
── 今回はオースティン・バトラーです。『ザ・バイクライダーズ』という作品が11月29日(金)から公開されます。共演は『ヴェノム ザ・ラストダンス』が公開されたばかりのトム・ハーディ。監督はインディペンデント界で高い評価を得ているジェフ・ニコルズです。
渡辺 60年代のシカゴに実在したバイク集団の日常を撮り写真集にしたカメラマンがいて、その写真集のタイトルが『ザ・バイクライダーズ』というようです。ハーディが演じているのはその集団を束ねるボス、バトラーはそこに所属しながらも一匹狼的なスタンスを守る孤高のバイカー、ベニーを演じています。
ニコルズはこれまで、マシュー・マコノヒーが再ブレイクのきっかけとなった『MUD―マッドー』(12)や、主演女優がオスカーにノミネートされた『ラビング 愛という名前のふたり』(16)などを撮ってきた監督で、地味ながら高い評価を受けてきています。
私はもっとサービスしてほしいなあと思ってしまう監督のひとりなんですが、今回は意外とサービスしていた。
── じゃあバイクのチェイスアクションとか?
渡辺 いや、そういうんじゃなく、オースティンをとてもきれいに撮ってくれているんです。そこに佇んでいるだけで美しい(笑)。
確かにハンサムな役者ではあるんですが、ブレイクした『エルヴィス』(22)ではリーゼントヘアのエルヴィス・プレスリーだし、次に出演した『デューン 砂の惑星PART2』ではスキンヘッドのサイコパスですからね。素顔をじっくり拝めるチャンスが少なかっただけに、今回は嬉しかったわけです。
── なるほど!
渡辺 それはどうもボス役のハーディも同じだったのか、バトラーを彼の奥さん役のジュディ・カマー(『最後の決闘裁判』(21))と取り合うという、BL女子的にもかなりOKな展開なんですよ。『ヴェノム』でのハーディのお相手はあのアグリーなエイリアンですから、それとは180度異なる美しさ。心なしかハーディも嬉しそうな感じで(笑)。
── そういう邪な楽しみ方もできるわけですね!
渡辺 そうです(笑)。
── インタビューはやはり『エルヴィス』のときですか?
渡辺 はい。全体的な印象はとても真面目な人、というものでした。この映画と運命的な何かを感じたようで、オーディションを受けていない段階から熱心にリサーチを始めたと言っています。
「プレスリーのあらゆる映像を観て、あらゆる関連本を読んだのち、僕が『アンチェインド・メロディ』を歌っているビデオをバズ(・ラーマン監督)に送ったんだ。それが彼の目に留まったようで連絡をもらい、彼のいるニューヨークに会いに行った。それから5カ月、バズと僕のふたりでプレスリーの人生を掘り下げていったんだ」
── それがオーディションだったということですか? オーディションが5カ月続いたの?
渡辺 最終的にスクリーンテストをやって決まったそうですが、バズ・ラーマンが彼を大層気に入って、5カ月間も離さなかったわけですから、その時点で決まったようなものだったんじゃないでしょうか。オースティン、男子にも好かれるタイプなんですよ、きっと(笑)。
── な、なるほど!(笑)
渡辺 『ザ・バイクライダーズ』を観ると、瘦身で顔立ちも繊細なんですが、ちゃんとカリスマがある。ちょっと近づきがたい感じ。そういう雰囲気をもっているからプレスリーを演じられたんだとあらためて思いました。監督のニコルズも彼のことを相当気に入ったとしか思えなかったから。
── それはやっぱり観たいです!
渡辺 でしょ? 私は別にプレスリーのファンではないので、彼に思い入れはないんですが、この作品の後、『プリシラ』(24)という、プレスリーの奥さんの方を主人公にしたソフィア・コッポラの映画があって、そこでのプレスリーは驚くほどへなちょこ。カリスマ性がゼロの男でした。意図的にそういうふうにしていたのかもしれませんけど。
ジェームズ・ディーンに似てる!?「うん、わりと言われる」
── 『エルヴィス』では彼、アカデミー主演男優賞にノミネートされましたよね。
渡辺 だって、驚くほど熱心に役作りやってますからね。エルヴィスの声を作るにあたっても「50年代から70年代まで、どうやって声が変化していったか? 僕は何時間も彼の声を聴き、自分の声を録音して聴き直し、どうやったら彼の声に近づけるのか、トライ&エラーを繰り返した。ただただ僕はすべてを正確にやろうとしたんだ」ですから。
エルヴィスの特徴的な動きやダンスについても、「なぜ彼がそういうふうに動くのか、その理由を素晴らしいコーチと見つけようとした。身体の中から外に向けて、身体の動きを作っていくんだ」と言ってました。なんかよく分かりませんが(笑)。
── はあ、本当に真面目ですね。
渡辺 エルヴィスと自分の共通点を見つけたのをきっかけに、役作りにのめり込んでいったようで、こんなことを言っていました。
「エルヴィスは23歳のときに母親を亡くしていて、僕も同じ年齢で母を亡くしたんだ。彼は母親と親友のように仲が良かったんだけど、それは僕も同じ。だから僕には、エルヴィスの悲しみがとても分かる。彼がどう感じているかも理解できる。そういう共通点を見つけたとき、それが彼を演じる上での大きなカギになると思ったよ」
それにオースティン、おばあちゃんっ子のようで、おばあちゃんがプレスリーをよく聴いていたと言っていました。
── いい子オーラもハンパないですね(笑)。
渡辺 しかも仕事に対しては真摯でしょ。「あなたのオブセッション(こだわり)は何?」と尋ねるとこんな答えを返してきたんです。
「僕のオブセッションは真実を告げ、正直であることだよ。その演技が真実じゃないと感じたり気づいたりするのは本当にサイテーな気持ちになる」
こんなクソ真面目な答えを口にした後、「あ、ごめん。そういう答えじゃない方がいいよね……最近のオブセッションはバイクかな。最近、バイクに乗り始めたから。この答えの方が楽しくっていいよね」と笑っていました。
── バイクって、この映画のため?
渡辺 もしかしたら、このときすでに本作への出演が決まっていたのかもしれませんね。
あ、そうそう、オースティンってちょっと面差しがジェームズ・ディーンに似てるじゃないですか? そう言うと「大好きな俳優だから、そう言われると嬉しいよ」って。「もしかして、他の人にもよく言われるのでは?」と聞くと、「うん、わりと」って恥ずかしそうに笑っていました。かわいい!(笑)
── はいはい。これからも大活躍っぽいですね、オースティン。
渡辺 調べると5本くらい予定作があるようなんですが、その中でもっとも実現してほしいのはマイケル・マンの『ヒート』(95)のプリクエルですね。アダム・ドライバーがロバート・デ・ニーロ役、そしてオースティンはヴァル・キルマーが演じた若造という勝手なキャスティングがみんなの中で出来上がっている(笑)。私はオリジナルのこのふたりの関係性がめちゃくちゃ好きだったのでぜひともお願いしたい。
ちなみにオースティンの作品選びとドライバーのそれ、結構似ているんですよ。個性的な監督を選んでいる感じで。そういうふたりがマイケル・マンで出会うってすてきじゃないですか!
── いやあ、すでに妄想が止まりませんね、麻紀さん(笑)。
文:渡辺麻紀
『ザ・バイクライダーズ』
11月29日(金)公開
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