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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

アラン・リックマン

連載

第139回

アラン・リックマン Photo:AFLO

クリスマス映画の名作が4Kリマスターでリバイバル公開に

── 今回はアラン・リックマンをお願いしました。2016年にすい臓がんで亡くなり、世界中の映画ファンを悲しませたのですが、彼が出演したヒット作『ラブ・アクチュアリー』が4Kデジタルリマスターでリバイバル公開されています。

渡辺 『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)などを手掛けた人気脚本家リチャード・カーティスの初監督作品です。クリスマス前後の1カ月くらいを舞台にさまざな人たちの“愛”を描いた群像ドラマで、日本でもヒットしました。

アラン・リックマンが演じているのはデザイン会社の社長。奥さんはエマ・トンプソンで、彼女のお兄さんが若くして英国首相になったヒュー・グラント。グラントが好きになった女性が、リックマン夫婦と同じ地域に住んでいて……とたくさんのキャラクターが数珠つなぎになっている。中には、このエピソードはいらないだろうというのもありますが、それぞれの関係性における“愛”が気持ちいいです。

『ラブ・アクチュアリー』のアラン・リックマン

リックマン、調べてみたらまだ69歳だったんですね。舞台から始め、42歳で映画初出演。それが『ダイ・ハード』(88)の悪役だった。『ダイ・ハード』が面白かった理由のひとつには、悪役のリックマンがめちゃくちゃよかったというのがあり、これで彼、映画でも大ブレイクしました。このリックマンのおかげで「映画を面白くする条件のひとつは魅力的な悪役の存在」ということがあらためて注目されたほどでした。

『ダイ・ハード』では知的で冷酷なテロリスト、ハンス・グルーバーを演じ特大インパクトを残す。1991年のケビン・コスナー版『ロビン・フット』でもイヤ~な悪役でした
Photo:AFLO

── もうひとつは『ハリー・ポッター』シリーズのスネイプ先生ですね。麻紀さんがリックマンに会ったのは『ハリポタ』の取材で?

渡辺 直接会ったのはティム・バートンの『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(07)が初めてでした。すっごく顔が大きかった(笑)。身体も大きいんですが顔のインパクトがハンパない。舞台映えするだろうなと思いました。あとは声がめちゃくちゃすてきで、聞き惚れてしまうほど。英国の舞台出身の役者さん、声が魅力的な人が本当に多い。彼も間違いなくそのひとりです。

スネイプ先生の印象が強いせいもあってか、本作でも彼は悪徳判事を演じているので、悪役を演じる醍醐味は?って聞きたくなるじゃないですか? でも、彼の答えは「私は自分の演じるキャラクターの善悪を評価したりしないんだ。あなたが悪役と決めつけているだけで、私はそういうことに囚われていない」と一蹴されました、はい。

『スウィーニー・トッド…』では、主人公の敵役となるターピン判事役。物語の最後には……
Photo:AFLO

『スウィーニー・トッド』のクリエーター、スティーヴン・ソンドハイムのミュージカルに関しては「歌詞が素晴らしいし、大胆で人間のとてもダークな領域に勇気をもって足を踏み入れた作品」と言うんですが、だからといってミュージカルが好きなわけじゃないようでした。

「私はあまりミュージカルを好まない。エンタテインメントという以外に存在意義がないと思っているからだ。が、そうはいうものの『ヘアスプレー』は凄くよくできていたし、『ガイズ・アンド・ドールズ』も名作だと思う。もちろん、いい作品はいいんだけどね」

最終話まで取材を受けなかった『ハリー・ポッター』シリーズ

── 『ハリポタ』ではインタビューしてないんですか? 8作もありましたよ。

渡辺 それが彼、取材にずっと来なかったんですよ。それは意図的なことだったようで、自分がマスコミの前に現われることで、スネイプの印象が変わることを恐れた……みたいな情報が流れていました。真意のほどは分かりませんが、ご存じのとおりスネイプはシリーズ8作を通してとてもミステリアスな存在ですからね。ハリーたちの敵なのか味方なのかもずーっと分からない。

ただし、シリーズの最終話となる『ハリー・ポッターと死の秘宝PART2』(11)ではやっとマスコミの前に登場してくれたんです。完成版を観る前ですが。役作りの上での難しさについてこう語っていました。

「私がスネイプを演じると決めたとき、原作は3巻までしか出版されていなかった。それは4巻から7巻まで、どのような展開になるのか見当もつかないということだ。これはとても難しく、想像しながら演じるしかなかった。ただ、ラッキーなことにスネイプはそもそもミステリアスな男だったので、それは大きな助けになったよ」

Wikipediaなどを読むと「最初、ローリングからわずかな情報を提供してもらった」みたいに書かれていますが、このときもそう言っていました。「どのような方向にもっていけばいいのか分からない。演技しづらいと言ったら、わずかな情報を提供してくれた。本当にちょっとだけ。でも、そのおかげで少し理解できた」って。

さらにラストは想像したとおりだったか尋ねたら「ある程度、私の想像どおりだった」とも言っていました。没後に公開された彼の日記には「スネイプがハリーの母親リリーをずっと愛していたことを事前に伝えられた」と書かれていたようですね。

フィルモグラフィ上、やっぱり最も印象的なのはスネイプ先生! 陰の主役と言っていい存在でした
Photo:AFLO

もうひとつ、面白かったのはコスチュームの話です。

「スネイプを演じることができて、私はとても光栄だった。彼は周りにいる誰ともなじまないキャラクターだったし、10年間ずっと衣装も同じだった。みんなシーンや年齢によって衣装を替えるのに! でも、スネイプを演じる上でコスチュームはとても重要だった。袖の長さを決めるときも、手首のあたりに衣装が巻きついているような長さにし、手を全部見せないようにした。閉じ込められている感じを表現したいからだ。そしてジャケット。スネイプのジャケットにはボタンがズラリと並んでいる。小さなボタンが25個もね! それを毎日、ひとつずつかけていく男がどんな人物か想像できるだろ? 彼は自分自身を毎朝、そうやって閉じ込めているんだ」

── なるほど! それはとても深いというか、そこまで考えるんだという感じ。

渡辺 私もこんなコメント、すっかり忘れちゃってたので、ハリポタランド(ワーナー ブラザース スタジオツアー東京-メイキング・オブ・ハリー・ポッター-)の大広間に等身大のスネイプ人形が飾られているので、あらためて確かめたくなっちゃいましたよ。

さらに「ローリングの原作には、スネイプのマントはまるでコウモリのようだと書かれているので、もちろんそれも意識した」って。そして「スネイプは黒髪のおかっぱヘアで、日本人的な部分もあるんじゃないかな?」とも言っていましたが。

── どうなんでしょう(笑)。そういうふうには考えたことないですが。

2016年1月14日に亡くなったリックマン。翌15日には、ロンドン・キングスクロス駅の「9・3/4番線」を模した撮影スポットに追悼の花束が
Photo:AFLO

渡辺 原作のもつパワーについても語っていました。

「みんなが熱意をもっているのは、“ストーリー”と呼ばれるものに対してだ。世界がデジタルテクノロジーで動かされ、不具合も生じている中、“本”というとてもシンプルなものによって、多くの人々が一致団結する。それは素晴らしいと思うよ」

── そうですね。世界中にポッタリアンがいるし。

渡辺 私が見つけた『ハリポタ』の人気投票でもスネイプは2位のハーマイオニーに続く3位。そんな不滅の人気キャラになったのもリックマンのおかげ。ほんと、もっと活躍してほしかったですね。

文:渡辺麻紀

『ラブ・アクチュアリー 4Kデジタルリマスター』
上映中
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