海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ジェームズ・マカヴォイ
連載
第140回

ジェームズ・マカヴォイ Photo:AFLO
最新作ではムキムキボディで“異常な家族”の主人として大暴れ!
── 今回はジェームズ・マカヴォイです。彼が主演したブラムハウスのホラーサスペンス『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』が公開されました。
渡辺 この作品は今年、日本でも公開されたデンマークの映画『胸さわぎ』(22)のハリウッドリメイクです。旅行先のイタリアで出会った気さくで魅力的な家族に誘われて、彼らの暮らすイギリスの田舎で週末を過ごす一家が味わう恐怖を描いています。
タイトルに“異常な家族”と謳われているので、その気さくな家族がトンでもないヤツらだったということは分かりますよね? オリジナルもそこは同じなんですがラストがまるで違う。おそらくブラムハウスの人たちは「このラストをハリウッド仕様に変えればイケる!」と考えたんだと思います。

── マカヴォイは酷い目に遭う家族なんですか? それとも“異常な家族”の方?
渡辺 異常な家族の旦那さんです。つまり悪役なんですよ。私たちがマカヴォイを最初に意識したのは『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』(05)のタムナスさんだったので、なぜかいまだに悪役というと違和感がある(笑)。
タムナスさんは下半身が馬のケンタウロスで、トレードマークは首に巻いた赤いマフラー。原作のイラストどおりのルックスがとても印象的だったので、いまだにマカヴォイのことを「タムナスさん」と呼ぶ人もいるくらい。

Photo:AFLO
私はこの『ナルニア』のときに彼と初めて会ったんですが、まさにタムナスさんだった。インタビューはルーシー役の女の子とペアだったので、はしゃぎ気味の彼女を抑えつつ見守るという感じ。とてもタムナスさんしていた(笑)。当人も原作が大好きで「もう4、5回は読んでいる。一番好きなのはアスラン、その次がタムナスなので、この役を演じることができて本当に嬉しい」と言っていました。再現度がハンパないのはそういう愛があるからかもしれません。
── 彼はタムナス役でブレイクしたんですか?
渡辺 ブレイクとまではいかないかもしれませんが、注目されたのはやはり『ナルニア国』だと思います。ただ、とても振り幅が広い役者でもあるので、こういうファンタジーから『ラストキング・オブ・スコットランド』(06)のようなシリアスドラマ、恋愛要素もある『つぐない』(07)、さらにはアクションもこなす。
私が次にインタビューしたのは、そのアクション映画『ウォンテッド』(08)でした。これは同名のグラフィックノベルを原作にしたティムール・ベクマンベトフのアクションで、共演はアンジェリーナ・ジョリー。マカヴォイは、実はスゴ腕の殺し屋だった父親の跡を継ぐことになった平凡なサラリーマンを演じています。映画も面白かったし大ヒットもしました。アクション映画のヒーローというのは、キャリアの計画のひとつだったのか尋ねたら、こんなふうに答えてくれました。
「僕は計画を立てないんだよ。声をかけてもらったら出演するかもしれないという感じ。昔と違って今はもっと選択の幅が拡がって、いつもオーディションをする必要はなくなった……まあ、だから以前よりも計画はあるかもしれないけど、基本はあまり変わってない」

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ちなみに監督のベクマンベトフは彼のキャスティングについては「『ダンシング・インサイド/明日を生きる』(04)のマカヴォイが素晴らしくて、この役者以外とはやりたくないと思ったからだ。彼はユーモアとリアリズムのバランスが絶妙なんだ」と言っていました。
この映画には、平凡なサラリーマンのマカヴォイがネットでエゴサーチをするエピソードがあるので、自分でそういうことをやるのか聞いてみました。
「昔はやっていたけど、今はやらない。4年くらい前に僕が出演した映画の酷いレビューを読んで、それ以来、エゴサーチは止めたんだ。たったひとつの酷いレビューで諦めるなんてという人もいるけど、そういうものなんだよ。いくら何千という良いコメントがあっても、たったひとつのレビューが強烈ならそれだけで自信は消えてしまう。だから、もう読まないことにしたんだ」
もうずいぶん前のコメントなので、現在はどうなのか分かりませんけどね。
── でも、何となく理解できるような気がします。
渡辺 『ウォンテッド』で身体を鍛えたことに例えてこう言っていました。
「この映画で僕はジムに5カ月通って、ナイスなボディを作り上げた。でも、それは永遠じゃなく、2週間さぼっただけでなくなっちゃうんだ。自信も同じだと思う」

Photo:AFLO
── どんなことを書かれたんでしょうね?
渡辺 あ、それも教えてくれました。
「ジェームズ・マカヴォイはせいぜいB級映画の役者」と書かれたそうです。「でも、ちゃんと成功しているじゃないですか!」というと「運だよ。僕は悪い役者ではないとは思っているけど、運のおかげも大きい」って。その“運”に関してもこう言っています。
「7、8年前、とても大きなポップコーン映画の主役に選ばれそうになったことがあった。もし、実際にそうなったら全力を尽くしてやるつもりだったけど、結局は他の人になった。僕は思うんだ。もし、その映画に出ていたら『つぐない』のような映画には出られなかっただろうって。僕が今のキャリアを持てているのは、そういう選ばれない運があったからだと思ってしまう」
『X-MEN』シリーズではプロフェッサーX役で4作に出演
── その後彼は、それこそポップコーン映画の『X-MEN』シリーズに出演していましたよね。
渡辺 マシュー・ヴォーンの『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11)、続くブライアン・シンガーの『X-MEN:フューチャー&パスト』(14)でプロフェッサーXの若かりし頃を演じていました。プロフェッサーXは車椅子なんですが、その理由がこの作品で分かるし、今は敵対するマグニートーとの関係性も描かれている。若き日の彼を演じているのはマイケル・ファスベンダーで、ふたりのラブラブぶりは目の保養でした、はい(笑)。

Photo:AFLO
私がインタビューしたのはその次の作品になる『X-MEN:アポカリプス』(16)のときです。このときは、英国出身の役者たちがハリウッドでも日本でも大人気だったときでした。
「僕が凄いなと思っているのはベン・ウィショーだよ。彼の演技には偽りというものがまったく感じられない。いや、別に僕は常に真実性ばかり追い求めているわけじゃないけど、彼の演技に関してはいつもそう感じてしまうんだ。ウソのない役者。そしてとてもデリケートで脆さも感じさせる役者。彼のそういうところが大好きだ。僕に言わせれば、彼は今活躍中の役者の中では最高だ」
── 大絶賛ですね!
渡辺 私もベン・ウィショーは大好きなので嬉しかったですね。
このシリーズのような大作とインディペンデント映画に関しては、おそらく本音のようなことを言っていました。
「実は、規模の小さな映画ほど、より熱心に仕事をする。なぜなら待ち時間がないからだよ。ナイト(・シャマラン)と一緒にやった映画(『スプリット』(17))では1日に脚本の10ページ分ずつ、大きなシーン3つずつを撮影した。一方、『X-MEN』では大きなシーンを3日かけて撮影する。つまり、小規模の映画の方が集中度が高くなるわけで、役者としてはその方がやりやすいんだ。途中で中断することなく、ゴールに向かってひた走るわけだから、帰宅するとバタンキューで熟睡する。大作ほど待ち時間が長いので、緊張が途切れてしまうんだよ」
── なるほど!
渡辺 おそらく『スピーク・ノー・イーブル』は大作じゃないので緊張感があったのではないでしょうか。最初に違和感があったと言ってしまいましたが、ミステリアスな悪役もさすがに上手でした。英国俳優らしい演技派の人です。

これからの作品もチェックしてみたら、自分でメガホンを取る映画もありました。どうも実話の映画化のようで、スコットランドのふたりの若者が、カリフォルニアの有名ラップデュオになりすまして音楽界を騙した事件を映画化するみたいですね。
これまでのインタビューでは監督をやりたいなどの発言はなかった。心境の変化があったのかもしれませんが、お手並み拝見ですね!
文:渡辺麻紀
『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』
上映中
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