海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ラッセル・クロウ
連載
第141回

ラッセル・クロウ Photo:AFLO
バイオレントなマーベル作品で主人公の父親役で登場
── 今回は『クレイヴン ザ・ハンター』で主人公の父親を演じているラッセル・クロウを紹介していただきます。麻紀さんはファンでしたよね?
渡辺 そうなんです。かなり好きです(笑)。本作では、“強くなくては男じゃない!”という価値観をふたりの息子に押し付ける黒社会の実力者の父親です。
彼らを狩りに連れ出したとき、長男のセルゲイが巨大なライオンに襲われ瀕死状態になる。そんな彼をカリプソという女の子が、祖母の作った秘伝の液体を飲ませて救うんです。そのせいで獣的なパワーを得たセルゲイはクレイヴンとなり、父親から離れて必殺仕置き人的な人生を送ることになる。
この成人したセルゲイを、『キック・アス』シリーズなどの英国役者、アーロン・テイラー=ジョンソンが演じています。
── 凄くバイオレントだそうですね。
渡辺 そうなんですよ。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)系では初のR15作品だそうです。血がバンバン吹き出るものの派手な印象はない。監督が『マージン・コール』(11)や『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』(14)などを手掛けた社会派のJ・C・チャンダーだからかもしれないですね。

── ラッソーはどうでした?
渡辺 相変わらずプクプクしてました(笑)。一応、邪悪で冷酷なお父さんなんですが、やっぱりテディベアみたいでかわいかった。まあ、そう思っちゃうのは私だけかもしれませんが。
── 彼はキレるので有名でしたよね?
渡辺 そうです。オーストラリアの家族と話そうとしたらホテルの電話がつながらなくてブチギレ、受話器を投げつけたとかね。今だとパワハラと言われるような行為を何度もやっている。
でも、演技力は折り紙付きです。彼と何度も組んでいるリドリー・スコットが「たぶん、ラッセルは彼と同世代の役者の中ではベスト。彼のようにどんなジャンルもどんなキャラクターもできるというのは珍しい」と言っていましたが、それは正しいと思います。

Photo:AFLO
ちなみにラッソーは「初めて会ったとき(『グラディエーター』(00)の撮影時)、リドリーに“私は演技に興味がない。だから君に任せる”って言われてとても驚いた」と語っていましたが、リド様は任せられるような役者を常に選んでいるということなんです。具体的に言うと2、3テイクでOKな上手い役者ということですね。
── そんなこと、本当に言ったんですか? リド様。
渡辺 リド様に確かめたんですが「いやいや、それはラッセルの勘違いだ。私はそんなことは言っていない。なぜなら映画では役者の演技はとてもとても大切だと思っているからだよ」とウソを並べてました(笑)。絶対に言っているはずです!
── 私もそう思います(笑)。
同郷の後輩俳優サム・ワーシントンに「橋は頑丈だ」とアドバイス
渡辺 私は監督のインタビューの方が好きなんですよ。なぜって面白いからなんですが、ラッソーは他の役者さんより面白い。役者のインタビューの中ではベスト3に入るくらい。
── 他に面白い役者さんって?
渡辺 ケイト・ウィンスレットとナタリー・ポートマンかな。男優だと彼がダントツですね。なぜなら、演技とは何ぞや? 自分の演技へのこだわりは?などをとても分かりやすく、さらには興味深く語ってくれるからなんです。彼の初めての取材だった『シンデレラマン』(05)のとき、こんなことがありました。
日本語で質問をして、それを通訳さんが英語に訳すわけですが、ラッソーは通訳さんを止めて「今の質問はこういうことじゃないか?」と大正解したんです。その場にいた人たちはびっくりですよ。
「言語というのは、役者として自分が持っている武器のひとつなんだ。人は言葉を口にするとき、そこに感情を投影するから、今の質問でオレはインタビュアーの感情を読み取ったことになる」ってエッヘンな顔をしていました(笑)。
でも、実際にとてもクレバーな役者です。『ビューティフル・マインド』(01)と、この『シンデレラマン』で組んだロン・ハワードも、6本もの作品で一緒に仕事をしたリド様も口を揃えて「とてもクレバー」と言っていましたから。

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『ワールド・オブ・ライズ』(08)のときは、こんなことを言っていました。同じオーストラリア出身のサム・ワーシントンがハリウッドに来て自信を無くしたとき、ラッソーから励まされてどうにか踏みとどまったという話をしていたので。
「オレがサムにしたことは“橋は頑丈だ”と保証してやったんだ。オレが初めてハリウッドに来たとき、オレより前にここにやってきた役者たちがいたんだが、彼らは自分がそれまで築いてきた“橋”に自分で火をつけて、ハリウッドに自分を組み込んでいった。でも、オレはそうはしたくなかった。ハリウッドの連中に会うときにオーストラリアのアクセントを消したり、誰かの真似っこをしたり、そういうことは絶対に嫌だったし、実際にしなかった。そういう“フリ”はカメラの前でやることで、ミーティングのときにやることじゃないとオレは考えている。まあ、だから、オレは高慢なSOS(Son of a bitch/最低のヤツ)って言われてるんだけど(笑)。でも、そこで間違った関係を築いてしまったら、監督も役者も間違った場所にいることになり、いい映画ができるはずがない。真実を見せないと、必要な場所に行けなくなるんだ」
── かっこいいじゃないですか! ラッソー。
渡辺 でしょ? だから好きなんです!
── 最近は来日ないですが、当時はよく来ていた記憶があります。
渡辺 そうですね。最後は『ノア約束の舟』(14)です。このとき、すでにプクプクというかプクくらいの体型だったような記憶が。ちなみに日本についてはこんなことを言っていました。
「オレは文化の違いが素晴らしいと感じた。取材インタビューの際にジャーナリストからギフトをもらうなんて、他の国では経験したことがなかったので、なんてファンタスティックなんだと思ったよ。日本の文化なんだろ?」
私はラッソーにプレゼントをあげたことはないですが、ティム・バートンにはあります。ゴジラや怪獣系のグッズをあげましたが、確かに大喜びしてました(笑)。

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── 次回作は?
渡辺 調べたらたくさんありましたね。その中で気になったのは『Rothko』という作品。これ、画家のマーク・ロスコの娘が父の遺産を守るために長い法廷闘争に巻き込まれる話のようで、ラッソーが演じるのはその父親のロスコのようです。監督はサム・テイラー=ジョンソン。『クレイヴン』で共演したアーロン・テイラー=ジョンソンの奥さんですよ。だからなのかアーロンも出ている。ふたり、気があったのかもしれない。これは楽しみですね。
文:渡辺麻紀
『クレイヴン・ザ・ハンター』
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