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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

マッツ・ミケルセン

連載

第143回

マッツ・ミケルセン Photo:AFLO

デンマーク出身、大作も小作もひっぱりだこ状態の人気俳優

── 今回はマッツ・ミケルセンです。一部に熱狂的なファンがいるデンマーク出身の俳優ですね。彼がその母国で主演した作品『愛を耕すひと』が2月14日に公開されます。これはどんな映画なんですか? バレンタインデーに公開されるからラブストーリー要素が強いんでしょうか?

渡辺 18世紀のデンマークを舞台にした史実に基づく人間ドラマです。マッツ扮する主人公の退役軍人ケーレン大尉が、不毛といわれる荒野を開拓しようとする物語です。そのプロセスの中でいろんな愛が描かれますが、いわゆるラブストーリーとは違いますね。

貧しいケーレンの夢は、荒野を開拓した褒美として貴族の称号をもらうことなんですが、次から次へとトラブルが襲いかかってくる。もっとも大きなトラブルが、その土地を自分のものと主張する裕福な権力者。こいつが悪辣な上に残虐で、逃げ出した使用人をなぶり殺したりする。そういう中で頑張る彼を支えるのがタタール人の少女と、権力者の下から逃げてきた使用人の女性。疑似家族の彼らが愛を育む姿も描かれています。

監督はマッツと『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(12)で組んでいるニコライ・アーセル。地味な印象があるかもしれませんが、有力者がホントにヤなヤツなので勧善懲悪的なドラマとしても楽しめるし、大自然と夜の深い闇を捉えたカメラも素晴らしい。

『愛を耕すひと』のマッツ

── マッツはどうなんですか?

渡辺 ストイックな男なので、ちょっとした表情の変化で感情を表現しているのはさすがじゃないでしょうか。英語圏の映画でも大活躍していますが、こうやって母国の映画にも積極的に出ているのはいいですよね。

── マッツの取材はどの作品で?

渡辺 『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(22)と『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(23)です。

彼が注目されたのは確か『007/カジノ・ロワイヤル』(06)の悪役じゃないですか? 涙腺に損傷がある男で、いつもハンカチで涙をぬぐっていたのを覚えています。本格的にブレイクしたのはやはりドラマシリーズの『ハンニバル』(13~15)。アンソニー・ホプキンスで有名になったサイコな殺人鬼、ハンニバル・レクターの若かりし頃を演じて、日本でも大人気になりました。

デンマークでは『プッシャー』3部作で有名なようです。私もこれ観ましたが、デンジャラスなシーンが多くて驚きました(笑)。監督が『ドライヴ』(11)などのニコラス・ウィンディング・レフンなんで当然なんですが。

『007/カジノ・ロワイヤル』の悪役ル・シッフルは、ボンドの下半身を痛めつける拷問シーンも話題に
Photo:AFLO

── 取材ではどんな感じなんですか? マッツ。

渡辺 2回ともオンラインのインタビューで実際に会ったことはないんですが、“ファンタビ”のときは映像も繋げてくれたので「ああ、デンマークの自宅でやってくれてるんだな」って。リラックスしていたし、飾らない感じ。サービスしたりもナシなので、私は好きでした。

“ファンタビ”では、降板させられたジョニー・デップに代わってグリンデルバルドを演じていたんですが、事前に映画会社に「ジョニーの名前を出さないほしい」と言われたんです。当人が気を悪くするというかナーバスになるかもしれないからという気遣いだったんでしょうが、マッツの方から「ジョニーのグリンデンバルドを模倣するのは得策じゃないことは分かっていたけれど、無視するつもりもなかった。なぜなら素晴らしかったからだよ。彼の解釈や演技を、私が創造したグリンデルバルドの架け橋にしたという感じだろうか」って。

── あのジョニーはかっこよかったですもんね。

渡辺 そう、まるで違うグリンデルバルドでした。ジョニーはちょっとミリタリー風のコスチュームをまとい、髪はツンツンのホワイトブロンドで、確か目もオッドアイだったと思います。でも、マッツのはサラリーマン風のスーツで髪もそのまま。私はジョニーの方が好きでしたが、彼を選んだ監督のデヴィッド・イェーツはこう言っていました。

「マッツは並外れた役者なんだ。私が今度のグリンデルバルドに求めたのは、切なさと弱さを感じさせ、さらに観ている人を地獄のように怖がらせることができる役者。そうなるとマッツ以外はいないだろ? 実際、彼の演技には、そういう人をゾッとさせる“怪物”が覗く瞬間があった。しかもそうしつつ、ちゃんと彼がもつ決定的な弱さも見えてくるんだ。素晴らしいよ」

ジョニー・デップからグリンデルバルドを引き継いだマッツ
Photo:AFLO

『インディ・ジョーンズ』に悪役で出演、そのウラ話

── おお、絶賛じゃないですか。やっぱり悪役の方が似合っているという印象が強いので。

渡辺 そうですよね。ブレイクしたのがレクター博士ということもあってなのか、マッツの悪役には定評がある。悪役についてはこう語っていました。

「たとえばハンニバル・レクター。彼が死体や残酷さから見出す“美”は、私たちにとっては“恐怖”になる。また、ふたつの国が戦争したとしても、自分の国が悪だという人はまずいない。そういうふうに視点や立場によって価値観はまるで異なってしまう。だからヴィランがヒーローになったり、ヒーローがヴィランになったりする。私は常にそういうことを考えながら自分なりの“悪”を創り上げているんだ」

つまり、ストレートな悪ではなく複雑な悪を創造しているということですね。彼はその複雑さを“ジレンマ”という言葉で表現していました。

「私は観客に、何かしらのジレンマを感じてもらいたい。そのためにはヴィランを身体的、精神的にも魅力的に見せなければいけないと考えている。ちょっとした仕草から“こいつはヤバいヤツかもしれない”と感じてもらいたいし、“いや、そういう彼にも一理あるんじゃないか”とも思わせたい。そうすることで映画が重層的になる。ジレンマがなく、すべてが安易すぎるとその映画は面白くなくなるというのが僕の考え方なんだ」

── なるほど。

渡辺 悪役がかっこいいと映画の格も上がりますよね。たとえば『ダークナイト』(08)のジョーカーとか。ヒース・レジャーが創造した絶対悪がいないと、あんな高い評価を得られたかは疑問。マッツの高い需要もそこにあるのかも。悪役をかっこよく演じられる役者はそう多くはないでしょうから。

『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』のイベントでハリソン・フォードと並ぶマッツ
Photo:AFLO

── 『インディ』のときも悪役でしたよね?

渡辺 ドイツ人の科学者で、ナチのために働いていたという過去があるフォラーという人物でした。インタビューは映画を観る前だったので詳しいことは教えてもらえませんでしたが、出来上がった映画を観ると、もう少し見せ場がほしかったという印象だった。とはいえ、私はこの映画、大好きなんです。“老い”がひとつのテーマになっているから、確かにかつてのインディ映画を期待すると裏切られるかもしれません。そういう人が多かったのか、数字的にはイマイチだったようですね。マッツは脚本を読んだ感想をこう言っていました。

「まさにインディの映画だった。彼の年齢を考慮した物語になっていて、そこがとても魅力的。スリルたっぷりでありながら美しく、心に響く映画になっている。私は感動してしまったよ」

はい、私も感動してしまいました(笑)。

── これはどういう経緯で出演したんですか? マッツ。

渡辺 すっごく迅速に進んだと言っていました。ただ、こんな偶然を話してくれました。

「あるとき友人が、私の出演したシリーズものを列挙して「お前、あと『インディ』シリーズに出ればパーフェクトだ」って笑い合っていたんだよ。と、その1週間後に「『インディ』の新作に出演しないか?」という連絡が来た。本当に驚いて、つい笑ってしまったくらいでね。もちろん、その友だちには素晴らしいメールを送ったよ」

── 役者の人たちって、そういう話をよくしますね。確かオースティン・バトラーもそんなことを言っていた記憶が。

渡辺 そうでした。でも、嬉しい偶然ですよね。

007、インディ・ジョーンズ、スター・ウォーズ、ファンタビ、マーベルと、大作シリーズは総なめに近い呼ばれ方のマッツ。各地のコミコンにも度々顔を出しており、東京コミコン・大阪コミコンには2023年、2024年と連続参加。写真は2017年の東京コミコン
Photo:AFLO

── マッツの新作は?

渡辺 シガーニー・ウィーバーと共演するホラーもありますが、楽しみなのはデンマークで作る『The Last Viking』。タイトルはヴァイキングとはいえ、銀行強盗を描いたクライムものでダークコメディ要素が強そうです。というのも監督が『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(20)でマッツと組んでいるアナス・トマス・イェンセンだからなんですけどね。『ライダーズ・オブ・ジャスティス』も大変面白かったので、これはマッツの魅力炸裂じゃないでしょうか。

文:渡辺麻紀

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