海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ジェームズ・マンゴールド
連載
第144回
ジェームズ・マンゴールド Photo:AFLO
最新作『名もなき者…』でアカデミー監督賞や脚色賞にノミネート!
── アカデミー賞がらみの作品が注目されていますが、今回はその中で8部門にノミネートされている『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』の監督&脚本のジェームズ・マンゴールドをお願いします。ティモシー・シャラメが若き日のボブ・ディランを演じ、彼も主演男優賞にノミネートされています。
渡辺 ティモシーもすべての映画賞にノミネートされているくらいの勢いなんですが、ほとんどを『ブルータリスト』のエイドリアン・ブロディにもっていかれている。『サタデー・ナイト・ライブ』で自虐的ネタにしていたくらい(笑)。
マンゴールドがノミネートされているのは作品賞、監督賞、脚色賞の3部門ですね。マンゴールドはカントリー&ウェスタンの大物ジョニー・キャッシュの伝記映画『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(05)を作っていて、キャッシュの2度目の奥さんに扮したリース・ウィザースプーンが主演女優賞を獲得しました。ちなみにキャッシュを演じたのはホアキン・フェニックスで、彼もノミネートされました。このときもマンゴールドは監督&脚本でしたがノミネートはされなかった。なので当人は今回、とても喜んでいるのではないでしょうか。
この映画では売れる前のキャッシュも描かれているんですが、それがとても面白かった。全体を観ると、キャッシュがなぜ偉大なミュージシャンと言われるのかが浮かび上がってくるような作り方。今回も若かりし頃のディランだし、そういう意味では似ているかもしれません。それにしても凄いですよね。アメリカを代表する2大ミュージシャンの伝記映画を作って、どちらも成功させているんですから。
── マンゴールドはいつ取材したんですか?
渡辺 彼がハリウッドで最初に注目された『コップランド』(97)が初めてでした。あの筋肉マンのシルベスター・スタローンが、お腹がぽってりしたニューヨーク市警のポリスを演じていることでも話題になったんです。役者もロバート・デ・ニーロやらハーヴェイ・カイテルやらレイ・リオッタやら、(マーティン・)スコセッシの映画?というような曲者がずらり。マンゴールドのオリジナル脚本に惹かれて集まったんです。ただ、スタローンは役不足でしたけどね。もっと上手い人が演じればもっと面白くなった。
Photo:AFLO
演出的にはちょっとTVっぽかったりするんですが、ノリはどう見ても西部劇。マンゴールドは後に1957年の西部劇『決断の3時10分』のリメイク『3時10分 決断のとき』(07)を撮っていて、やっぱりウェスタンが好きなんです……というか本当に古い映画が好き(笑)。
実はこのインタビューのデータ、古すぎてもうないだろうと思っていたらラッキーなことに残っていて、あらためて読んでみるとこのときから古い映画好きをアピールしていたんだなと。たとえば、スタローンが演じた耳が事故で聞こえなくなった警官については、「ヴァン・ヘフリンを想像しながら(脚本を)書いていた」ですから。
へフリンは『決断の3時10分』にも出ていた往年の役者。スタローンが障害をもっているという設定については、「どんなことであれ、問題を抱えてないヒーローはいない。『赤い河』(48)も『真昼の決斗』(52)も『エル・ドラド』(66)も、みんな主人公は問題を抱えていた」と言いつつ、好きな映画を尋ねると「日本では小津安二郎と黒澤明、ヒッチコックもジョン・フォードも大好き。最近の若い監督の映画はまるでロックビデオのような技巧的なものが多いけど、僕にそれは絶対に無理」と笑っていましたから。
── マンゴールドがあらためて注目されたのは、もしかして『LOGAN/ローガン』(17)なんですか?
渡辺 トム・クルーズとキャメロン・ディアスの初共演が話題だった『ナイト&デイ』(10)など、コンスタントに撮り続けているけれど、監督力&脚本力で注目されたのは『ローガン』かもしれない。ヒュー・ジャックマンは前作の『ウルヴァリン:SAMURAI』(13)でもマンゴールドと組んでいるので気が合ったのかも。
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── 『ローガン』はとても評価が高いだけではなく、ヒットもしましたからね。
渡辺 私も大好きで、このときインタビューしたんです。本作で彼が意識したのは『シェーン』(53)と『ペーパームーン』(73)だと言っていました。
「『ペーパームーン』は大好きな映画、『シェーン』は尊敬している映画なんだ。シェーン自身がガンマンで人殺しだったので、どこに行ってもその評判が付きまとう。つまり、どこに行っても死が追いかけてくるんだよ。その点はまだ“ウルヴァリン”では誰も追及していなかった。ヒューはこれまでとはまるで違うストーリーを求めていたので提案してみたらとても気に入ってくれて、すぐに“やろう!”ということになったんだ」
── オリジナルのストーリーだったんですか?
渡辺 「いろんなところからインスピレーションをもらった」とはいえオリジナルなんです。
「僕はローガンの脆さや弱さを見せるストーリーにしたかった。僕が自分に問いかけたのは、ウルヴァリンがもっとも恐怖を感じるのは何なのか? そしてその答えは“愛”だと考えた。死でもなければスーパーヴィランでもなく、地球の終わりでもなく“愛”なんだってね」
── なるほど!
渡辺 こういう話を聞くと、いい監督というよりいい脚本家。だから今回のアカデミー賞でも個人的には脚色賞をもらってほしいと思っているんです。
次回作は『スター・ウォーズ』シリーズの新作、監督・脚本を担当
渡辺 古い映画に関しては、彼が映画を学んだ先生たちの影響が大きいんだと思います。マンゴールドはふたつの大学の映画学科を卒業していて、最初に通ったカリフォルニア芸術大学(カルアーツ)ではアレクサンダー・マッケンドリックに師事し、次のコロンビア大学ではミロス・フォアマンが恩師だったわけです。
マッケンドリックはイギリスのイーリングコメディの傑作として知られる『マダムと泥棒』(55)を撮り、アメリカに渡ってからの代表作には『成功の甘き香り』(57)があります。フォアマンはもちろん『アマデウス』(84)ですよね。なのでマンゴールドの監督作のエンドクレジットの“Special Thanks”にはよくふたりの名前が刻まれているんです。
私は、会心の出来だったらクレジットして、そうでもなかったらクレジットしないようにしているのではと思っていたんですが、どうも違うようでした。「いや、そうやって分けてるつもりはないよ(笑)。ほとんどの映画にふたりの名前は入れていると思うんだけどなあ」って。
Photo:AFLO
もちろん、それぞれの名匠から教えてもらったことで座右の銘にしていることも聞きました
「アレクサンダー……って僕たちは“サンディ”って呼んでいたんだけど、彼は僕のセカンドファーザーのような存在。まだ17歳だった僕にあらゆることを教えてくれた。とりわけ監督の仕事とストーリーテリングの重要性について教えてくれたので、今でも撮影中、サンディのスピリットを肩に感じながら仕事をしている感じなんだ……そうだな、会心の出来というより、この映画、サンディは気に入ってくれるだろうなあって思って入れてる感じかな(笑)」
── ミロス・フォアマンは? 彼も晩年は大学で教えていたんですね。
渡辺 調べてみたら『カッコーの巣の上で』(75)の後、アメリカの市民権を得て、その頃からすでに教鞭をとっていたようです。フォアマンについては『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(23)のときに聞きました。ちなみにこのとき、『コップランド』でインタビューをしたと言うと「お互い、歳を取ったねぇ」と言われましたが(笑)。
── そうか、26年も前ですもんね。
渡辺 それはさておき、こう言っていましたね。
「ミロスは僕に、脚本執筆において新境地を拓いてくれたんだ。その頃の僕は、まずプロットを立てて、そこから脚本を書いていくというスタイルだった。でも、これがまったく上手くいかない(笑)。そもそも自分の立てたプロット自体、まったく好きになれない。そんなときミロスに言われたのは、“プロットを立てるな、キャラクターを書け、そして彼らにスト―リーを決めさせるんだ”って。以来、私はそれを守って脚本を書いている」
ということは本作でも“ボブ・ディラン”にストーリーを決めさせたんでしょうね。やっぱりオスカー脚色賞、ぜひ獲ってほしい。フォアマンもマッケンドリックもとても喜ぶから(笑)。
── 麻紀さん、調べたら彼、『スター・ウォーズ』、やるんですね!
渡辺 そうなんですよ。『Dawn of the Jedi』というタイトル。何でも『EPISODE4』の25000年前を舞台に、フォースの発見に焦点を当てた物語だそうです。彼のメガホンと脚本ですね。また得意の古い時代の話なので期待できると思ってます!
文:渡辺麻紀
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