海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
エイドリアン・ブロディ
連載
第145回

エイドリアン・ブロディ Photo:AFLO
『ブルータリスト』でアカデミー主演男優賞2度目の受賞!
── 恒例のアカデミー賞授賞式が3月2日(日本時間3月3日)に行われましたが、あらゆる映画賞で高い評価を受け、オスカーでも主演男優賞の本命といわれながら見事に受賞を果たしたのが『ブルータリスト』のエイドリアン・ブロディです。ホロコーストを生き残り、戦後、アメリカに移住したハンガリー系ユダヤ人の建築家を演じています。
渡辺 ブロディはロマン・ポランスキーの『戦場のピアニスト』(02)で迫害を受けるユダヤ人ピアニストを演じアカデミー主演男優賞を獲得しています。今回もまた迫害を受けるユダヤ人ですが、迫害されるのが移住したアメリカというのがポイントです。『戦場のピアニスト』以外では印象が薄いので、歴史に翻弄されるユダヤ人ならお任せという感じなのかも。
アカデミーにノミネートされたのは今回が2回目で、また受賞したので打率100%ですからね。『ボーイズ・ドント・クライ』(99)と『ミリオンダラー・ベイビー』(04)で2回ノミネートされ2回とも受賞したヒラリー・スワンクと同じ。彼女もこの2本以外、あまり覚えてないですよね。

── 『ブルータリスト』、今年のアカデミーの大本命と言われていましたね。
渡辺 途中に入るインターミッションの15分を入れて上映時間は215分。前半100分→休息15分→後半100分という構成なので、時間の長さは感じませんでした。100分の映画を2本観た感じかな。個人的には私の好きな建築と建築家の話なので前半はとても面白かったんですが、後半のある事件から意外な方向に向かっていってちょっとびっくり。私は知的な前半、俗っぽい後半という印象でしたが、それが分かりやすいといえば分かりやすいのかもしれない。
アカデミー賞では作品賞、ブラディ・コーベットの監督賞、ブロディの主演男優賞など10部門でノミネートされて、その他の映画賞でも受賞率が高かった。
── ブロディはやっぱりいいんですか?
渡辺 私の好きな建築家像ではないけど、いいという人がいるのは分かる。彼の奥さん役のフェリシティ・ジョーンズや、ブロディのパトロンになる富豪役のガイ・ピア―スもアカデミーにノミネートされていますが、私はピンとこなかったので、ブロディはよかったのかもしれません。

演技のために何かを学ぶプロセスが大好き
── 彼にはどういう取材を?
渡辺 ブロディが注目されたのは『戦場のピアニスト』からなので、最初はピーター・ジャクソンの『キング・コング』(05)でした。真面目、という印象ですね。ジョークを言うこともなく、質問には真摯に答えるという感じ。「ポランスキーとは連絡を取り合っているんですか?」という質問には「その答えはスキップさせてくれ」と言っていました。テキトーにごまかさないのはいいと思いました。
『キング・コング』では映画撮影の旅に同行する脚本家で、ヒロインのナオミ・ワッツと恋仲になる役。つまり、キング・コングが恋敵。もちろん私はキング・コングが推しだったので、彼のことはほとんど覚えてないんですよ(笑)。でも、当人はこういうSF/ファンタジー系の大作に出るのは初めてなので、撮影はとても刺激的だったようです。
「脚本家の役だったので、それほど身体は使わないだろうと思いつつ、それなりに鍛えたつもりだったんだが、まるで通用しなかった。思いのほかアクションシーンが多く、いつも走ったり転んだり。そうしながらも張り詰めた感情のエネルギーをキープするというのは僕にはかなりハードルが高かった。アクションヒーローをやってみたいという夢もあったんだが、これじゃダメだと反省したよ」

Photo:AFLO
── オスカー役者になっていたわけだから、ピーター監督にオファーされたんですかね?
渡辺 ピーターが直接かどうかは分からないけど、まずエイドリアンに声がかかるんじゃないかというウワサが映画界でたち、それが実現したというプロセスのようです。
「脚本がすでに出来上がっていたのでそれを読んで決めたわけだけど、たとえ脚本がなくてもこの企画なら絶対に出ていたよ。だって『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソンの作品だし、あの『キング・コング』(1933)のリメイクなんだから!」
渡辺 この後取材したのは『プレデターズ』(10)なんですが、そのときこんなことを言っていました。
「『キング・コング』でよく覚えていることのひとつに、共演のジャック・ブラックの子どもたちへの人気があった。みんなジャックを観ると大喜びして、ジャックも嬉しそうだった。僕にはそういうことがなくて寂しかったんだけど、『キング・コング』が公開された後、銀行に行ったら子どもに声をかけられて「『キング・コング』に出ていましたよね? 映画もあなたもサイコーでした」って言われたんだ。僕がどれだけ喜んだか分かるかい? だって、8歳の子どもに「あなたの『戦場のピアニスト』最高でした」なんて絶対言われないから。実のところ『プレデターズ』に出た理由もそういうところにあるんだ。絶対子どもたちが喜んでくれると思ってる」
── 確かに子どもに『戦場のピアニスト』のことは言われないだろうし、言われたら怖いですよね(笑)。

Photo:AFLO
渡辺 その『戦場のピアニスト』のとき、ピアノの特訓をしたと言っていました。
「僕は演技のために何かを学ぶプロセスが大好きなんだ。『戦場のピアニスト』のときは楽譜は読めないのに、ショパンのバラードとノクターンを弾けるようになった。『プレデターズ』では銃やナイフなどの武器の扱い方を学習した。軍人なんだから自信をもって扱わなきゃいけないからだ。演技をするとき、そういう特訓というか勉強の時間はかなり長くとるようにしている」
ということは今回の作品でも建築家らしく、図面のひき方などを一生懸命勉強したのかもしれませんね。そういうリアリティがあってのアカデミー賞なんだと思うので。
── これでまたオスカーを獲得しちゃいましたが、どうなるんでしょうね。
渡辺 2度のオスカーというのはトム・ハンクスらがいますから、それほど珍しいわけでもないですが、オファーは増えるのかもしれませんね。これからの作品を調べてみたら、S・クレイグ・ザラーという監督の『The Bookie & the Bruiser』というのがあって、この作品でも第二次大戦のユダヤ人帰還兵を演じるみたいです。このザラー、『トマホーク ガンマンVS食人族』(15)など、殺人描写が他の監督とはまるで違って、驚くほどリアルなんですよ。個人的にはかなり期待値上がっちゃいますね。
文:渡辺麻紀
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