海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ジョン・ウー
連載
第148回

ジョン・ウー Photo:AFLO
久しぶりにハリウッドに帰ってきた『サイレントナイト』が公開に!
── 今回はジョン・ウーです。『サイレントナイト』(23)という、彼が久々にアメリカで撮ったアクションが公開されました。
渡辺 本当に久々ですね。ハリウッドで撮った最後の映画が2003年の『ペイチェック消された記憶』なので20年ぶりになる。その間は『レッドクリフ』シリーズなどを撮ったり、アジア圏で活躍していた。
本作はウーのハリウッド復活第1作ですが、その後、2024年に『ザ・キラージョン・ウー/暗殺者の挽歌』を撮っている。日本では未公開でDVDがリリースされ、今は配信でも観られるようです。これ、自作の『狼男たちの挽歌・最終章』(89)のセルフリメイクで、女性が主人公になっている。予告編を観ると『サイレントナイト』よりも“ジョン・ウー”していました(笑)。これは観たいですね。
──『サイレントナイト』はセリフがないと聞いていますが。
渡辺 ジョエル・キナマン扮する主人公がギャングに声帯を潰されたという設定なので喋れないんです。でも、TVやラジオの声は流れていて、奥さんもすこーしだけ喋る。なので厳密にいうと全編セリフなしではない。リュック・ベッソンの『最後の戦い』(83)みたいなのとは違います。
タイトルの由来にはもうひとつあって、主人公の男がひとり息子を失ったのがクリスマスで、その復讐を決行した日もクリスマスだからです。クリスマスのプレゼントに喜んでいた幼い息子が抗争中ギャングの流れ弾に当たって死亡するのがことの発端。ギャングたちを追いかけ、そのボスに喉を撃たれてしまうんです。
息子を失ったショックから立ち直れない彼は、それから1年かけて身体を鍛え、銃の腕を磨き、ドライビング技術も習得して復讐に立ち上がる。

── ということは、アクションがてんこ盛りなんですね。
渡辺 メインは冒頭の銃撃戦と後半の復讐戦。ウーといえば華麗なアクションが得意ですが、これはもっと生々しい。いろいろ技術を習得したとはいえ、殺しのプロではないため、そういうアクションにしているのではないかと思いましたね。いつものウーからするとスローモーションも控えめだし、鳩も飛ばない。あ、鳩だと思うシーンはあるんですが、鳥の種類が違っていた(笑)。
まだ実現していない願望「一度、チャンバラを撮ってみたい」
── ジョン・ウーの取材はどの作品で?
渡辺 いろいろな作品でやりました。最初は『男たちの挽歌』(86)、それから『ペイチェック』、『ウインドトーカーズ』(02)、『レッドクリフ』、最後は『マンハント』(17)ですね。彼が日本でも注目されるようになった香港ノワールの元祖、『男たちの挽歌』はちょうど香港に行っていたときだったので取材に参加させてもらったんです。ツイ・ハークもいましたね。内容は覚えてない(笑)。
『ペイチェック』はロスで取材しました。原作はフィリップ・K・ディックですから、香港ノワールの雄との組み合わせはどうよという感じですが、当人はこう話していました。
「SFファンではないし、SFを撮りたいという願望もない。にもかかわらずこの脚本を読んで引き受けたのは“ヒッチコックができる!”と思ったからです。私はいつもヒッチのようなサスペンスフルでロマンチックな映画を作りたいと思っていたから」。
実際、全編にヒッチコック要素を散りばめているんですよ。本人の言葉を借りるとこうなる。
「籠に入った2羽の鳥は『鳥』(63)です(笑)。ベン(・アフレック)が地下鉄で電車に追いかけられるシーンは『北北西に進路を取れ』(59)。だからベンにもケーリー・グラントのようなスーツを着てもらい、髪型も似せてもらった。
真実を突き止めようとするのは『三十九夜』(35)だし、実は『サイコ』(60)と同じカット割りも入れている。もうひとつ、ヒロインにユマ・サーマンを選んだのは彼女が金髪だから。ヒッチのヒロインといえば金髪ですからね」と、かなり徹底している。

Photo:AFLO
今このインタビューを読み返してみると、こんなことを言っていて驚きました。
「もう8年も抱えている企画がある。ミュージカルです。それもアクション・ミュージカル。私の『狼男たちの挽歌・最終章』と、ボブ・フォッシーの『キャバレー』(72)を合わせたような作品。ダンスとヴァイオレンスが美しく混ざり合った映画にしたいんです」
── そういう作品、撮っているんですか?
渡辺 いや、撮ってないと思います。(スティーヴン・)スピルバーグや(リドリー・)スコットら、老齢になるとみなさんミュージカルや音楽映画を撮りたいみたいなので、ウーもこれからではといいたいですが、もう今年で79歳なんですね。それに『狼…』はもうリメイクしちゃいましたから。うーん。

Photo:AFLO
『レッドクリフ』のときは確か、「『三国志』をやってしまったから、あとは『水滸伝』ですかね」みたいなことを言っていました。記憶、ちょっと曖昧ですが。
── ウーと言えば、男たちの友情ですよね?
渡辺 そうです。『サイレントナイト』にも、そういう要素がさりげなく入ってきて“らしさ”が伝わってきます。『ウインドトーカーズ』のときはこう言っていました。太平洋戦争のさなか、白人兵と暗号係として従軍したナバホ族青年の人種を越えた友情を描いた作品です。
「戦争は地獄です。何のためにもならない。私はこの作品で、その無意味さとともに、地獄で唯一価値あるもの、男たちの友情を描こうとしました」というわけです。
その白人兵が『フェイス/オフ』(97)で組んでいるニコラス・ケイジ。彼はこう言っていました。
「ジョンは凄い。オレが泣いているシーンを撮っているとき、彼もいっしょに涙を浮かべている。ジョンは役者と一体化する。そんな監督は彼しかいない」
── やっぱりウー監督は熱い男なんですね。

Photo:AFLO
渡辺 でも、当人はとても物腰が柔らかくて、落ち着いている。熱い、という感じはないんですけどね。ただ、『マンハント』のときは舞台裏を喋ってくれて、もしかして憤ったの?という感じでした。
この映画、原作は西村寿行、映画化では高倉健が主演した『君よ憤怒の河を渡れ』(76)のリメイクです。ウーは健さんの大ファンだし、中国で大ヒットした映画のリメイクなのに、そのリメイクはできなかったと言ってました。こういうことです。
「これは原作小説の映画化で、『君よ憤怒の河を渡れ』のリメイクではありません。なぜなら大映がリメイクを許してくれなかったからです。そのため映画に登場したシーンや独自のエピソードは使えず、すべては小説を基にするしかなかった」。
この言葉を何度か繰り返したので、もしかして憤っている?と思ったんです。
── もしかしたら、ですね。
渡辺 そう、もしかしたらですが。このとき、日本の時代劇を撮ってみたいと言っていました。「『十三人の刺客』(63)や『用心棒』(61)のような時代劇。一度、チャンバラを撮ってみたいんですよ」って。
こうやって彼のインタビューを読み返してみると、撮りたい作品をまだまだ撮ってない感じですね。頑張ってほしいです!
文:渡辺麻紀
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