海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ダニエル・クレイグ
連載
第150回

ダニエル・クレイグ Photo:AFLO
ボンド卒業後初の主演作『クィア/QUEER』でチャレンジングな役に
── 今日はダニエル・クレイグです。ジェームズ・ボンドを辞めて初めての主演作『クィア/QUEER』が公開されました。原作はウィリアム・バロウズの自伝的小説だと聞いています。
渡辺 映画の公開に合わせて同名で新訳が出版されるそうですが、以前はその英語を訳して『おかま』というタイトルでしたね。私は読んでないのですが……。
1950年代のメキシコシティで自堕落な酒とクスリとバラの日々を送っているクィアの米国人、ウィリアム・リーが美しい青年ユージーンにひと目惚れしてしまい、彼と共に南米のジャングルにある植物を探しに行くという物語です。その植物というのが、テレパシー能力を芽生えさせてくれるというもの。なぜそれが欲しいかというと、このユージーンが何を考えているか分からないから。つまり、とてもミステリアスで美しい青年なわけですよ。

── 監督は『君の名前で僕を呼んで』(17)のルカ・グァダニーノですね。これもゲイ映画でした。
渡辺 グラマラスでハンサムな青年×柳腰の美少年という、BL的にも理想としか思えない組合せを実現してくれましたからね。当然、期待は高まるわけですが、ユージーン役の役者ドリュー・スターキーが渡辺的にはめちゃくちゃかっこよく、ひと目惚れにも説得力がありました。さすがティモシー・シャラメを発掘した監督だなと。
この役者、『Love、サイモン 17歳の告白』(18)などにも出ているんですが、まるで記憶にない。今回は眼鏡をかけていて、これがよくお似合いだったので印象が強いのかなって。というかグァダニーノの手にかかると美しくなるのかもしれない(笑)。
── クレイグはどんな感じなんですか?
渡辺 ゲイのおじさん役なので、ある意味、とてもチャレンジングだと思います。だってボンド卒業後の1作目にこれを選び、男子同士の激しいラブシーンやベッドシーンもこなしていますからね。もしかしたらアカデミー賞ノミネートを狙っていたのかもしれないですが、残念ながらそうはならなかった。
ただ、ダニエルさんって『Jの悲劇』(04)ではゲイの男性に付きまとわれる教授、『愛の悪魔/フランシスコ・ベイコンの歪んだ肖像』(98)では異能の画家、ベイコンの恋人を演じていたので、このチョイスはそれほど意外でもないのかもしれません。

ジョン・ファブローが語った、クレイグがボンドを復活させることができた理由
── クレイグの取材は?
渡辺 最初は『007/カジノ・ロワイヤル』(06)でブレイクした後に出演した『ライラの冒険 黄金の羅針盤』(07)でした。みんながジェームズ・ボンドのことを聞きたがって、中には女性の記者から「今回もボンドのようにシャツは脱ぐんですか?」みたいな質問まであった。
── どう答えてました?
渡辺 「舞台は北極だよ。寒くて脱げないね」と上手くかわしてました。本人はボンドを演じたことで「確かに多くのことが変わった。その中のひとつが、親友と映画を撮ることができるようになったこと。これは僕が観客を呼べる役者になったからなんだ。僕は彼をサポートできて本当に嬉しい。ボンド役を引き受けてよかったと思うよ」
── 友だち思いのいい人って感じじゃないですか?
渡辺 その親友がベイリー・ウォルシュという映画人で、作品は『フラッシュバック』(08)というドラマ。私は観てないんですが、ダニエルさんの出番は少ないけれど全裸になっているという情報も(笑)。ウォルシュは『ジェームズ・ボンドとして』(21)というクレイグを追ったドキュメンタリーも撮っているので、その関係性は今も続いているんじゃないでしょうか。
── やっぱりボンドは引きずっちゃいますよね。
渡辺 そうですね。とりわけダニエルさんの場合、プロデュースもやって監督選びから脚本などにまで深くかかわったようなので、これまでとまるで違うジェームズ・ボンドになってましたから。彼の最後の作品になった『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(21)のラストなんてびっくりでしょ。その前の作品『007/スペクター』(15)のときはこう言ってました。

Photo:AFLO
「僕は脚本のプロセスに関わり、映画のイメージの決定にも関わり、ポスターのデザインにさえも関わった。あれこれと口を出したから、みんなはどう思っているか分からないけど。おそらく僕はプロデューサーではなく、ビッグマウスなんだと思うよ(笑)」
そうしたのは、自分なりのボンド像があったからでしょうね。監督のサム・メンデスに続投をお願いしたのも彼のようで「サム、お願い、お願い、お願いだから引き受けてくれー」と毎日懇願していたんだ」と笑ってましたから。
彼のそんな“ビッグマウス”のおかげでボンドが21世紀仕様になったと思ってます。男性ファンは「リアルなボンドなんていらねー」かもしれませんが(笑)。
ちなみに『カウボーイ&エイリアン』(11)でダニエルさんを起用したジョン・ファブローはこんなことを言っていました。
「この映画のダニエルはちょっと現実離れしているキャラクターなんだけど、それでもどこかに人間性を入れてくれた。それは『レイヤー・ケーキ』(04)でも“ジェームズ・ボンド”でも同じ。私はダニエルがボンドを復活させたのは人間性を吹き込んだからだと思っているから」と言ってました。私もそう思います。

Photo:AFLO
── 『クィア』の後のダニエルさんはどんな作品に?
渡辺 グレタ・ガーウィグが脚本と監督をするNetflix『ナルニア国物語』の『魔術師のおい』に出演します。最初にナルニアに足を踏み入れたと言われている錬金術師、アンドルー・ケタリーを演じるようです。原作の挿絵ではマッドサイエンティスト的なルックスだったので、それがどうなるのか気になりますね。私は『ナルニア国』の中ではこの『魔術師のおい』がもっとも好きなのでとても楽しみです。
彼が名探偵を演じる『ナイブス・アウト』シリーズの3作目も決まっていますし、シャーリーズ・セロンと共演する『Two for the Money』もある。このタイトル、アル・パチーノが出演したギャンブル映画と同じなんですが、監督は『ワイルド・スピード』シリーズのジャスティン・リンだしアクションのようですね。そういうわけで、ボンドが終わっても好調のダニエルさんです。
文:渡辺麻紀
(C)2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l./(C)Yannis Drakoulidis