海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

トム・クルーズ

連載

第151回

トム・クルーズ Photo:AFLO

『ミッション:インポッシブル』最新作で、今回も命がけのアクション!

── 今回はトム・クルーズです。日本ではアメリカに先駆けてトムの大人気シリーズ最新作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』が公開されました。

渡辺 日本では洋画の不振が叫ばれていますが、そういう中で鉄板の強さを見せてくれるのがトム・クルーズのアクション映画。パート1に当たる前作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング』(23)はその年の日本の映画興行で唯一、洋画の実写映画としてベスト10にランクインしていましたからね。トムくんはマジで、日本における洋画の救世主だと思います。

── 今回も凄いアクションを見せているんですよね? 

渡辺 前作を観直したんですが、それに比べるとアクションは抑え気味でした。前作は、ヘイリー・アトエル扮するスリのグレースがことあるごとにイーサン・ハントの手を逃れ、その度にいろんなアクションをするという展開。アクションのバラエティを富ませるために逃げている感じでしたが、今回は二点集中。海と空、潜水艦とプロペラ機に絞ったアクションにトム、文字どおり命をかけていました。

特別映像<極限の潜水スタントの裏側>

特別映像<決死のプロペラ機飛行>

このシーンだけスクリーンがIMAX仕様になって大きくなる。ツッコミどころは満載なんですが、それでも2時間49分、退屈とは無縁。エンタテイナーのトムくんの魅力が炸裂しています。ご都合主義でも許せるのはトムくんが頑張っているからですよ。

── もう62歳ですもんね、トムくん。

渡辺 だから、いろいろやるんじゃなく二点に集中したのかもしれない。お馴染みのカーアクションも最小限でしたし、その二点が本作のハイライトです。アクションについては、マイケル・マンの『コラテラル』(04)のとき、こんなふうに言っていました。

「マイケルの『ヒート』(95)にこんなセリフがあるの覚えてるかい? “アクションこそが活力だ”ってね。これは僕のことをよく表していると思う。スポーツや仕事において、僕はチャレンジが大好きで“これは自分にできるだろうか?”という感覚がふつふつと沸いてくる。それがたまらないんだ」

このときは『ミッション:インポッシブル』シリーズもまだ2作で、今に比べるとアクションはまだ控えめ。シリーズを重ねるごとにハードになり、年齢とは逆行している感じです。『ミッション…』の間に『アウトロー』(12)、『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』(16)というジャック・リーチャーシリーズを2本作って、こちらの地に足がついたアクションに転向しようとしたけれど、芳しい結果が得られなかった。だから結局、アクロバティックな『ミッション…』シリーズに戻るしかなかったのでは?と私は読んでいるんですけどね。

とにかく何度もPR来日しているトム。中でも語り継がれているのが、2006年『M:i:III』の来日PR。新幹線を貸し切って東京・大阪間を移動する間、車中で延々とファンと交流
Photo:AFLO

トム・クルーズを“殺した”最初の監督が語る、映画に向き合う姿勢

── それにしても凄いですよ。そういうプロペラ機のシーンも本当に自分でやっているんですよね?

渡辺 風圧で顔がプルプルしまくっていましたが、普通はこれをデジタルで表現するけれど、トムの場合はリアルなんでしょうね。同じく『コラテラル』のとき、子ども時代のことをこんなふうに言っていました。

「僕のチャレンジ好きは今に始まったことじゃない。子どもの頃、確か4歳くらいだったと記憶しているけど、パラシュートで落下する人をTVで見て、自分もやってみようと思い、さっそくベッドからシーツをはがして家の屋根から飛び降りたんだ。もちろん気絶して母が真っ青になったけどね」

4歳のときからイーサン・ハントしてたんですよ、トムくんは(笑)。

1968年、6歳くらいのトム・クルーズ(右端)。友人の誕生日パーティでかしこまって記念撮影
Photo:AFLO

── そうですね(笑)。ところで、その『コラテラル』のトムくんって銀髪の殺し屋で、最後には死んだんじゃなかったですか?

渡辺 そうでした。トムを殺した最初の監督がマイケル・マンです。そのトムの死については、『ヒート』のときのロバート・デ・ニーロと比べてこんなことを言っていました。「トムを殺したことに関しては罪悪感がある」と言いつつ「ラストの選択肢は彼の死、それ以外はなかった」と続けて「ただ、『ヒート』のとき、ロバート(・デ・ニーロ)は“殺さないでくれ”と懇願したんだ。“殺してしまったら、続編が作れなくなる。私はどんどん続編を作りたいから”って。でも、トムにはそれは一切なかった。彼も私と同じように“死”の一択だったんだ」

── かっこいいですね、トムくん。

渡辺 やっぱりトムくんは映画に貢献する人なんですよ。映画を面白くしたり、いい方向に向かわせたりするために頑張る人。それがスクリーンから伝わってくるから、みんな彼を信頼しているんだと思います。

『ファイナル・レコニング』のPRでは、日本を皮切りに世界中へ。途中、カンヌ映画祭にも参加し、マッカリー監督やキャストらチームの面々とハイテンション自撮り
Photo:AFLO

ちなみに今回の『ファイナル・レコニング』はチームワークの映画になっていました。彼がひとり頑張るのではなく、頑張る彼をチームが支える映画。過去作がフラッシュバックであらわれて、集大成的ノリが濃厚なので、テーマ的にもちゃんとシリーズの原点に戻ったんだと思います。『宇宙戦争』(05)のときはチームについてこう語っていました。

「僕はいつだって、自分の力を100%出し尽くしたい。それが俳優のときであろうとプロデューサー、夫、父親のときであろうと、絶対に中途半端はイヤなんだ。実のところ、映画のプロデューサーは父親業とよく似ている。つまるところ、その違いは面倒を見るのがふたりの子どもか、1000人のクルーかという点だけなんだよ」

── おお、それもかっこいい。イーサン・ハントはこの『ファイナル・レコニング』で終わりなんですか? 

渡辺 どうなんでしょう? そういう話も聞きますし、いろんな解釈ができるラストシーンでしたから。

最近のインタビューでは100歳まで映画を撮る、なんて言ってますよね。だからなのかこれからの作品もたくさんあって、『レヴェナント:蘇えりし者』(15)のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督のタイトル未定映画や、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14)の続編、『ミッション:インポッシブル』シリーズの監督、クリストファー・マッカリーと組む第二次大戦映画『Broadsword』など、たくさんラインナップされている。さらに『トップガン マーヴェリック』(22)の続編や、『デイズ・オブ・サンダー』(90)の続編なども考えていると言っていますから、少なくともあと10年はハリウッドのトップスターの座に君臨しそうな勢いですね。

文:渡辺麻紀

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