海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

ジェリー・ブラッカイマー

連載

第154回

ジェリー・ブラッカイマー Photo:AFLO

ハリウッドを代表する敏腕プロデューサー!

── 今回はプロデューサーのジェリー・ブラッカイマーです。彼がプロデュースした『F1(R)/エフワン』が公開中です。

渡辺 『F1(R)/エフワン』は監督もジョセフ・コシンスキーで『トップガン マーヴェリック』のチームが再結成したクルマ版トップガンです。第一線を退いていたかつての名ドライバーが旧友に頼まれて再びF1レースに挑む。彼のもうひとつの使命は才能を活かしきれていない新人を鍛えることと、ストーリーラインは同じようなものです。

ただし主人公はトム・クルーズではなくブラッド・ピット。何でもブラッカイマーたちは、トムは自分でドライビングしたがるだろうから、それじゃあ危険すぎるので最初から彼に頼むつもりはなかった……みたいなことを言っているようです。個人的にはブラピくんで大正解だったと思っています。ひたすらブラピくん、かっこいいですからね(笑)。

『F1(R)/エフワン』のひたすらかっこいいブラピくん

── ブラッカイマーは一時、元気がなかったという記憶がありますが、最近はまたパワーを持ち直したという印象ですね。

渡辺 『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズが終わったことから低調だったかもしれません。大金をかけた『ローン・レンジャー』(13)もコケましたから。『トップガン マーヴェリック』で返り咲いたという感じですね。

ブラッカイマーは本当に何度も取材しています。なぜかというと、自作のインタビュー取材には必ず参加するからです。最初は『パール・ハーバー』(01)だったと思いますね。

ご覧になった方は覚えているでしょうが、この映画、日本軍描写がヘンなんですよ。作戦会議がなぜか青空の下で開かれ、しかもそこには神社の鳥居と巨大な日章旗。日本人的には、もう21世紀なんだからちゃんとしようよという感じなんで、思わず「日本軍描写は日本人的にはひどいです」と言っちゃったんです。こう答えました。

「私たちは、私たちが雇った日本人のアドバイザーの意見に従っただけだ。それに、史実を忠実に再現しようとしたわけでもないから」と、早い話開き直ってました(笑)。そして「みなさん、ハワイを楽しんでますか?」とニコニコ。この取材、映画にちなんでハワイで行われたからなんですが、ネガティブな意見にもまるで動じない強靭さを感じました。さすが敏腕プロデューサーです。

『F1(R)/エフワン』撮影中、サーキットでのジェリー・ブラッカイマー

リドリー・スコットの『ブラックホーク・ダウン』(01)でもインタビューしました。同年の作品ですが、『パール・ハーバー』とは対称的な、リアルであることに焦点を当てた素晴らしい市街戦映画でした。原作者のマーク・ボウデンが面白いことを言っていましたね。

「ジェリーの事務所で行われた最初のミーティングのとき、大きくて長い机の上座に並んで座っていたのはリドリーとジェリーだった。僕が聞いていたのはジェリーひとりが上座に座るということだったから、さすが監督がリドリーだとこういう構図になるんだと嬉しくなったんだ。なぜって僕はリドリーの大ファンだからだよ」

リドさまファンの私も、大プロデューサーのブラッカイマーであってもリドさまはスペシャルなんだと嬉しくなりました。ちなみにこの映画、最初はブラッカイマーとは『コン・エアー』(97)で組んだことのあるサイモン・ウェストが監督する予定だったそうなんですが、スケジュールの都合でエグゼクティブ・プロデューサーだけやったようです。彼だったら絶対、こんなクールな映画にはならなかった。降りてくれて本当によかったです(笑)。

ブラッカイマーはリドさまの弟、トニー・スコットとは何度も組んでいるので、兄弟の違いについて聞いてみました。

「リドリーは落ち着いていて、周囲をちゃんとコントロールできる人。空を旋回するヘリ、何百人というエキストラの動き、銃撃戦、それぞれのカメラの位置、すべてを確実に把握できている経験豊かな監督。とても冷静でクール。全体の様子をモニターでチェックしながらトランシーバーで指示を出す。有能な司令官だよね。トニーの方は若くてエネルギッシュで、自分で走っていってカメラの位置を修正する」

そういう能力、リドさまは秀でまくっているようなんです。シャーリーズ・セロンもそう言っていましたから。

── いや麻紀さん、話はリドさまではなくブラッカイマーです。

渡辺 はいはい(笑)。

『パイレーツ』シリーズ大ヒットの理由をブラッカイマーが分析

渡辺 ブラッカイマーはヒットメーカーのひとりですが、特徴的なのは常に「プロデューサー」というところ。つまり「エグゼクティブ・プロデューサー」ではなく、あくまで「プロデューサー」です。だから名前だけ出すんじゃなく、ちゃんと現場に行って仕事をする。私の好きなところはそこなんです。映画の現場が大好きなんだろうし、映画が大好きなんだろうなって。

ジェリー・ブラッカイマー

それに先見の明もありますよね。『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(03)のとき、ジョニー・デップを口説き落としたのもジェリーだったし、そもそも作られなくなって久しい海賊映画が当たると踏んだのも彼。シリーズの1作目ではジョニー演じるジャック・スパロウは脇役だったんですが、みんなに愛されちゃって次からは主人公になっていた。「ジョニーはジャックを愛してくれた。彼を愛しているし、彼を演じることも愛している。ジョニーにこの役を頼んで本当によかったと思っている」と言っていました。

ちなみに『パイレーツ』シリーズの大ヒットの理由をこう分析していました。

「子どもを連れて観に行ける内容にもかかわらず、大人も同時に楽しめる数少ない映画だからなんだと思う。私たちは、子どもたちが観る映画は単純と決めつける傾向があるから、そういうふうには決めつけられない映画を作ろうとしたんだ。それこそ私が目指している映画だよ」

── 『パイレーツ』シリーズ、また復活するんですよね?

渡辺 スピンオフも含めていろんなバージョンが動いているようです。

ジョニーがアンバー・ハードとの離婚問題で次々と仕事を切られていたとき、ブラッカイマーは『パイレーツ』にジョニーを出演させるのかと聞かれ、自分にキャスティングの権利があるならジョニー以外は考えられないみたいなことを言っていたのが印象的でした。そういう義理堅さもいいプロデューサーの条件のひとつだと思いますね。ジョニーのファンでなくても、ジャック・スパロウのいない『パイレーツ』は考えられないですよ。

── 私もそう思います。

ジェリー・ブラッカイマー

渡辺 トニー・スコットの『デジャヴ』(06)のとき、日々、どういうスケジュールで動いているのか聞いてみたんです。なぜって『CSI』シリーズや『コールドケース』などの大ヒットTVシリーズもプロデュースしていて、その脚本にもちゃんと目を通しているというから、どんだけ忙しいんだと思ったからです。

「ちゃんと寝ているよ(笑)。週末は8時間、普段は6時間。朝6時に起きてジムに行き、自転車に乗りながらテレビを観るか脚本を読む。それが45分くらい。それからは流動的に仕事をする。寝るのはだいたい12時くらいかな」

今年で82歳ですが、写真を見る限りでは思いのほか若々しい。そういうトレーニングと充実した仕事のせいかもしれませんね。これからの作品も山のようですから。個人的に期待しているのはサム・ペキンパーの『ワイルドバンチ』のリメイク。一時期、監督はメル・ギブソンなんて言われていましたが、今は白紙のようです。ぜひともメルギブでお願いしたいですけどね!

文:渡辺麻紀

『F1(R)/エフワン』
公開中

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