海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

マイケル・ファスベンダー

連載

第159回

マイケル・ファスベンダー Photo:AFLO

ソダーバーグの新作で黒ぶちメガネの英国スパイに

── 今回はマイケル・ファスベンダーです。彼が出演した『ブラックバッグ』という作品が公開されました。

『ブラックバッグ』予告編

渡辺 これはスティーヴン・ソダーバーグと、先日来日していた『ジュラシック・ワールド/復活の大地』などの脚本家デヴィッド・コープが組んだスパイもの。英国の国家サイバーセキュリティセンターで起こる二重スパイ事件を描いています。世界を崩壊に導くだろうと言われている不正プログラムを何者かが盗み出し、内部にいるその犯人を捜す使命を帯びるのがベテラン諜報員のファスベンダー。容疑者は5人なんですが、そのうちのひとりに自分の奥さん、同じ組織で働いているケイト・ブランシェットがいるのでさまざまな感情が入り乱れる……というサスペンスです。

何というか、ちょっと変わったスパイもので、アクションはほとんどなく、ファスベンダーを含む6人の私生活が暴露され、それぞれが付き合ったり別れたりしているのでスパイソープオペラみたいな感じもある。世界を揺るがすプログラムを巡る攻防戦とはいえ、それをリアルに描くとこうなるということ? トム・クルーズなら目的達成のために世界を崩壊させるくらいのアクションをやりまくるけど、この映画は「いやいや、実際はそんなことはない」と言っているようで、そこが面白い。

おそらく舞台を英国にしたのも、英国の伝統でもある地味めなエスピオナージものを意識してなんだと思います。そのせいなのか、当のファスベンダーは黒ぶち眼鏡で登場して、まるで『国際諜報局』(65)のマイケル・ケインが演じたサラリーマンスパイ、ハリー・パーマーのようでした。グルメのハリーと同じように料理も作っていたし、マジで意識しているんじゃないかと思います。その『国際諜報局』は、諜報活動しつつ経費の精算の話とか出てきますから。ただ、彼とケイトが住んでいる家はスパイって儲かるの?というくらいのゴージャスな家でした。ちょっと違和感がありましたね。

『ブラックバッグ』

── 麻紀さんはマイケル・ファスベンダー、ファンなんですか?

渡辺 いや、ファンというほどではないですが、上手いなあと思う人です。リドさま(リドリー・スコット)もラッセル・クロウからファスベンダーに乗り換えたのは上手いからだと思います。演技のことは彼に任せて、自分は好きなディテールをやればいいわけですから。

最初に取材したのはそのリドさまの『プロメテウス』(12)。このアンドロイド、デビッド役でリドさまに気に入られたのか、続いて『悪の法則』(13)にも出演しています。

『プロメテウス』予告編

『プロメテウス』のときは『2001年 宇宙の旅』(68)のコンピュータ、HALを意識した声にしたそうです。さらにリドさまの現場についてはこんなことを言ってました。

「どういう声にするかに関しても、いろんなトライをさせてくれるし、セリフを提案したときも“じゃあ、やってみよう”と言ってやらせてくれる。よかったら採用で、ダメだったら“他のアプローチを試してみたらいい”と言ってくれる。絶対に頭ごなしに“それはダメだ”とは言わないんだ。これは素晴らしいと思ったね。そして、より素晴らしいと思ったのは、300人、400人規模のクルーたちの動きをちゃんと把握しているところ。リドリーは映画製作に必要なそれぞれの部門が今どんな動きをしているのか、ちゃんと分かっているんだ。これは凄いよ」

── なるほど。で、ファスベンダーは?

渡辺 「今の役者としての立ち位置に満足しているのか?」という質問が出たんですが、こう答えていました。

「演劇学校を卒業したのが22歳。24から26歳くらいのときの役者としての夢は“仕事が常にある俳優になること”。だから、どんな役であっても仕事があるだけで嬉しかったし、その都度、限界まで自分自身を追い込んで演技したかった。そうすることでさまざまな学びがあると考えたからだ。幸運にも今は、それ以上のキャリアになり、一流の人たちと一緒に仕事ができるようになった。これは本当に名誉なこと。彼らからも実に多くのことを学んでいる」

── 真摯な感じですね。

渡辺 そうやって“学び”を怠ってないから、『それでも夜は明ける』(13)でアカデミー助演男優賞、『スティーブ・ジョブズ』(15)で主演男優賞にノミネートされ、実力派俳優と呼ばれているのかもしれない。

『スティーブ・ジョブズ』予告編

ちなみに『スティーブ・ジョブズ』で共演したケイト・ウィンスレットは彼について「初めての読み合わせのとき、みんな脚本をテーブルに置いていたのに、マイケルだけ何も置いてなかった。彼はあの大量のセリフをもうすべて覚えていたんだから驚いた」云々みたいなことを言っていましたね。脚本のアーロン・ソーキンは基本、アドリブを許さない人。脚本どおりじゃないとダメだと言っていたので、これは凄いなあと思い覚えていたんです。

劇中で必ず一度、裸にならなくてはいけない!?

次に会ったのは、人気ゲームの実写化『アサシン・クリード』(16)でした。ファスベンダーは本作で製作も兼ねているので、もしかしてゲームファン?と思ったら全然違ってました(笑)。

「ゲームのことはまるで知らなかった(笑)。でも、向こうから連絡があり、ゲームの世界観を教えてもらい興味をもったのが最初だった」そうです。しかも本作でも裸になっていて、私の印象で言えばファスベンダーって「よく裸になるおじさん」なわけです。みなさんも『SHAME-シェイム-』(11)とか思い出すんじゃないですか。裸についてはこんなジョークを飛ばしていました。

『SHAME シェイム』予告編

「私の契約書にはいつも“劇中では必ず一度、裸にならなくてはいけない”という項目があるんだ」というのでホントかと思うと「ウソに決まってるじゃないか。ジョークだよ、ジョーク(笑)。裸になることにはあまり抵抗がないんだ。初めてのCMのときも裸だったし」というので、その昔、CMを探してみたんですが裸でした(笑)。確か北欧系のエアラインのCMで、なぜか夜中に階下の台所で冷蔵庫を開けると、彼の裸が映し出される……みたいなCMだったと思います。航空会社がなぜこんなCMという感じでしたが、もしかしたらそれだけいい身体の持ち主なのかも。その身体についてはこんなことを言ってました。

「裸のオーダーがきても、すぐに対処できるように常に身体を作っている……わけではなく、これは私の恵まれたDNAのせいだと思っている。本当によく食べるのに太ることがないんだよ」

今回の作品は47歳くらいですが、いつもどおりの体格でしたね……裸にはなってませんでしたけど(笑)。

映画デビューとなった『300 スリーハンドレッド』(07)では半裸でスパルタ兵を熱演 Photo:AFLO

2016年では『X-MEN:アポカリプス』でもインタビューしていて、このときは思春期の話をしてくれました。

「いろいろと混乱していた思春期に助けられたのは音楽だった。ヘビーメタルをやっていて、ヘッドバンキングをやっていたら、たいていの悩みごとは吹っ飛んだよ」と笑っていました。あのルックスでヘビメタというのはちょっとピンとこないですが、そのころはミュージシャンを目指していて、それから興味が演技に移っていったと言ってました。

あと『コヴェナント』のときも取材しましたが、このときは「サーフィンをやっている」と言って驚かされましたね。リドさまとの仕事っぷりについては「リドリーのディテールへのこだわりは尋常じゃないが、私もとても準備をするので、そういうところが合うんだと思う。彼の現場はとても楽しいよ」と言っていました。

── 一見、神経質そうですけど、当人はわりとフランクなんですね?

渡辺 そうなんです。アイルランド育ちなんですが、実際の彼はアメリカ人みたいな感じ。気さくだし服装もラフで『アサシン・クリード』のときはジャージだったような記憶があります。そういう落差も魅力のひとつという感じですね。

『光をくれた人(16)で共演したアリシア・ヴィキャンデルと2017年に結婚、ふたりの子どもが Photo:AFLO

これからの作品をチェックしたら、韓国の監督、『哭声』(16)や『チェイサー』(09)のナ・ホンジン監督のSFスリラーに奥さんのアリシア・ヴィキャンデルと一緒に出るようですね。リドさまが英国軍VSドイツ軍の本土決戦を描いた『空軍大戦略』(69)をリメイクするらしいので、もしかしたら出演するかも。英国人限定のキャスティングになりそうですが、アイルランドならギリギリOKかも!

文:渡辺麻紀

『ブラックバッグ』
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