海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

レオナルド・ディカプリオ

連載

第160回

レオナルド・ディカプリオ Photo:AFLO

“PTA”の新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』でダメパパに全力投球

── 今回はレオナルド・ディカプリオです。彼と“PTA”ことポール・トーマス・アンダーソン監督が組んだ『ワン・バトル・アフター・アナザー』が公開されています。とても評判いいですね。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』本予告

渡辺 PTAを紹介するとき、よく「天才PTA」と書かれているようで「そ、そうかなあ」と『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)を除いて思っていたんですが、今回は「天才」とまでは思いませんが、それに続く面白さでした。いろんな要素が詰め込まれた映画で、前半は革命家のつもりの軟弱系レオくんと過激すぎる黒人おねえさんの出会いを描き、後半では彼女との間に生まれた娘を拉致され救出に奔走するレオ・パパを描くという具合にいわば2部構成のようになっています。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』特別映像(テンパる革命パパ編)

面白いのは圧倒的に後半で、黒人おねえさんに捨てられ(?)娘と寂しく暮らすレオ・パパが覚醒し、あらゆる手を使って娘を助けようとするものの、どうも上手くいかないという展開で、こんなにダメなレオくんは見たことがないくらいのダメ・パパぶり。協力してくれる若者のあとを追って屋根から屋根に飛び移ろうとしても転落するし、暗号を言えと言われても思い出せずにがなり散らす。車から飛び降りろと言われてタイミングをとっても上手くいかず……と、娘への愛情だけは山積みなんだけど、空回り感がハンパない。それがとてもかわいくて、驚いてしまいました。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』本編映像(思い出せない編)

── かわいいんですね?

渡辺 そうなんです、ぶきっちょなところが大変かわいい。彼だけではなく、今回の敵役ショーン・ペンや、レオを助ける“センセイ”役のベニチオ・デル・トロなど、脇もとてもよかった。俳優の魅力を活かした映画だなあとも思いました。やっぱりレオくん、『レヴェナント:蘇りし者』(15)で念願のアカデミー主演男優賞を獲って落ち着いたんじゃないですかね。賞を考えずに演技できるから(笑)。とはいえ、本作でオスカーノミネートはあるんじゃないの?なんて言われているようですけど。

今回、レオが「もっとも後悔したのは『ブギ―ナイツ』(97)のオファーを断ったこと」みたいな発言をして話題になっていましたが、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02)のとき、こんなことを言っていたのを発見しました。

「コメディはタイミングが重要で、ちゃんと観客に理解されないといけないし、信じてもらわなきゃいけない。コメディを作るのはとても大変なんだよ。映画ファンとして僕が興味あるコメディは、とてもシリアスでいて同時にとてもおかしいもの。あるいは、とてもおかしいのにシリアスなもの。そういうのが一番好きだ。最近のお気に入りはだから、『パンチ・ドランク・ラブ』(02)になる。とてもシリアスだけど、同時に何度も大笑いさせられたよ」

── おお、PTAの作品じゃないですか。

渡辺 そうなんですよ。私は『ブギ―ナイツ』を断った云々というのはリップサービスじゃないかと思っていたんですが、もしかしたらホンキだったのかもと、この言葉を見つけて思いました。というか、まさに本作「シリアスだけど大笑いできる」映画なので。やっぱり、本当にそういう映画が好きなんだろうということです。

シリアスだけど大笑いできる『ワン・バトル・アフター・アナザー』でイイ味を出しまくる“センセイ”役ベニチオ・デル・トロ

キャメロン、イーストウッド……組んできたのは錚々たる巨匠監督たち

── レオくんの取材は何度もやっているんですよね。

渡辺 そうですね。彼がまだ19歳くらいだった『ギルバート・グレイプ』(93)の来日が最初でしたね。このときはニキビを気にしていてかわいかったですよ。これで初めてアカデミー賞(助演男優賞)にノミネートされたわけですが、このときのことを『J・エドガー』(11)の取材でこう語っていました。

「何が起きているか信じられなかった。母と父はとても興奮していて“お前、何が起きているか分かっているのか?”って感じだった。僕は混乱していて、授賞式に行くのもとても消極的だったのをよく覚えている」

ディカプリオの名を最初に世に知らしめた『ギルバート・グレイプ』予告編

ちなみに『アビエイター』(06)のときはどうだったか尋ねると「何も期待してなかった。もらえるとはまるで思ってなかったよ」って。

私はレオ、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)で獲るべきだったと思っていたんですが、今回の映画も役も同じようなテンションなので2度目があっても不思議じゃないとは思います。

『タイタニック』(97)で組んだ(ジェームズ・)キャメロンが、「レオは葛藤のある役が大好きで、『タイタニック』の役は葛藤がなかったから何度も何度も演技を変えたいと言ってきた」云々と言っていましたから。

第10回東京国際映画祭(今年は第38回)のオープニング作品となった『タイタニック』。来日記者会見でのディカプリオとジェームズ・キャメロン
Photo:AFLO

── ということは、コラボレーションは上手くいかなかったわけですね?

渡辺 『タイタニック』のときはね。『J・エドガー』では、大体ワンテイクかツーテイクでその撮影を終わらせる(クリント・)イーストウッドに「もう一度やらせてくれ」と言って周囲を凍りつかせたという話がありましたが、その映画のときは演技についてこう言っていました。

「僕が映画史で観たすべての偉大な演技は、役者と監督のコラボレーションの結果なんだ。人々は一緒に仕事し、アイデアを分かち合う。そしてそれらについて議論し、その結果が素晴らしい映画を生むんだよ」って。ということは、キャメロンとは美しいコラボレーションができなかったけど、結果は素晴らしかったということですね。

イーストウッドから学んだことを尋ねると「ちゃんと準備をしなきゃいけない。撮影が始まる前までに自分のキャラクターを深く理解していないとダメだ。クリントは自分の直感を信じて演出する監督であり、役者に自信を与えてくれる監督でもある。モニターを通して演技する俳優を見て、いいと思ったらためらわずに次にいくから」と言っていましたね。

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』の(スティーヴン・)スピルバーグはレオのことをこう言っていました。

「レオには驚くべき才能があるよ。彼がよくやるのは、自分のテイクをプレイバックで見直すこと。そうやって自分自身から演じているキャラクターを学ぶんだ。小さなモニターの中で各シーンごとにプレイバックを見ながら探求の旅をしているという感じだろうか」

ディカプリオが監督スピルバーグ、共演トム・ハンクスと組んだ『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』

── そうやって監督の名前が出ると錚々たる人たちばかりですね。

渡辺 リドリー・スコットとは『ワールド・オブ・ライズ』(08)、クリストファー・ノーランとも『インセプション』(11)、もちろんマーティン・スコセッシと、一流の監督ばかりです。ただ、作品を選ぶときの条件を尋ねたら、こう言っていました。

「脚本を読んだとき、僕自身が夢中になれるかどうかがもっとも重要。ジャンルや題材、舞台などは関係ない。脚本を読んで何かを感じることが第一なんだ。さらに、自分がその役柄を演じることで作品に貢献できると思ったら、他のことは何も考えない。ヒットするだろうかということも考えない。そういうことが頭をかすめるのは、そういうことをジャーナリストに聞かれたときだけだ」と言っていました。

── レオは自分のプロダクションをもっていて製作には積極的ですが、監督業には興味ないんですかね。

渡辺 その『インセプション』のときは「自分に監督の力量があるかどうか分からない」と言っていて、「でも、プロデュースはとても楽しいから続けるし、時間があけば環境問題に取り組みたいと思っている」と言っていたので、いまだにメガホンを取る時期ではないと思っているのかもしれません。そういうウワサもないし、そもそもこれからの予定出演作が15本以上もあって驚きました。

まだウワサ段階ですが、マイケル・マンの『ヒート2』にも名前が挙がっているようですね。役どころは主役のふたりじゃなく、ヴァル・キルマーが演じたクリス・シヘリスなんですけどね。もし彼がこの役だったら、噂になっているアダム・ドライバー&オースティン・バトラーが主役では年齢的に釣り合わない。どうなんでしょう?

レオは今年で51歳。これまで挫折をほとんど知らないんじゃないでしょうか? 本人は「奇跡」と言ってますけど、いまだにハリウッドのトップランナーですから、本当に凄いです。

文:渡辺麻紀

『ワン・バトル・アフター・アナザー』
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