海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ロブ・ライナー
連載
第165回
ロブ・ライナー Photo:AFLO
『スタンド・バイ・ミー』など多くの名作で知られる監督にまさかの悲劇が
── 今回はロブ・ライナーです。12月15日、奥さんと一緒に殺害されてしまい、日本でも大きく報道されました。後日、容疑者としてあがったのが彼らの次男のニック・ライナーだったのでより注目度が大きくなってしまったという感じでしょうか。
渡辺 びっくりしましたね。私もライナー、久々に名前を聞いたんですが、まさかそれがこんな訃報だとは。彼の最後の監督作は、2017年の『記者たち 衝撃と畏怖の真実』という映画でした。すでに78歳で8年間撮ってないから、引退していたのかもしれません。
日本のニュースでは、彼の代表作として『スタンド・バイ・ミー』(86)、『恋人たちの予感』(89)などの映像を流していました。
あらためて彼のフィルモグラフィを調べてみると、良質な作品が多い。その2本はもちろん、カルトな人気を誇るロックのモキュメンタリーコメディ『スパイナル・タップ』(84)や、物語ることの素晴らしさを描いた『プリンセス・ブライド・ストーリー』(87)、トム・クルーズ×ジャック・ニコルソンによる軍の法廷ドラマ『ア・フュー・グッドメン』(92)などはよく覚えています。
20世紀にいい作品が集中していますが、私が取材したのは21世紀に入ってからのヒット作、ジャック・ニコルソン×モーガン・フリーマンの『最高の人生の見つけ方』(07)でした。余命宣告をされたふたりのじいちゃんが偶然、同じ病室になり意気投合する。そして、死ぬまでにやりたいことを挙げ、それをこなしていくというストーリーです。原題はそれを意味する『Bucket List(バケットリスト)』ですが、この映画のヒットによって日本でもよく使われるようになりました。
2019年には、ニコルソンを吉永小百合、フリーマンを天海祐希の顔合わせで女性版というかたちでリメイクされました。ライナー版はワーナーブラザースで、日本版は日本のワーナーがローカルプロダクションの1本として製作しています。
── どんな方でしたか?
渡辺 身体のでっかいおじさんでした(笑)。撮る映画同様、優しい感じというか、まさにハートウォーミングな雰囲気。このときは、彼の他にもニコルソン、フリーマンもインタビューしましたね。正直、一番印象に残っているのはニコルソンでした。初めてだったし、難しそうな人じゃないですか? 緊張したのですが、当人はとても穏やかで優しかった。日本人の私たちをとても気遣ってくれてびっくりでした。
── ライナーはどんなことを言っていましたか?
渡辺 最初に決めていたのはフリーマンだったそうです。で、ライナーとフリーマン、ふたりそろってニコルソンがいいということになったと言っていました。この組合せは「まさにドリーム・カム・トゥルーだよ。ふたりの共演は初めてだったんだが、相性はバツグンだった。だから気苦労のようなものはゼロだったし、監督としてはまさに天国にいるような気分だった」ということです。映画自体、このふたりだからこそ成立するようなところもありましたからね。
Photo:AFLO
この映画のとき、ライナーは60歳で、この年齢が本作を撮る動機のひとつになったと言っていました。
「私は今年で60歳。歳を重ねるにつれ、死が必ずやってくること、自分が意味のある人生を生きたかどうか、やるべきことをやり遂げられたか……そんなことを考えるようになった」
自分がしたことに後悔はない。しかし、してないことに対しては後悔する
渡辺 もうひとつ、本作と『スタンド・バイ・ミー』を重ねていましたね。
「『スタンド・バイ・ミー』の少年たちは死体を見に行く旅に出て、その間に自分たちが解決しないといけない問題に直面する。『最高の人生の見つけ方』では、死期が迫った老人たちが旅に出る。彼らも友だち同士で、死ぬ前に解決しなければいけない問題と向き合うんだ。私の中ではこの2本、深い関係性があったんだ」。
その2本とも、“死”という共通ワードがありますが、暗いどころか勇気をもらえるような映画でした。それについてライナーは「死ぬことじゃなく、生きることについての映画を作ろうとしたからだと思う。エモーションとユーモアの間にいいバランスがある映画になっていると自負している。それが私の人生観だから。人生というのは悲劇的で可笑しい。対極的な要素が入っているんだ。その適切なバランスを見つけるのが難しかった」と言っていました。
── なるほど!
渡辺 ちなみに本作の中で、お金持ちのニコルソンが病室でイタリアンレストラン、トスカーナの料理をふるまうシーンがあるんですが、このレストランは実在していて、ロスの高級住宅地ブレントウッドにあるんです。このレストラン、私も何度か行ったことがあって、行く度に映画人が来ていた。ロブ・ライナーが来ているのを目撃したこともあるので、おそらくライナーのご贔屓レストランだったんだろうって。
Photo:AFLO
── ご自分の“バケットリスト”についても話していましたか?
渡辺 この映画のインタビューで必ず聞かれることだと言っていました。今回の彼の死に関してはトランプ大統領の発言が物議を醸していましたが、政治についてはこう語っていました。
「自分のもつ才能の可能性を判断し、それらを活かして自分がやれるベストの仕事をするということ。映画であろうと政治的な活動であろうと、だ。私はこれまでに政治的な活動もいろいろやっていて、それは常にリストにアップされている」
続けてこうも言っていました。
「ベストを尽くすことができれば、私は意味のある人生を生きることができたんだと感じられるだろう。これは聞いた話だけど、意味のある人生を送っていれば死んでも構わないと感じる人もいるようだ。私がそうなれるかは分からないけど。これは私だけではなくジャック(・ニコルソン)も言っていたんだが、自分がしたことに後悔はない。しかし、してないことに対しては後悔する。たとえやったことが失敗を招こうと、やったことには後悔はない。なぜなら、何かをするという経験になり、そこから何かを学べているはずだからだ」
また、こんなことも言っていました。
「いつも自分自身が何者なのかということを人生でできる限り学び続けるというのが、私のバケットリストのトップにあり、真ん中にあり、最後にある。常にリストにあるということだ」
── そういう言葉を聞くと、悲しくなりますね。
渡辺 これだけ前向きに生きてきたような監督なだけに、ですよね。ご冥福をお祈りします。
文:渡辺麻紀