海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

ダーレン・アロノフスキー

連載

第166回

ダーレン・アロノフスキー

オースティン・バトラー×ネコが嬉しい最新作『コート・スティーリング』が公開に

── 新年、最初のこのコラムは監督のダーレン・アロノフスキーです。彼がメガホンを取った『コート・スティーリング』が公開されました。このタイトル、どういう意味なんですか?

『コート・スティーリング』予告編

渡辺 野球用語で、資料には「盗塁失敗」「チャンスを掴もうとして失敗すること」とあります。オースティン・バトラーが演じている主人公のハンクは、メジャーリーグに行けるほどの才能を持ちながらある事件を起こし、その夢が叶わなかった青年です。本作ではそんな彼が、イギリスに一時帰国するというアパートの隣人からネコの世話を頼まれ、そのおかげで大変な目に遭ってしまう。次から次へと襲ってくる災難と闘うオースティンくん、というブラックコメディです。渡辺的にはオースティン×ネコの組み合わせは美味しすぎるので、しっかり楽しませてもらいました!

── 確かに面白そうですね。

渡辺 嬉しくなるのは、ネコをないがしろにしてない点です。オースティンもアロノフスキーもネコを出演者のひとりとしてちゃんと扱っている。オースティンくん、命が危なくなるシチュエーションに度々なるんですが、それでもネコを忘れない。オースティンはいいヤツなんですが、何せ意志が弱い。そのせいで失敗を繰り返すんですが、ネコに対してだけは違うんです。素晴らしい!

『コート・スティーリング』のオースティン・バトラーとカメラ目線のネコ

── 面白そうですが、アロノフスキーっぽくないような感じもしませんか?

渡辺 初期の『π』(98)や『レクイエム・フォー・ドリーム』(00)などの印象が強烈だったのでそう思われるかもしれません。でも、やっぱりちょっと意外な『レスラー』(08)のときに「クリエイティブな人間だったらいろんなことにチャレンジしたいものだし、そうすべきだと思っている」と言っていました。彼としては「笑える」映画にチャレンジしたかったんじゃないでしょうか。

2026年2月6日(金)公開『レクイエム・フォー・ドリーム 4Kリマスター』本予告

── 『レスラー』はミッキー・ロークのカムバック映画としても注目されましたよね。最近のミッキーは、家賃が払えずクラウドファンディングでお金を募っているというニュースが流れてましたが。

渡辺 ミッキーにこだわったキャスティングだったと言っていました。「ミッキーの目には燃え盛る炎のようなものがある。映画作家というのは、まだ観客に見せてない魅力を持っている俳優にワクワクする。彼、彼女から凄いパフォーマンスを引き出してやるって思うもんなんだ」。

ついでにミッキーの変人っぷりも聞いたんですが、「たくさんありすぎて何を言えばいいんだか(笑)。マリサ(・トメイ)とのバーでのキスシーンでは、そこに流れる曲が気に入らないから踊るのもキスするのも絶対イヤだと言って譲らなくて。マリサもイヤだと言いはじめ、甘いシーンにもかかわらず、私は悪夢のようだったんだから!」と。

『レスラー』予告編

そして、こんな面白い発言がありました。

「私が俳優に主演をオファーすると、だいたい断られるんだ。受けてくれるのはミッキーのようなセカンドチャンスを渇望している人だけ」と言っていて、だったら『ブラック・スワン』(10)のナタリー・ポートマンはどうなんだと思いますよね? 

で、思い出したのがナタリー、「あたしが演じた『スター・ウォーズ』のアミダラをみんなが嫌ったの。だからしばらく仕事のオファーが来なかった」みたいなことを言っていたなあって。もしかしたら彼女も「あえて」選んだのかもしれませんよね。ミッキーも『レスラー』でアカデミー賞にノミネートされ、ナタリーは『ブラック・スワン』でアカデミー主演女優賞を獲得してますから。

『ブラック・スワン』予告編

あ、セカンドチャンスといえば、『ザ・ホエール』(22)のブレンダン・フレーザーもですよ。『ハムナプトラ』シリーズでブレイクしたもののいつの間にか忘れられ、このアロノフスキー作品でアカデミー主演男優賞を獲得しましたからね。セカンドチャンスをモノにしたいならアロノフスキー映画に出ろ!ということなのかな(笑)。

── そうなのかも!(笑)。

『ザ・ホエール』予告篇

徹底して“セカンドチャンス”を描いている……!?

渡辺 アロノフスキーのこれからの作品に『POLE TO POLE~未知への挑戦WITH ウィル・スミス』というドキュメンタリーがあって、ウィル・スミスの地球の自然を巡る旅を記録しているようなんです。彼もアカデミー賞授賞式のときのビンタ騒ぎで干され、セカンドチャンスが必要な人じゃないですか? ただ、アロノフスキーは監督ではなくエグゼクティブ・プロデューサーなのでちょっと違うんですが。

『POLE TO POLE~未知への挑戦WITH ウィル・スミス』【テレビ初放送】
1月19日(月)より毎週月曜21:00-22:00(※初回2話拡大 21:00-23:00)

── 彼が監督するのが復活の条件なのかもしれませんからね(笑)。

渡辺 このドキュメンタリーで思い出したんですが、旧約聖書をベースにした『ノア 約束の舟』(14)の取材のとき、地球の環境問題を深く憂いていて、ノアの方舟の神話はそういうことに対する人類への警鐘だと力説していました。

「今も荒れ狂う天候によって大きな災害が地球規模で引き起こされている。その原因をつくったのは我々人間なんだ。このまま破壊を続けたら、いずれ私たちが殺されることになる。そういう警告が込められているんだ、神話にも私の映画にも」

さらに、こうも言っていました。

「聖書にのっとって考えると、私たちが今こうやって生きているのは、神から与えられたセカンドチャンスなんだ。せっかくのチャンスを活かすためにはどうやって行動すればいいのか、ちゃんと考える必要がある。二度目のチャンスをモノにしなければ、とんでもないことになるんだよ」

『ノア 約束の舟』予告編

── あ、また「セカンドチャンス」ですね。

渡辺 そうです。私たちが今生きていられるのは二度目のチャンスを与えられたからということですよね。このインタビューは2014年の映画公開の頃なので、今はもっと自然環境が酷くなっているから、人類なんて消えてヨシくらい思っているかもですよね(笑)。

環境についてはいろいろ考えているようで、初めてインタビューした『ファウンテン 永遠につづく愛』(06)のときから、「アジア的な思想、“輪廻転生”を取り入れた映画。輪廻転生はリサイクルであり再生利用だから」と言っていました。『ファウンテン』の場合は愛の再生利用で、しかもそれが当時つきあっていたレイチェル・ワイズに捧げているみたいなことを言っていましたが、『ノア』のインタビューをした後は、実際はリサイクルされるエネルギーとしての意図が強かったんだなって思うようになったんです。

『ファウンテン 永遠につづく愛』予告編

── 輪廻転生が愛のリサイクルって、ユニークですね。

渡辺 アロノフスキーらしいのかもしれません。また、このとき、映画にちなんでこんな質問をしたんです。神は自分がクリエイトした人類を破壊しようとしたけれど、クリエーターのあなたは自作についてそういう衝動に駆れることはありますかって。こう言っていました。

「いつもだよ! フィルムメーカーにとって人生最悪の日は、撮った映画の最終カットを初めて観るとき。自分が思っていたように出来上がっていることはまずない。だから、これから先、思い描いた作品にどうやって近づけていくかを考えると、もう全部消してしまえという気分になる。でも、そんなことはできないから、そういう葛藤を抱きながら近づけていくしかないんだ」

── その気持ちは分かるような気がします。さて、そんなアロノフスキーの次の監督作は?

渡辺 『Breakthrough』です。自己啓発の指導者にのめり込んでいく若者を描くサイコロジカルなスリラーで、その指導者にはドゥエイン・ジョンソンが決まっています。もしかしたら彼も、アロノフスキーに新しい魅力を引き出してもらいたくて出演したのかもしれない……なんて深読みしちゃいます。彼にとっては得意分野なので本領発揮になりそうです。

文:渡辺麻紀

『コート・スティーリング』
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