海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

ブレット・ラトナー

連載

第168回

ブレット・ラトナー Photo:AFLO

大統領夫人メラニアのドキュメンタリー映画で12年ぶりに映画復帰

── 今回は監督のブレット・ラトナーです。彼が久々にメガホンを取った話題のドキュメンタリー、『メラニア』が公開されました。合衆国大統領ドナルド・トランプの奥さん、つまりファーストレディですね。2025年1月に行われた大統領就任式に至るまでの20日間、メラニアの行動を追っています。

『メラニア』予告編

渡辺 一応、ジャンルとしてはドキュメンタリーなんですが、私にはメラニアのプロモーションビデオに見えましたね。私生活といっても就任式に着用するドレスの試着やデザインへのこだわり、そのときのテーブルセッティングとか、そういう部分が多い。常にピンヒール、常にフルメイク、常に高そうなファッションと、息を抜いている感じ、素顔を見せている感じは皆無でした。プロモーションビデオと言ったのは、毎日毎日、世界をお騒がせしているトランプ大統領の影で存在感の薄い彼女が、「私も頑張ってるの!」とアピールしている感じが強いからです。

『メラニア』

── 面白いんですか?

渡辺 私はそうでもなかったですが、セレブな生活が覗けて嬉しかったとか、大統領就任式の舞台裏がやっぱり面白いとか、そういう人もいますね。就任式にはこの映画を作ったアマゾンMGMのジェフ・ベゾスやイーロン・マスクも参加していますから。世界同時公開だったそうで、アメリカの映画のデータサイト、IMDBの読者評は10点満点で1.3点でした。もしかして公開作品の中では最低に属する数字かもしれない。

また、同じくアメリカの映画サイト、Rotten Tomatoesでは面白い結果になっていて、評論家たちの中で褒めているのはわずか6%、でも観客は99%が満足したことになっている。トランプ支持者が頑張ったのか、バカにしているのか分かりませんけど。中には「メラニア夫人はまさに誇り高きアメリカ人であることが分かりました」と書いている人もいた。

── そういうのはやっぱり支持者なんですかね? 

渡辺 どうなんでしょうね。文章だけじゃどこまで本気がよく分からないから。ちなみにメラニアさんはプロデューサーでもあるので、かなり自分の好きなように作ったんだと思いますよ。

メラニアは1970年ユーゴスラビア生まれ。1946年生まれのドナルド・トランプと2005年に結婚、3番目の妻となった

── 監督のラトナーは干されてたのに、これで復帰なんですかね。

渡辺 #MeToo運動が盛んだった2017年頃、複数の女優からセクハラ行為をやったことが明らかにされて休業を余儀なくされたんです。どんな行為をしたのか詳しく書いているものを読んだら、あまりにエグすぎてドン退いてしまいました。『メラニア』公開後には、トランプとも仲がよかったと言われる性的人身売買で起訴され自殺した大富豪ジェフリー・エプスタインと一緒に、女性に抱き着いている写真がオープンになったりしたので、これで復帰となるかどうかは分からないんじゃないでしょうか。『ヘラクレス』(14)以来、12年ぶりの監督作なんですけどね。

2014年10月、『ヘラクレス』来日記者会見で主演スター、ドウェイン・ジョンソンの頭頂をティッシュで拭うラトナー
Photo:AFLO

ただ、トランプは、自分の支持者で、今やパラマウントスタジオを手に入れた世界一の富豪、オラクルの創始者ラリー・エリソンの息子デビッドに、ラトナー監督で『ラッシュアワー4』をつくれと迫ったというウワサです。エリソンファミリーが牛耳っているパラマントだとそういうことになるので、ワーナーが買収されるのはNetflixの方がいいなあと思うんです、私は。

── ヤバい者同士で気が合うんですかね、トランプとラトナー。

渡辺 価値観が近いんじゃないですか? それにトランプは自分にすり寄ってくる人にはすぐ寛大になる感じですよね。

代表作は『ラッシュアワー』シリーズ。得意なのはリップサービス!?

── 話がトランプに行ってしまいましたが、ラトナーです。

渡辺 取材は来日したときで、最初は『ラッシュアワー2』(01)、次が『レッド・ドラゴン』(02)だったんです。詳しいインタビューの内容は資料をなくしちゃったのでよく分からないんですが、覚えている言葉というかエピソードがひとつだけあるんです。

ブレット・ラトナーと言えば『ラッシュアワー』シリーズ。こちらは1作目の予告編

『ラッシュアワー』のとき、監督を目指すようになったきっかけを尋ねたら「僕はマイアミ出身で、いつも『特捜刑事マイアミ・バイス』(84~89)の撮影を見ていて興味をもった」云々と言っていたんです。でも、『レッド・ドラゴン』のときは「僕はマイアミ出身で、子どもの頃、この目で『スカーフェイス』(83)の撮影を見たんだ。それに大コーフンして映画に興味をもち、監督を目指すようになった」というような発言でした。

2本ともラトナーの年齢は15歳前後の頃なのでずれはないし、どちらが正しいのか分かりませんが、もしかしたら作品に合わせているのかなと思いましたね。『レッド・ドラゴン』ならブライアン・デ・パルマ、コメディの『ラッシュアワー』ならTVシリーズって。

── なるほど!

渡辺 もし作品に合わせているのなら、プレゼンとか上手そうですよね。そういう才能にトランプやメラニアが乗せられて監督をお願いしたのかもしれない。というよりエプスタインを介しての仲良しさんだったりして(笑)。プレゼン上手というか口も上手いとも言える。

彼がハリウッドを追放になる直前の作品『ヘラクレス』のときはロスで取材だったんですが、日本人の私たちにサービスしてくれるような発言が多かったんです。『ヘラクレス』は同名のグラフィックノベルの実写映画化で、ドウェイン・ジョンソンがそのヒーローを演じています。

『ヘラクレス』ブルーレイ発売時のプロモーション映像。ラトナーや女優陣の姿も

「みんなが知っている伝説の男になる前を描いているところが気に入ったんだ。自分を信じることのできない男が、旅を通して自己を発見し自分を信じるようになる。群集劇でもあるので、そこはとてもクロサワ(黒澤明)っぽい。僕の大好きな『七人の侍』だ」

── 『七人の侍』っぽかったんですか?

渡辺 覚えてないんです(笑)。

それよりも、今インタビューを読み返して興味深かったのは女優についてです。この映画にはトップモデルとして知られるイリーナ・シェイクや、先日公開されたばかりの『MERCY/マーシーAI裁判』などにも出演しているブレイク前のレベッカ・ファーガソンが出ているんですが、彼女たちについてこんなことを言っていました。

「僕はこの映画に名前の知れた女優を出したくなかった。新しいタレントを世界中から見つけたかったんだ。アタランタ役のイングリッド(・ボルゾ・ベルダル)なんて、初めて会ったときはやせっぽちの普通の女の子だった。それから3カ月、食事制限をしワークアウトして頼もしい女性戦士になったんだ」

今となっては、こういう新しい女優を選んだ理由が他にもあるんじゃないかと邪推しちゃいますよね。

左端がイリーナ・シェイク、右端がイングリッド・ボルゾ・ベルダル
Photo:AFLO

── 一度、そういうレッテルを貼られちゃうと名誉を回復するのは難しそうですね。

渡辺 同じような理由でハリウッドを追放になったブライアン・シンガーやケヴィン・スペイシーも、復帰しているとはいえませんから。やっぱり一緒に仕事をしようという人がいないのかもしれない。映画はひとりじゃできませんからね!

文:渡辺麻紀

『メラニア』
上映中

Regine Mahaux/Amazon MGM Studios Muse Films/Amazon MGM Studios