海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
ステラン・スカルスガルド
連載
第169回
ステラン・スカルスガルド Photo:AFLO
『センチメンタル・バリュー』で意外にも初めてのオスカーノミネート
── アカデミー賞授賞式(日本時間3月16日)が間近なので、日本でもノミネート作品が次々と公開されています。その1本がスウェーデン映画の『センチメンタル・バリュー』。アカデミー賞では作品賞をはじめ8部門、9ノミネートを果たしています。助演女優賞にエル・ファニングとインガ・イブスドッテル・リッレオースのふたりがノミネートされているので9つになりますね。で、今回はその中で助演男優賞にノミネートされているステラン・スカルスガルドを取り上げます。
渡辺 ハリウッド映画でも重要な役を演じているステランですが、今回は初アカデミーノミネートだそうです。さらに外国語映画で助演男優賞にノミネートされるのも初とのことです。『マンマ・ミーア!』シリーズや『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、さらに『マイティ・ソー』シリーズにも出演していて、映画ファンにはお馴染みですし、演技力も定評がある。なので初ノミネートというのは意外なくらいでした。
── で、これはどんな映画なんですか?
渡辺 『わたしは最悪。』というデンマーク映画で注目された、同国出身のヨアキム・トリアー監督&脚本作です。この監督、女性を主人公に家族の話を描いている人で、本作がその集大成的な立ち位置になるのかもしれない。主人公とその家族が住んでいた“家”が重要な役目を果たしていて、そこが面白いといえば面白い。ただ、私はこういう家族に振り回されて悶々とする話が得意じゃないので、かなり距離感がありましたけど、共感できる人は多いのかもしれない。家族の問題はインターナショナルではありますから。
家族と言えば、彼にはハリウッドでも活躍している息子がいる。『ゴジラVSコング』(21)などのアレクサンダーと、『ITイット』シリーズでペニーワイズを演じた弟のビルです。次男のグスタフ、5男のヴァルダ―も役者だそうです。最初の奥さんとの間に6人の子ども、次の奥さんとの間にはふたりと、子だくさんなお父さんでもあるようです。家族に振り回されている可能性もある(笑)。
Photo:AFLO
── 8人は確かに子だくさんですね(笑)。 ステランさんはどんな役を演じているんですか?
渡辺 主人公の舞台女優(アカデミー主演女優賞にノミネートされているレナーテ・レインスベ)の父親で、映画監督という設定です。母親と離婚し疎遠になっていた父親が新作を撮ることになり、娘に出演を依頼するが断られる。その代わりに登板するのが、エル・ファニング扮する人気のハリウッド女優。彼女も初ノミネートですが、この役には若すぎるというか子どもっぽいと感じました。
ステランさんは邪悪な役をよくやっているので、そういう印象が強いんですが、本作では危険な感じは消していていつもどおりの安定演技です。なぜこれでノミネートなのか正直、よく分からないんですけどね。
── なるほど(笑)。どの作品で取材したんですか?
渡辺 彼がヘンタイおじさんを演じていた『ドラゴン・タトゥーの女』(11)です。映画と原作小説の舞台になっているスウェーデンのストックホルムで取材しました。この大ベストセラーの映画化はすでにスウェーデンで作られていて、ある意味、ハリウッドリメイクになるんですが、舞台は同じストックホルム。それについて監督の(デヴィッド・)フィンチャーはこんなことを言っていました。
「最初はシアトル周辺を考えていた。で、リサーチのためにストックホルムに行ったら、こういう厳しい土地だからこそ、こういう事件が起きたんだと思い、スウェーデンで撮ることにしたんだ」。
── それって、考え方によっては結構ヤバいですよね? スウェーデンの環境はサイコ野郎がいても不思議じゃないと言っているように聞こえません?
渡辺 そうもとれます。でも、フィンチャーらしい言葉だと思いますよ(笑)。で、そのヘンタイ野郎を演じていたのがステランさんです。原作を読んでいたこともあるけど、やっぱり彼が登場すると「ああ、この人がきっと……」という感じになっちゃいます(笑)。
“映画のすべてを知っている”と思った監督はあのふたり
渡辺 ただ、この取材のときは彼、キャストの中で唯一、原作を読んでいなかったと言っていました。それについての面白い逸話を話してくれました。
「犯罪関係の小説には興味がないから読んでないということもあるけど、もうひとつ理由がある。数年前、あるベストセラー小説の映画化に出演することになり原作を読んだんだ。で、その映画の取材のとき、ジャーナリストに作者の印象を訊ねられ、つい本音を言ってしまった。“世界でも指折りの酷い作家だ”ってね(笑)。LAタイムスにその言葉が使われて、その後の処理が本当に大変だった(笑)。だからヘタに原作は読まない方がいいということにしたんだよ」
── その原作と原作者って誰なんでしょう?
渡辺 聞きました! 「どの作品だったか聞くのかい? いいよ、『天使と悪魔』だ。私の意見、正しいと思わないかい?」って。彼を囲んでいたジャーナリストは大笑いで、インタビューが盛り上がりました(笑)。
── 正直な人なんですね(笑)。
渡辺 というか、今までいろんな人に取材した経験で言うと、ハリウッドというかアメリカの俳優は本音を言わないような気がしますが、ヨーロッパの人は割と正直に答えてくれるような印象があります。アメリカの場合、マネージャーなのかエージェントなのか分かりませんが、インタビュー前にマスコミ対応のレッスンをするようですから、優等生っぽい答えになるんだと思います。
ただ、たとえヨーロッパ出身でも、ステランさんのようにここまでストレートには言わないとは思いますけどね(笑)。とはいえこの後、「お願いだから『天使と悪魔』のことは書かないでくれ。本当に前回、大変だったんだから」と懇願していました。
── 麻紀さんは書いたんですか?
渡辺 いや、この映画のときはフィンチャーと、リスベットを演じたルーニー・マーラ、相手役のダニエル・クレイグだけ需要があって、ステランさんはなかったんです。だから今回が初出し!(笑)……あ、書いちゃってますけどね(笑)。同じ取材テーブルだった他の国の人はどうだったか分かりません。
── でも、そういうこと、自分のキャリアに自信があるから言えるんじゃないですか?
渡辺 だと思います。そういう人はフィンチャーと気が合うと思うんですが、初めて彼に会ったときのことを話してくれました。
「デヴィッドから最初に言われたのは、“今回は楽しい仕事にならないと思うよ”だった。そして“僕は毎シーン、40テイクもやらせるからだ”って。でも私は、“それは楽しいかもしれない”と思ってね。映画の撮影は楽しくなければいけないと私は考えているからかもしれないけれど、実際、とても面白い仕事だった。確かにデヴィッドはテイクを重ねていくからOKが出るまでにかなりの時間がかかる。でも、そうやって何度もやっていると、どんどん深いところまで考えて掘り進み、いい演技ができる。だから私の予想どおり、とても楽しい仕事になったんだ」
── ポジティブというか、凄いですね。
渡辺 演技が好きなんでしょうね。「私は楽しい仕事しかやらない」と言っていて、「楽しくなかった仕事はない」とも言ってますから、『ニンフォマニアック』(13)などのラース・フォン・トリアー監督の撮影も、その刺激をちゃんと楽しめたんですよ。実際、彼の映画に多数出演してますから。ちなみにトリアーについても話してくれました。
「監督がカメラを右に5センチ、左に1センチ動かして、もう一度セットアップするのを見ていると、自分が望んでいるものを本当に分かっているんだなと思う。そういう監督は照明のことはその担当者より知っているし、それは音響にもいえる。これまで組んだ監督で、そういうすべてを知っていると思ったのはデヴィッドとラースだけだったよ」
私の印象だと、このふたりの監督は我が道を行くタイプで似ていると思います。我が道を行けるような知識がちゃんとあるということです。
── なんとなく、分かりますね。
渡辺 演技については、「まず考えるのは、この映画を最良のものにするため、私の役をどう演じればいいかなんだ。そう決めたなかで、自分が自由に演じられる枠組みはどうか考える。あくまで映画に悪い影響を与えない範囲でね」と言っていました。要約すると、自分ではなく映画ファーストであり映画至上主義なんですよ。おそらく、そういうところがいろんな監督に愛される理由なんじゃないでしょうか。
文:渡辺麻紀
『センチメンタル・バリュー』
上映中
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