海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
イ・ビョンホン
連載
第170回
イ・ビョンホン Photo:AFLO
新作『しあわせな選択』では“極端な選択”をするオヤジに
── 今回はイ・ビョンホンです。彼が主演した韓国映画『しあわせな選択』が公開されています。監督は『オールド・ボーイ』(03)、『別れる決心』(22)などのパク・チャヌクですね。この連載コラムで韓国の役者さんを取り上げるのは初めてですよね?
渡辺 そうだと思います。イ・ビョンホンはハリウッド映画の『G.I.ジョー』シリーズに出演していたのでインタビューのチャンスがあったんです。
── 本作ではゴールデングローブ賞では作品賞、イ・ビョンホンの主演男優賞など3部門でノミネートされていました。この邦題は皮肉が込められているんでしょうか? 予告編はヤバい感じですよね?
渡辺 韓国語の原題は「しょうがない」とか「他に選択肢はない」みたいな意味らしいのですが、もっと皮肉を込めた邦題にしたという感じなのかもしれません。ブラックユーモア的味付けで失業者の四苦八苦を描いているので。
予備知識を入れずに観たせいもあり、私が一番驚いたのは原作がアメリカの犯罪小説の人気作家、ドートマンダーシリーズで知られるドナルド・E・ウェストレイクだったことです。彼がリチャード・スターク名義で書いた悪党パーカーシリーズがよく映画化されていますから、映画との相性はいい作家だと思いますよ。原作はウェストレイク名義で書いた『斧』という作品で、これは今も読めるようです。
もうひとつ驚いたのはこの映画がコスタ=ガブラスに捧げられていたこと。ギリシャ人の監督で代表作は『Z』(69)。私はこの映画が大好きなんですよ。
で、なぜコスタ=ガブラス?と思ったら、彼がこの原作を01年、フランスで映画化していたんですね。日本では05年のフランス映画祭で上映されただけで公開はされてないようです。フランス語のタイトルは『Le Couperet』。AIで訳すと「ギロチン」と出ましたけどね(笑)。
製紙会社に勤め、出世もし、念願の家も購入。美しい奥さんとふたりの子どもとともに順風満帆な人生を送っていた中年男のイ・ビョンホンがある日、突然、クビになり製紙会社を中心に再就職運動を始める。しかし、優秀なライバルが複数いて、このままじゃ難しい。なのでひとりひとり殺すことにする……という“しあわせな選択”というより“極端な選択”をするオヤジの物語です。
── なんか凄そうですね(笑)。
渡辺 こういうミッドエイジクライシス的な悩みや問題を抱える人は日本でもたくさんいるだろうから、彼らには刺さりまくるんじゃないでしょうか。パク・チャヌクだからなのか、笑えつつも妙にゾッとする映画ではありましたね。
宮沢りえの写真集が日本エンタメの衝撃度ナンバーワン!?
── イ・ビョンホンのインタビューはどの映画で?
渡辺 『G.I.ジョー』(09)と、その続編『G.I.ジョー バック2リベンジ』(13)の2本で取材しました。韓国でやったり、撮影中のニューオリンズでやったりしましたね。彼が演じているのはG.I.ジョーチームと敵対するコブラチームのひとり、ストームシャドーでした。
イ・ビョンホンにとっては初のハリウッド映画で、しかも大作アクションだったわけじゃないですか。大変そうなんですが、本人はこんな感じでした。
「そう思われそうだけど、そんなことはなかった。というのもアクションスタッフの2/3はアジア人。僕のアクションスタイルもアジア系だったし、撮り方も韓国とはさほど違いはなかった。ただ、アクションをするとき、ハリウッドでは過剰なまでにケアするんだ。もっとやりたいと言っても許されなくて、それが窮屈だったなあ」
ジャッキー・チェンも同じようなことを言っていましたというと、「ジャッキーも? 実は僕の最初のアイドルはジャッキーだったんだ。中学1年生のとき『ドランクモンキー 酔拳』(78)を観て大ファンになったんだ。その日の日記にはこう書いたのを今でも覚えている。“今日は『酔拳』を観た。ジャッキーがかっこよかった。僕も彼のようになりたい”って。この映画でほんのちょっとだけだけど近づけたかなって(笑)」
── それはいい話ですね。
渡辺 私は韓国の役者さん、初めてのインタビューだったんですが、何度もやったことのあるベテランさんは「わりとめんどくさい」と言っていたんですよ。でも、そんなことはまるでなかった。韓国映画じゃなくハリウッド映画だから勝手が違うのかもしれない。日本の役者さんはハリウッド映画に出たときだけ取材してますが、めんどくさいと言われる人もいい感じ。勝手の違いは大きいのかもしれませんね。
── 当時のイ・ビョンホンは日本でも大人気だったんですよね?
渡辺 だと思います。『王になった男』(12)などがヒットした記憶がありますから。取材はソウルのホテルで行われたんですが、外に日本のファンらしき人たちが集まっていました。
── 日本についてはどんなことを?
渡辺 あなたが初めて触れた日本のエンタテインメントは? というふうに質問したんですが、その答えには爆笑しました。
「映画雑誌の『スクリーン』と『ロードショー』だったよね。中学1年生の頃に初めて手に取ったんだけど、強烈に覚えているのはアダルト映画の紹介ページ。もうコーフンしちゃって男子たちと奪い合いだったから(笑)。あとは宮沢りえの写真集『Santa Fe』! 衝撃度で言えばこれがダントツかな(笑)」
── 確かに楽しい(笑)。『2』のときはどうでした?
渡辺 続編のときは、身体をガッチガチにつくっていて、その苦労談をしてくれました。服をバーンと脱ぐシーンがありますからね。
「あのシーン、とても驚いたよ。これは誰だ? って思ったほど、いつもの自分とかけ離れているから(笑)。ただ、その身体をつくるのは本当に大変だった。焼いただけで味付けのない鶏の胸肉を2時間おきに、ある程度の量を食べなきゃいけなかった。これが本当に辛くて、こっそり大好きなピーナッツバターをスプーンにすくって1時間くらいかけて舐めていたくらい(笑)」
で、撮影が終わった今の身体は?と尋ねると「もう別人です!」と爆笑していました。とてもユーモアのある役者さんという印象でしたよ。
このとき、ソウルで映画のプレミアがあったんですが、日本からも彼のファンが詰めかけていました。それについてはこう語ってくれました。
「ときどき僕の自宅の前に日本のファンがいたり、撮影現場に来たりというのはある。でも、昨日のような大きなイベントのときにわざわざ韓国まで来てくれるのは本当に嬉しい。昨日はほんと、胸が熱くなってしまった。前作の『G.I.ジョー』のソウルプレミアのときも95%が僕のファンだったようで、監督やプロデューサー、役者たちにとても驚かれたんだ。本当にありがとうと言いたいよ」
ちなみにイ・ビョンホン、この後『REDリターンズ』(13)に出演しているんですが、製作は同じロレンツォ・ボナベンチュラなんです。彼を出せばアジア圏は大丈夫と思ったのかもしれない。
最近はハリウッドの映画には出てませんが、『しあわせな選択』が世界でも高評価なので、また声がかかるかもしれませんね。
文:渡辺麻紀
『しあわせな選択』
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