海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
トム・ヒドルストン
連載
第173回
トム・ヒドルストン Photo:AFLO
おなじみの面々が再集結した20年ぶりの続編が大ヒット!
── 今回はトム・ヒドルストンです。彼が出演した『サンキュー、チャック』が公開されました。これ、原作がスティーヴン・キングなんですね? また怖いんでしょうか?
渡辺 いや、これはキングの中でもハートウォーミング系の中編小説です。日本でも『チャックの数奇な人生 イフ・イット・ブリーズ』というタイトルで邦訳が出たばかり。私はまだ読んでいませんが、おそらく系統としては、映画化もされた『グリーンマイル』タイプ。原作に忠実らしいです。
章立てになっていて、始まりは第3章。最終章から遡る形式になっています。ある日突然、ネットがダウンし、さらに電話も電波も電気もダメになって、世界中で洪水や山火事、暴動などが起き、まさに地球最期の日という感じになる。空を見上げると宇宙にも異変が起きていて、このままではすべてがなくなってしまう!……というとんでもない状況なのに、なぜか「チャールズ・クランツに感謝します。素晴らしい39年間、ありがとう、チャック」という文字と見知らぬ男の写真が、まるで広告のようにいたるところに現れる。一体、何が起きているのか!?と思っていると第2章に突入し、その謎の男性チャールズことチャックが何者なのかが語られる……。
── 説明を聞いてもよく分かりませんが(笑)。
渡辺 分からなくていいんです。予備知識がない方が絶対に楽しめるはずなので。監督は『ドクター・スリープ』(19)など、キング小説を何本か映画化しているマイク・フラナガンなので期待してなかったんですけどね。
── 期待してなかったんですか?(笑)
渡辺 彼は最近のキングのお気に入り監督のようなんですが、キングって監督の趣味がよくないというか、原作に忠実に作る監督が好きみたいなんですよ。原作と大きく違う(スタンリー・)キューブリックの『シャイニング』(80)なんて大嫌いで、当時のお気に入り監督ミック・ギャリスにミニシリーズでリメイクさせたんです。これが本当につまらなかった(笑)。
『ドクター・スリープ』はその『シャイニング』の続編になるんですが、これもイマイチ。原作を読んでないので活字との差が分かりませんが、おそらく忠実なんだと思います。この『サンキュー、チャック』も原作に忠実と聞いていますが、原作がいいのか、とてもよかったですね。子どもの頃に教えてもらったというホイットマンの詩がキーになっていて、そこも好きでした。
── ヒドルストンはそのチャックを演じているんですか?
渡辺 成人したチャックを演じています。第2章に登場して、ストリートドラマーのビートに合わせて上手なダンスを披露しています。では、なぜダンスを?という答えは、チャックがまだ子どもの頃の第1章で語られるんです。
── ヒドルストンはベネディクト・カンバーバッチから始まった英国男子ブームのときに注目されて、『ソー』シリーズのロキ役で知られるようになりました。“トムヒ”って呼ばれてますよね。
渡辺 私が初めてインタビューしたのも『ソー』でした。最初の『マイティ・ソー』(11)、2作目の『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(13)でもやりましたね。1作目のときはミニ記者会見だったこともあって明るい男子という印象。ソーのオーディションを受けたものの、やはり体型的に無理があったと言いつつ、「ロキもヒーローだよ……って当人はそう思い込んでいる」と笑っていました。ソーを演じたクリス・ヘムズワースとは意気投合したようで、ふたりそろって「確かなケミストリーを感じた」と言い、トムは「文字どおりのブロマンスだよ」とクスクスしていました。
この取材のとき、ふたりのパパを演じたアンソニー・ホプキンスもいたんですが「相手役を憎むシチュエーションの場合は、オフスクリーンで仲がいい方が演技しやすい」と言って、クリスとトムも同意していました。トム曰く「憎み合う演技を楽しむことができるから」だそうです。
ちなみにクリス、酔っぱらってトムに「オレのことを本当に理解してくれるのはキミだけだ」って言ったそうですよ、トムによると。
── ということは、オフスクリーンでもブロマンス度が高かったわけですね?
渡辺 そうなりますよね(笑)。
Photo:AFLO
渡辺 で、シリーズ2作目のときは単独のインタビューだったんですが、これがあまりいい感じじゃなかった。質問にはちゃんと答えてくれるんですが、端々に気取っていてスノッブな雰囲気がにじみ出ていたと記憶しています。まあ、お坊ちゃんだしオックスフォード卒だしって感じ? とってもフランクなカンバッチくん(ベネディクト・カンバーバッチ)とは正反対だったので、そんな印象になったのかもしれませんが。
一応ロキは悪役なので、英国役者が悪役を演じることが多いのはなぜだと思うかという質問には、こう答えていました。
「英国で演技を志している者は、必ずシェイクスピアをやる。その中でも悪役はとても洗練されていてやりがいがあるんだ。だからハリウッドに行くと、自分が気づかないうちに悪役の心理について随分学んでいたことが分かるんだよ。確かに英国人の悪役は印象深い。『羊たちの沈黙』(91)のアンソニー・ホプキンスとか、『ダイ・ハード』(88)のアラン・リックマン。ジェレミー・アイアンズも悪役をよく演じていた。そうやって遡ればローレンス・オリヴィエに辿り着く。彼も『マラソンマン』(76)では悪役をやっていたからね」
で、つい「悪役=英国俳優と決めつけられるのはイヤな感じはしない?」と聞いたら、「そんなことはないよ。それに僕はロキを悪役だと思ってないし、この役をやれて本当に嬉しいから」
── いい感じじゃないですか!
渡辺 そ、そうですね。それに好きな役者は、私も大好きなピーター・オトゥール。好きな映画も彼の出世作『アラビアのロレンス』(62)だったんです。
── 趣味、合うじゃないですか!
渡辺 私の記憶違い?なんて思っちゃいますよね(笑)。『キングコング 髑髏島の巨神』(17)でも単独の取材をしたんですが、このときはめちゃくちゃ感じがよかった。というのも、本作のちょっと前にテイラー・スウィフトと付き合っていて、彼女の名前のロゴTとか着てはしゃいでいた写真が出回っていた。英国男子好きからは当然、総スカンですよ。そういうネガティブなことがあったので、もしかして感じ良くしたのかなあって……。
Photo:AFLO
── 麻紀さん、そういう色眼鏡は止めましょ(笑)。
渡辺 いやあ、インタビュー読み直すといい人ですしね。しかもこの映画の彼の役名って、元特殊部隊で冒険家的なジェームズ・コンラッドですよ。まるでジョゼフ・コンラッドみたいじゃないですか! コンラッドは『地獄の黙示録』のベースになった『闇の奥』の原作者。だから、意識したネーミングなのかって聞いたんです。
── なんて答えてました?
渡辺 「そこから始まったんだ」って。「監督のジョーダン(・ウォード=ロバーツ)と僕は『闇の奥』について話していた。それは旅に出る男についての物語で、その旅によってすべてが変ってしまう男だから。自然界に深く入れば入っていくほど、チャレンジが多くなり文明的直観が試されることになる……それはとてもコンラッド的だと僕たちは思い、“ジェームズ・コンラッド”という名前にしたんだよ」。これを聴いて、一気に映画が好きになったし、彼が演じた役にも好感をもっちゃいましたよ(笑)。
今回、調べたら『アベンジャーズ』(12)のときも取材してましたね。「僕がひとりで悪役だったけど、僕たちのコードネームは“グループハグ”で、その仲間にちゃんと入れてもらえてうれしかった」って。
彼の最新作は、年末に公開予定の『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』(12月18日日本公開予定)です。本作ではマルチバースと時空を司る神さま、ゴッド・ロキになっているようですよ。彼と一緒に懐かしいヒーローたちが帰ってくるようなので楽しみですね。
文:渡辺麻紀
『サンキュー、チャック』
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