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押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?

押井さんの作品『天使のたまご』はどのように理解すればよいですか?<前編>

月2回連載

第86回

『天使のたまご』

Q.
『天使のたまご』が大好きなんですが、内容はよく分かりません。どのように理解すればいいでしょうか?

── 押井さん、今回は『天使のたまご』(85)についての質問です。これを取り上げたのはAmazonプライム・ビデオで配信が始まっていたからです。これで初めて観る方もいらっしゃるのではないかと。

押井 えっ? Amazonプライム・ビデオで配信しているの? 私、なにも聞いてないよ。普通はなにか言ってこない? だって私、あの作品に関しては原作権ももってるんだよ。原作・監督・脚本ですよ。脚本や監督は、契約内容によっては連絡がない場合もあるかもしれないけど、原作権は違うと思う。原作者というのは、それくらい扱いが違う。私が原作権をもっているのは『天たま』と『御先祖様万々歳!』(89)、『立喰師列伝』(06)、あとは『アヴァロン』(01)も持ってたかな。どちらにしろ、少ないんですから!

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── 押井さん、その辺のことはあとでチェックしてもらうとして、これはとてもいい機会ですよね。配信なので、たとえ寝たとしても大丈夫じゃないですか。完走できますよ。

押井 『天たま』を観て寝るのは正しい反応です。私だって(アンドレイ・)タルコフスキー、寝ずに完走したことはただの一度もないから。必ず寝ます。でも、やっぱり大好きなんですよ。

私に言わせれば、いい映画は眠くなるんです。

── そ、そうですか?

押井 眠くなるのは傑作か、あるいはとんでもない駄作か、どちらかだから。

── 『天たま』は内容はよく分からなくても、作画はとても美しいですよね。天野喜孝さんの、あの線の多い繊細な絵がちゃんと動いている。

押井 だって、めちゃくちゃ苦労したんだからね。名倉(靖博)さんが天野ちゃんの大ファンで、彼の絵を動かしたいという強い想いがあったからちゃんとできたんです。そういう意味では『BLOOD』(『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(00))と同じ。あれも線の多い寺田克也の絵を黄瀬(和哉)が動かしたいというから成功したの。作監のそういう想いがないと、彼らのような線の多い絵はまず成功しないから。

天野さんはダ・ヴィンチが大好きで、彼のような絵を描きたい人。ダ・ヴィンチの『聖母子像』のマリアが大好きなんだよ。ダ・ヴィンチって、絵を描く上で輪郭を問題にした最初の画家だって知っていた?

── もちろん、知りません。

押井 この女性の肩の線は彼女に属するのか、それとも背景になのか? そういう問題意識をもって絵を描いたんです。天野ちゃんの線がどんどん細くなって髪の毛くらいになったのは当たり前なの。

── ちょっと日本的じゃない絵柄ですよね。

押井 だって日本人は輪郭線が大好きだから。輪郭線と色面でなんでも表現できると考えているのが日本人。宮さん(宮崎駿)だって「線と色面で成立しない絵はない!」と豪語していたんだから。だから、セルアニメというのは日本人のためにあるようなもんなんですよ。

天野ちゃんはそういう意味では、まるで方向性の違うアーティストなわけです。

『天使のたまご』

── 質問者の方は『天たま』を「どう理解すればいいのか?」と聞いています。ちなみに私の解釈は、押井さんが、自分の好きな世界観を創ってみた、って感じですが。

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取材・文:渡辺麻紀 撮影:稲澤朝博
(C)押井守・天野喜孝事務所・徳間書店・徳間ジャパン

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