Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?

10年ほど前にBSで観たこんな映画のタイトル、分かりますか?<後編>

月2回連載

第92回

Q.
この映画のタイトル、分かりますか? 観たのは10年ほど前。民放のBSで昼間オンエアしていました。途中から観たのですが、賭け事に負けた男が屋敷に連れて行かれ働かされる。脱出を試みた人間は謎の死を遂げる……というような感じでした。最後、主人公は逃げ出せるのですが、映画は投げっぱなしのような感じで、妙な味わいを残して終わります。またいつか観られるだろうと思ったまま10年以上が経ってしまいました。(モスマン)

── 今回は上記の質問についての後編です。このコラムの本来の趣旨だった質問に、押井さんは『蛾人間モスマン』(10)というTVムービーではないかと答えているんですが、いつものとおり、そこから話はヘンな方向に行って、いつの間にか「寝てしまった映画を正直に挙げよう!」という話題になっちゃいました。

押井 麻紀さんが言い出したんじゃない。

── はあ、そうなんですが……Twitterのそういうトレンドに、(アンドレイ・)タルコフスキーや(スタンリー・)キューブリックの作品に混じって堂々と押井作品が挙げられていたので、さすがだなと思いまして。『天使のたまご』(85)は「短いにもかかわらず寝てしまった」とか、「押井監督は、日本の眠れる巨匠だ」とか。

押井 それは正しいですね。『ケルベロス』も……。

── あ、『ケルベロス-地獄の番犬-』(91)を挙げている人もいた!

押井 それも正しい選択です。『ケルベロス』こそダレ場映画。全編のうち70%はダレ場。アクションは冒頭と最後だけ。

── 日本人でランクインしていたのは押井さんだけだったような気が……まあ、ざっと見ただけなんで違う可能性も大ですけど。

押井 その結果から言えることは、それに参加した人の多くは、昔の日本映画を観てないんだと思いますね。ちゃんと観ていれば、小津(安二郎)や吉田喜重の映画は堂々とランクインしますよ。

── そのふたりの映画、ほぼ観てないですね。そんなこと書くと「それでよく映画ライターやってるな」と言われそうですが、今のところ何の支障もないです。

押井 小津を観てなくても映画ライターやったって悪くないと思うけど、『東京物語』(53)も観てないの? これぐらいは観たんじゃない?

── 観ました。「……」って感じだったので、続けて観なかったんだと思います。

押井 小津の映画を観て、ストーリーを語る人はまずいない。どこがいいかと言えばテンポとかアングルとか。映画そのものを評価する以外に、小津の映画を語るのは不可能。あとはせいぜい役者を語るとか。

1952年、『お茶漬けの味』ロケ中にカメラを覗く小津安二郎。

── 原節子や笠智衆を語るんですか? 原節子、きれいだとも上手いとも思わなかった。笠智衆は好きですけど、このときからちゃんとおじいさんだった。というかおじいさんの顔しか知らない(笑)。日本のマックス・フォン・シドーだなって思いましたけどね。『処女の泉』(60)のシドーって、すでにおじいさんの風格だったから。シドーは大好きですよ。

押井 笠智衆はシドーのように殺し屋やったり砂漠の星の統領とかやらないから。誰も彼にカリスマ性は求めてない。あくまで市井の人です。

小津映画における原節子と笠智衆の存在はミッキー・マウスとドナルド・ダックのようなもので、役柄が変わってもペルソナとしては同じ。役名と設定が違っても立ち位置はまったく変わらない。これが小津の独自の世界。どんな物語を語ろうと、小津安二郎の映画は全部一緒! “小津安二郎”という映画を作っちゃった人なんです。“小津映画”というジャンルを作ってしまったと言ってもいい。

このジャンルは、他の監督にはできない。なぜかというと、会社に叱られるからですよ。

※続きはアプリでお読みください

取材・文:渡辺麻紀 撮影:源賀津己

質問はこちらのフォームからお寄せください!