押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
“良い質問”ができるコツはなんでしょうか?<前編>
月2回連載
第112回
Q.
質問をするときに“良い質問”ができるコツはなんでしょうか。仕事などで上司から「良い質問をするね」などと褒められることがありますが、具体的に良い質問とは何なのか聞いたことがありません。押井監督は映画撮影の仕事でいろいろなスタッフに質問をすると聞きました。人から良いアイデアを聞き出すためのテクニックなどがあれば教えてください。
── 今回は“良い質問”についてです。
押井 この人の質問、前半と後半で“良い質問”の意味が違っているので、ふたつ答えることになるかな。
上司とか師弟関係でよく言われるのが「それは良い質問だ」。その意味は何かと言えば、本質をついているということなんだよ。
── 海外の人はよく言いますよね、「Good Question」って。私はデヴィッド・フィンチャーが『海底二万哩』をリメイクするというニュースが浮上していた頃、彼に「ノーチラス号はどんなデザインにするんですか?」と尋ねたら「Good Question!」と言われましたけど、これは本気で言ったのか、それともくだらない質問を皮肉ったのか、よく分からない。
押井 麻紀さん、フィンチャーは本気で「Good Question」と言ったんだと思うよ。あの映画の“キモ”はネモ船長を誰が演じるかではなく、明らかにノーチラス号のデザインだから。それがダメだったらキモを外した作品になる。フィンチャーもそれを分かっているから「Good Question」と言ったんだよ。
庵野(秀明)も『ふしぎの海のナディア』(90~91)でノーチラス号を出していたけど、デザインはよくなかった。いつものデザイン。
── いつものって?
押井 ゴテゴテしているってこと! 機能が分からないんだよ。『シン・ウルトラマン』(22)のゼットンのデザインと同じ。
ちなみに私はブロンズ製のノーチラス号を持っています。サンフランシスコで購入した作家もので、今でも飾っている。
── 私も持ってますよ! ダイキャスト製ですが……。
押井 だから、そういうときに、そんな質問をするのはマニアやオタクくらいしかいないんです。普通の編集者やインタビュアーじゃ、まずそういう質問は出ない。資質に依存する質問が「良い質問」になる場合が多い。
── ということは押井さん、オタクやマニアは良い質問をする場合が多い?
押井 そうだよ。本当にその作品が好きな人は作品のキモをちゃんと知っている。そこを外すと作品が成立しないということも分かっている。それを外すといくら大金をかけてもダメだから。それは作品ごと、ジャンルごとに違う、当たり前だけど。
どんな素晴らしい戦争映画であったとしても、正体不明の戦車が出てきたりしたらもうダメ。そういうのを「キモを外した」というんです。
── ギャレス・エドワーズの近未来SF『ザ・クリエイター/創造者』(23)にオリジナルの戦車が出てくるんですが、樋口(真嗣)さんが「あんなデザインの戦車、押井さんが見たら激怒するよ」って言っていました(笑)。
押井 そうなの?(笑)。まだ映画観てないんだけどさ。
それはさておき、映画のキモとなるものはそれぞれ戦闘機だったり潜水艦だったり戦車だったりするわけで、そのキモをちゃんと押さえておけば、あとはまがい物でもいいんだよ。
たとえばブラピが出ていた『フューリー』(14)のキモって何だと思う?
── ホンモノのティーガー戦車じゃないですか?
押井 違います。ホンモノのティーガーが出てくるとか、シャーマンの4タイプが出てくるというんじゃなく、あれはコスチュームなんです。ブラピたちタンク乗りが着ているタンカーズジャケット。ジッパーのリングが手りゅう弾のリングになっていたり、ひとりひとり違うんですよ。ちゃんとそれぞれの個性を表現している。

つまり、戦車好きのキモは戦車だけじゃないということ。戦車を取り巻く世界の表現ですよ。その点『フューリー』はコスチュームはもちろん、戦車内の表現も素晴らしかった。もちろん、撮影するため実際より広くは作っているけどさ。
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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己
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