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押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?

押井さんは観たい映画やドラマはDVDやブルーレイで楽しんでいるのでしょうか?

月2回連載

第114回

Q.
配信を利用していない押井監督は、観たい映画やドラマはDVDやBD(ブルーレイディスク)で楽しんでいるのでしょうか? また、押井監督が観たい作品でまだソフト化されていない映画などがあれば教えてください。

── 今回は映画のソフトについての質問です。押井さん、ちょうど『紅い眼鏡』(87)の4Kリマスター版を出す話がありますよね。

押井 そういうもの好きがいてクラウドファンディングを始めた(https://motion-gallery.net/projects/red_spectacles)んだよね。商売にはならないだろうけど、同じようなもの好きがいるかもしれないということで1000万円を目指したわけ。私はせいぜい、500万円くらい集まれば御の字だろうと思っていたのに、蓋を開けたらわずか1日で1000万円に到達し、いまや(5月初旬)その2.5倍くらい集まっちゃった。大口の出資者が多かったみたいだよ。

── 押井さん、それは凄いじゃないですか! 大口って、押井さんの信者は年配の方が多いからかもしれませんね。というより、私は『紅い眼鏡』、前世紀にVHSで観たんですが、DVDやBDは出てたの?

押井 VHSとDVDだけ。BDが出ていないので4Kという話になった。

私の作品でBDが出ていないのはちょっと珍しい。『紅い眼鏡』は一応、私の実写の処女作で、自分にとってはとても大きな映画であり、なおかつ相当に凝って絵作りした作品。セットはゴミを集めて作ったものだし、衣装はうちの奥さんの手作り。役者は声優だけで、身内だけで作ったような映画でもある。

『紅い眼鏡』1987年 オムニバスプロモーション作品
(c)押井守・バルク

では、どこにこだわったかというと映像ですよ。当時、可能だったラボワークの範囲の中のオプティカル技術を駆使して、かなり凝った映像を創った。一般にはモノクロのパートカラー映画だと思われているようだけど、実は違う。

いわば疑似モノクロ。モノクロのネガフィルムで撮影し、カラーでプリントを起こし、その時点で色調整している。最終的には“紅”という色を表現したかったからですよ。それがテーマでもあると言っていい。照明にも凝っているし、ズームレンズを使わず、解像度の高い単玉(固定焦点レンズ)で撮影している。

── それだけ凝ったとしても、DVDでは再現不可能なのでは?

押井 そうです。だから麻紀さんが観たVHSではまるでダメなんです。映画館でプリント上映を観た人以外は、そういう部分を目撃してないんだよ。そもそも、そのシチュエーションで観たもの好きな人だって記憶が薄れているよね。だから、4Kのリマスターを起こす技術的な意味合いは大きいと思う。

やっぱりネガフィルムがもっている情報量というのは凄まじい。4Kや8Kは、それにより近づいているだけでパーフェクトではないんです。

『紅い眼鏡』1987年 オムニバスプロモーション作品
(c)押井守・バルク

── (クエンティン・)タランティーノがフィルムにこだわる理由のひとつもそこにありますからね。

押井 単にもの好きが4Kリマスターを作るという以上に、私にとっては意味がある。監督としてはもちろん、映画的に意味あることだと思っているんですよ。そんな処理をした映画、たぶんないから。

── 当時、フィルムの入手は簡単だったんですか?

押井 いや、難しくなりつつあった。長編映画を撮影する際に必要なフィルムのロットナンバーを揃えるのが本当に大変だった。デジタル万能な時代だからこそ、フィルムがもっていた表現力がどこまで再現できるか、それを目撃してほしいよね。

── クラファンで集まりすぎたお金、どう使うんですか?

押井 本当におかげ様ですよ。今は、それをどうやってお返ししようか考えているところ。楽しみにしてほしいよね。

※続きは無料のアプリ版でお読みください

取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己

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