押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
リドリー・スコット監督の『ナポレオン』はご覧になりましたか?<後編>
月2回連載
第116回
Q.
リドリー・スコットの『ナポレオン』、もちろん押井さんはご覧になっていると思いますが、どう思われたか教えてください
── 今回も引き続きリドリー・スコットの『ナポレオン』についてですが、前回はいつものように話があらぬ方向に行っちゃいました。
押井 まあ、そうだけど、もうちょっと兵站(へいたん/戦闘地帯へ後方から物資や兵員を配置する活動全般のこと)の話をすると、私は『アヴァロン』(01)のポーランドロケで、ナポレオンがロシア遠征のときに使ったレンガ作りの立派な倉庫を使ったんですよ。
そういう倉庫を、道の駅のように等間隔に建てて補給する。そこは郵便と同じ。ここからここまで物資を届けたら帰る。ここからここの間を走ってまた帰る。そういうのを“逓信補給”という。転々と補給庫を置かないといけない。
後方から最前線に一発で届けようとする方がロスが大きいんですよ。今のロシアだってやってるからね。そういう倉庫を潰せば前線は機能しなくなるから。つまり、いまだに同じだということなんです。
もうひとつ、ベトナム戦争の面白い話がある。ベトナムは10 年間もの間、輸送力がなぜか支えられたんです。ロシアはアフガンで8年戦い、支え切れなかったんだけど。なぜだか分かる?
── もちろん、分かりません。
押井 アフガンは陸路、ベトナムは海路だった。陸路と海路だったらコストが何十倍も違うんです。いまだに大量輸送は海路でしょ。飛行機で運べるのは微々たる量。非常手段と言ってもいい。
たとえば同じベトナムのディエンビエンフーの戦い(1953年~54年)。第一次インドシナ戦争のときで、当時はフランス軍とベトミン(※ベトナム独立同盟会)の戦いだった。アラモの砦みたいにフランス軍はベトミンに完全に包囲され、物資は空輸でしか届けられなかったんだけど、その飛行機を片っ端からベトミンが撃ち落とすんですよ。
── どうやって落とすの? 普通の銃じゃダメですよね。
押井 それも面白い話があって、仰るとおりAKなんかじゃ無理、高射機関砲やミサイルでしか落とせない。ベトミンは、飛行機は滑走路に進入するときにはコースを変更できないから、そのタイミングを狙って撃ち落としていたんですよ。じゃあ、ベトミンはその膨大な弾薬をどうやって補給したのか? 分かる?
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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己
Photo:AFLO
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