押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
ベッドシーンの必要性ってなんですか?
月2回連載
第117回
Q.
ベッドシーンの必要性を教えてください。家族と観ているとき気まずくなるだけだし不要だと思います。
── 今回はベッドシーンの必要性についてです。押井さんは前回のリドリー・スコットの『ナポレオン』の話のとき「サーらしく、ナポレオンとジョセフィーヌの濡れ場がちゃんとあった」とおっしゃってました。
押井 サーは好きなんですよ、そういう濡れ場が。1作目の『エイリアン』(79)の初稿には、ちゃんとリプリー(シガーニー・ウィーバー)とキャプテン(トム・スケリット)の濡れ場があった。そういう場所がないのでシャトルの狭い空間でやってるの。でも、本編ではカットされているからふたりの関係性が見えにくい。
私に言わせればサーは結構リビドーの高い監督ですよ。SFを撮っているので見えづらいかもしれないけど。ただし、サーの場合は普通のベッドシーンにはいかない。『ナポレオン』のときもベッドで1回もやってないから。最終的にはエイリアンの尻尾になっちゃう。
── エイリアンの尻尾って『エイリアン:コヴェナント』(17)の?
押井 そうです。ひと段落つき、クルーの男女がシャワー浴びながらいちゃついているとき背後からエイリアンが近づき、尻尾でズバっと刺す。エイリアンの尻尾はまさに男性器だし、エイリアンの頭だって巨大なペニスだからね。まさにサーのリビドー!

トム・クルーズが出ていたファンタジー(『レジェンド/光と闇の伝説』(85))なんかを撮っていたときは、まるでそんな感じはしなかったけど。サーの実質的なデビュー作はやっぱり『エイリアン』ですよ。
── 私は実際の長編デビュー作『デュエリスト/決闘者』(77)は大好きですよ。泰西名画のように美しかったじゃないですか。
押井 うーん。私はいまいち。らしくない。だからサーも『最後の決闘裁判』(21)で修正した。あれは『デュエリスト』の修正版というか本音版というか。本当はこっちの方をやりたかったんだという感じがしまくったじゃないの。
やっぱりサーは血が濃い。イギリスの監督は業が深いとつくづく思っちゃうよね。
── 押井さん、リドさまの話はさておき、ベッドシーンですよ!
押井 映画にとってベッドシーンは停滞する時間です。アクションと同じ。シャワーシーンも同じ。『…コヴェナント』のようにシャワーを浴びていると凶事が起こる。これはもうお約束です。ゲームもそうなっていて、おねえさんがシャワーしていると決まって悪いことが起きる。
── でも押井さん、韓国ドラマの美しい男子のシャワーシーンではそんなことないですよ。その男子のきれいな身体を愛でるためにあるんだと思いますが。
押井 そんなこというなら、私だって(『紅い眼鏡』(87)で)千葉繁のシャワーシーンを撮りましたよ。もしかしたら彼のプリンプリンのお尻を見たいというヘンタイな人がいるかもしれないじゃないの!
── いや、絶対いないと思います。
押井 私はおねえさんでシャワーシーンやる気はまるでなかった。なぜかといえば撮りようがない。私に言わせればシャワーシーンは次に起きる事件の記号でしかない。
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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己
Photo:AFLO

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