押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
アーティストの引き際についてどう考えますか?
月2回連載
第119回
Q.
アメリカ大統領のバイデンが、今年の大統領選挙の民主党候補を、高齢を理由に降ろされそうになっていても執着しているのを見て引き際について考えてしまいました。映画監督ではクリント・イーストウッドやジョージ・ミラー、押井さんの大好きなリドリー・スコットなど、高齢でもバリバリやっている人もいます。押井さんはアーティストの引き際について考えることはありますか?
── 今回はアーティストの引き際についてです。
押井 引退についてとなると、否応なしにあの巨匠の話になっちゃうよね。
── はて? あ、もしかして宮崎(駿)さん?
押井 決まっているじゃないの。宮さんが引退声明したとき、私のところにもたくさん電話がきて大迷惑だったんだから。宮さんが引退するからひと言コメントが欲しい、というわけだよ。
もちろん、すべて断りました。私の言葉がそのまま使われるとも思わなかったし、第一、引退するはずがないと確信していたから。宮さんが引退して困るのは東宝と日テレだけ!
── それって、2013年の9月6日に行った引退会見のときですか?……調べてみたら凄いですね。「1時間半も行い、TVカメラが70台、記者が600人」ですって。
押井 当時のジブリの社長の星野(康二)さん、トシちゃん(鈴木敏夫)、そして宮さんの3人が並んで本格的にやったの。トシちゃんは茶番だと思っていただろうけど、宮さんは本気だったと思う。宮さんは自分が口にしたことを信じる人だから。
私はちゃんちゃらおかしいというより、ふざけるなと思ったよね。だってその後1本終わる度に「オレはもうやめる。これが最後だ」と言っているけど、やめたためしはない。
── でも押井さん、『君たちはどう生きるか』の後は言ってないのでは?
押井 公になってないだけで言ってます! トシちゃんがカバーしてるだけだよ。
ま、宮さんが亡くなったら間違いなく号外が出るよね。力道山のときも出たからね。「巨星堕つ」という見出し。小学生だったけど、そういう表現が大好きで、力道山のときに覚えた。おそらく宮さんの場合も同じじゃない? 「巨星堕つ」という大きな見出しの号外が駅前で配られるんですよ。
── お、押井さん、そんな心の準備までしているんですか?
押井 心の準備って、誰だってそう思ってますよ。
── そうかぁ……というか、お題は引き際です。
押井 これについては一貫して変わらない。“監督に引退はありえない”。監督が仕事をやめるきっかけはひとつ。仕事が来なくなるだけです。岡本喜八であろうが誰であろうが、最後は仕事が来なくなり、人も離れていき、独りぼっちになるんです。
── 結果的に引退になる。否応なしに引退させられちゃう。
押井 引退は、するものではなく、させられるもの。映画監督というのはとことん自由業だから、いつも言っているように仕事をしてないときの監督はただのおっさん。もっと言えば失業者。
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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己

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