印象に残っている“走る姿”を教えてください！＜前編＞

── 今回は映画やアニメにおける“走る姿”についてです。『フュリオサ』のアリーラ・ブラウンというのはフュリオサの子ども時代を演じた少女ですね。彼女はオーストラリア出身で、ジョージ・ミラーの前作、『アラビアンナイト 三千年の願い』(22)でもティルダ・スウィントンの子ども時代を演じていた。ちなみに本作では意外なことに子ども時代が1時間くらいありました。もうひとつちなみに『フュリオサ』のソフトが9月18日に発売されます（※プレミア配信やデジタル販売は開始済み）。押井さんはまだご覧になってないですよね？

押井　観てないね。でも、「宮崎アニメのような走る姿」というのはいいんじゃないの？　というのも宮さんは走るシーンにこだわりがある人で、走るシーンを研究している。なぜか？　アニメーションに限らず実写でも“走る”というアクションはその作品の目玉たりえるからです。

バイクでかっ飛ばすとか、カーチェイスするとかいうのとは次元が違う。人間が一生懸命走る姿というのはアピールするものがあるんです。なぜなら、身体性そのものだから。

── 走るということが重要な映画、言われてみたらありますよね、『炎のランナー』(81)とか。

押井　“炎のランナー走り”って流行ったよね。天を仰いで走るのをみんなが真似した。あとは『ラン・ローラ・ラン』(98)。赤毛のおねえさんがボーイフレンドの借金を返すために走り回る話。走ることだけで成立させた珍しい映画だったから注目された。おねえさんが走っている側のTVのモニタに走りまくっているアニメーションが映るわけだから、明らかに走ることに特化した映画を作ろうという意思が伝わってくる。

“走る”という行為は、映画が始まって以来、ある種テーマになり続けているんです。

── 押井さん的に走るのが印象的な映画って、他にありますか？

押井　やっぱり『フォレスト・ガンプ 一期一会』(94)じゃない？　ガンプが大好きだったジェニーと結ばれたあと突然、走り始める。走ることでガンプというキャラクターは着地できたんです。

それまではずっと部外者であり傍観者だった。ベトナム戦争に行こうが、ウォーターゲート事件を目撃しようが、すべてが他人事。それが彼の人生だった。そんな彼が走り出した途端、自分の人生の主役になった。走り始めたときにやっと人生が自分のものになったんです。だから、この作品の走るシーンは極めて重要なんです。

── なるほど！

押井　『フォレスト・ガンプ』は凄くいい映画。脚本もキャスティングも最高だけど、そう言えるのはラストに彼を走らせたからです。そうじゃないと映画は終わらないし、彼も単なる傍観者で終わっていた。自分で走り出すまでいろんな人生を生きたけれど、一番肝心な自分の人生だけは生きていなかったということなんだよ。

見事に計算された映画で、しかも映画じゃないと成立しないドラマになっている。大ベストセラーという原作は読んでいないけど、この作品は映画だからこその魅力にあふれている。監督の（ロバート・）ゼメキスなのか、脚本家なのか、あるいはプロデューサーなのか、誰の功績かは分からないけど、映画としては素晴らしい構造を持っている。

── 押井さん、調べてみたら走るシーンはゼメキスの強いこだわりだったようですよ。全国を走るのでお金がかかるから難色を示され、自分のギャラを差し出したみたいです。トム・ハンクスも協力したって。さすがゼメキスですね！

押井　ゼメキスも分かっていたんだよ、走らせないと終わらないことが。あのシーンがあったからこそ『ガンプ』は傑作になったんです。

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取材・文：渡辺麻紀
撮影：源賀津己

『押井守の人生のツボ2.0』

東京ニュース通信社
1760円（税込）　発売中

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