押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
ラーメンをゴトの対象にした立喰師がいないのはなぜでしょうか?
月2回連載
第123回
Q.
いつか現役を引退したら立喰師になりたいとついつい思ってしまっている者です。押井監督が創り出した架空の職業? 生きざま? の立喰師の系譜を見ていて、大衆食の定番、ラーメンをゴトの対象にした立喰師がいないことに気づきました。
そこで質問です。ラーメンにはゴトの対象になりえない何かがあるのでしょうか。ラーメンはバリエーションもあり、ゴトの対象にしやすい個人店も多く、しかしなぜかそれを対象にした立喰師は寡聞にして存じません。今後、ラーメンをゴトの対象にした立喰師について押井監督が語ることはあるのでしょうか? ぜひお教えください!
── 今回はラーメンの立喰師についてです。押井さんが生んだ職業ともいえる“立喰師”の中にラーメンの専門家がいないことが気になる質問者ですね。

DVD 5280円
発売元・販売元 バンダイナムコフィルムワークス
(c)2006 押井守・Production I.G/立喰師列伝製作委員会
押井 立ち食いのラーメン屋って存在するの?
── ……調べてみるとあることはあるみたいですね。
押井 私のファストフードの条件は基本的に安い食べ物であること。立ち寄って食うものであること。食べ物が提供されるまで長くても2分以内であること……というような条件がいくつかあるんだよ。さらに先払いだとゴトが成立しないので、自動販売機で食券を買う形式が多いラーメンは私の立喰師の範疇には入らない。
そもそも2分で出てくるラーメンってある? カップ麺だって3分かかるんだからさ。
── “ゴト”が成立しないって?
押井 麻紀さん、自分も映画に出ているのに! 怪しい仕事のことを“ゴト”と呼んで、立喰師の場合はタダで食うことだよ。
── あ、そうでしたね(笑)。でも押井さん、私が『立喰師列伝』 (06)の中で演じた“クレープのマミ”はクレープ専門でしたが、クレープも2分では出てこないのでは?
押井 まあ、クレープの場合は本来、成立しづらいんだけど、すでに焼いたストックのクレープにトッピングを加えるとかなり時短になる。その間にいろいろと蘊蓄を並べられるでしょ? 甘いクレープは日本だけで、フランスでは塩味で卵を落として食べるとか、ガレットはそば粉でできていてとか、カナダは驚くほどクレープ屋が多い……とかさ。そうやって煙に巻いてタダ食いできるかなって。
“タコ焼きのメグミ”なんてのも考えたことはあるし、串カツもあった。辻本(貴則)が“二度漬けの〇〇”をやりたいと言ったんだよ。「店主の目を盗み、どうやって二度目を漬けるか、それをテーマにやりたい」って。これはちょっとそそられたし、『女立喰師列伝』の成績も悪くなかったのでPART2という話も浮上していた……うーん、何で流れちゃったんだろう?
あとは“替え玉の〇〇”みたいなのも考えたことあるね。替え玉を食いまくって適当なことを喋り、一銭も払わない。もうひとつはピザかな。あれもれっきとしたファストフード。ほら『フレンチ・コネクション』(71)でニューヨークの極寒の中、ポパイ(ジーン・ハックマン)が宿敵のいるレストランの外で三角形に切った大きなピザを食べていたじゃない? あったかいレストランではフランス野郎がカキか何かを食べているんだよね。あれだと確かにマルセイユまで追っかけたくなるわって(笑)。
── ということは、さまざまなバリエーションを考えたけれど、ラーメンは出て来たことがないんですね?
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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己

『押井守の人生のツボ2.0』
東京ニュース通信社
1760円(税込) 発売中
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