押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?

『ウルトラマン』シリーズの辻󠄀本貴則監督との思い出話を聞かせてください

月2回連載

第124回

Q.
辻󠄀本貴則監督が『ウルトラマン』シリーズのメイン監督に抜擢されました。私は『TNGパトレイバー』(『THE NEXT GENERATION パトレイバー』(14))の頃から辻󠄀本監督が大好きです。『ウルトラマン』シリーズはもちろん、『バイオハザード:ヴェンデッタ』(17)もDVDで購入しています。第6回ガン・アクション・ムービー・コンペティションで押井監督が見出してくださったからだと思っています。ありがとうございます。もし辻󠄀本監督との思い出話があれば是非、聞かせてください。

── 今回は押井さんの弟子的存在、辻󠄀本さんについてです。『ウルトラマン』シリーズというのは、今年の7月からテレビ東京でスタートした『ウルトラマンアーク』のようですね。

押井 『ウルトラ』シリーズのメイン監督って、どういう意味だか分かる?

── シリーズを全体的に俯瞰する重要な監督ですか?

押井 それは総監督です。シリーズを数人の監督で回している中にメイン監督と呼ばれる監督がいて、総監督じみた仕事をやる。あくまで“じみた”だから。他のエピソードの進行状況などはチェックするけど。

── あらま。

押井 “メイン監督”というのはプロダクション側に都合のいい呼び方であり制度であって、監督が歓迎すべきものは何もないと思う。この人は「抜擢」と書いているけど、抜擢なのかな……? ギャラが上がったとしてもほんのちょっとだけで、仕事は過重労働になる。

何度か話したことあるけど、監督はみんなプアーなんですよ。予算の問題もあるので自分で特撮もやるし、何だったら合成までやっちゃう。辻󠄀本や田口(清隆)が重宝がられた理由もそこにある。彼らはできちゃうから。普通なら特撮は違う監督がつくものなんだけどね。脚本も込みというのもアリだし、辻󠄀本は怪獣のデザインまで自分でやっていた。まさに合理化の産物。「抜擢された」と喜んでいる場合じゃないの!

── 辻󠄀本さんを東京に呼んだのは押井さんなんですよね?

押井 そうだよ。彼は関西で自主映画をずっと撮っていて“ガンコン”に応募してきた。才能はあります。すごく良かった。コンペが始まって以来の出来だった。

辻󠄀本ともうひとり、同じガンコンの常連で辻村(浩司)という監督がいて、私は辻󠄀本より彼を買っていた。辻󠄀本はガンアクションに特化した才能だったけど、辻村の方は本当の映画監督としての才能があった。無駄がなく演出が冴えていてスタイリッシュ。映画のきらめきを感じるような作品を撮っていた。アート志向で薫り高い映画を作る。

にもかかわらず、なぜ彼は監督にならなかったというと、某企業の中間管理職で奥さんと子どもがいてローンもあった。趣味で映画を撮っていたんですよ。辻󠄀本も奥さんがいたけど、旦那と一緒に東京に出てきてくれた。働きながら辻󠄀本を支えていたんですよ。ちなみに彼の前職は歯科技工士だからね。

辻󠄀本の作風は泥臭い。関西人特有の泥臭さがあった。芝居はアドリブばかりで、関西弁でワーワー言っているだけ。アクションもリアリティ無視でアクロバットの世界。二丁拳銃どころから三丁四丁もアリだから。辻村とは真逆のタイプ。

ただ、監督としてつぶしが効きそうなのは辻󠄀本の方。だから東京に出てくればと声をかけた……でも、私が面倒を見るとはひと言も言ってないから。東京に出てこないと監督としての可能性はゼロ、と言ったんですよ。来てしばらくはとても苦労してたよね。

── 奥さんが凄いですね。

押井 内助の功というか糟糠の妻ですよ。彼はしばらくレンタルビデオにくっついているVシネの予告編を作っていた。これを月に2本やると食っていけるくらいギャラは悪くはなかった。でも、景気が後退してその仕事もなくなり食い詰めちゃった。

そういうときに私のところに来て「諦めて大阪に帰ろうと思うんですけど」。で、私が「諦めるな。あと3年頑張ってみろ」って。そうこうしているうちに仕事が来るようになったんだよ。

── まさに「石の上にも三年」ですね。

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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己

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