押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
アメリカ大統領選が熾烈になっていますが、トランプについてどう見ていますか?
月2回連載
第125回
米国大統領選挙を戦う、共和党のドナルド・トランプ候補 Photo:AFLO
Q.
アメリカ大統領選がハリスVSトランプで拮抗しているそうですが、押井さんはトランプについてどう見ていますか?「もしトラ」なんて言われて、また戻って来そうなのが、個人的にも驚きではあるんですが。
── 今日はアメリカの大統領選挙&トランプについての質問です。現在(10月下旬)は共和党のドナルド・トランプと民主党のカマラ・ハリスが拮抗していると報道されています。このインタビューが掲載される日がちょうど選挙日になる予定なので、結果が出ると思いますが。
押井 日本人でトランプ好きなやつっているの? 私の周りにはひとりもいないんだけどさ。麻紀さんの周りにいる?
── いないです。ハリスとの討論会で移民がペット食べてるなんて言ってる人ですし、そもそもいろんな罪で有罪判決を受けているのに大統領候補になること自体、信じられない。
押井 まあ、そうだよね。日本人からすると、いまだにアメリカ人の半分がトランプ支持というのは理解できないと思うけど、アメリカ人にとってはリアリティがある。あいつ自身は大金持ちなのに、プアな労働者層が支持基盤。なぜそうなるのか理解できないと日本人は思ってしまうけれど、そうじゃないの。アメリカ人の半分は民主党が大嫌いなんです。
── ということは、彼を支持しているというのではなく、民主党がイヤだから仕方なく共和党のトランプに入れている。消極的選択ってことですね?
押井 そうです。日本だと共和党って保守反共のイメージ。それに対して民主党は進歩主義、自由主義。ハリウッドの映画人は民主党支持が多く、共和党支持は『ベン・ハー』のおじさん(チャールトン・ヘストン)とか(クリント・)イーストウッドとかジョン・ウェインとか。典型的なアメリカンヒーローの人が多い。知的な(ロバート・)レッドフォードとかは民主党というイメージだよね。
東部のインテリゲンチャは民主党支持で、アメリカの大多数を占める労働者階級、とりわけ南部や中部は原則的に共和党支持。しかもややこしいことに、旧北軍系と旧南軍系が絡んだ共和党支持だったりする。さらにいえば、キリスト教原理主義者たちは基本的に共和党でトランプなんだよ。
忘れちゃいけないのは、アメリカはピューリタンが作った国であること。根っこにはキリスト教原理主義の基盤がある。いまだにアメリカは、大統領の宣誓であろうが裁判であろうが、聖書に手を置くでしょ。それはピューリタニズムの表れなんだよ。
ピューリタニズムというのはカトリックじゃなくてプロテスタントの過激派なんです。プロテスタントの原理主義者がいわばピューリタンなの。元々イスラム原理主義と似たようなところがあって、実際に宗教戦争で殺し合いもやっている。そういう過激な連中がヨーロッパからはじき出されてアメリカという国を作った。それがアメリカの建国史なんです。
なぜ国民の半数くらいがいまだにトランプを支持している理由はそこにある。政策レベルの話じゃないんです。
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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己
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