押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
声優・田中敦子さんとの思い出を教えてください。
月2回連載
第126回
Q.
先日亡くなられた声優、田中敦子さんとの思い出を教えてください。
── 今回は先日、お亡くなりになった声優の田中敦子さんに関する質問が多数寄せられました。田中さんは押井さんの『攻殻』(『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95))で主人公のサイボーグ少佐、草薙素子の声を担当していました。
押井 田中さんに素子の声を頼んだのは、音響監督のワカ(若林和弘)の推薦があったからだよ。私は全幅の信頼を置いていた。基本的に録音監督が推薦する人を起用するのが私のやり方。信用する人間を信用するんです。彼の推薦なら間違いはないということだよ。
── ということは、それまで田中さんのことは知らなかったんですか?
押井 うん。素子をやるまで、あまりアニメの方はやっていなかったんじゃないの?
── Wikipedia情報だと、劇場アニメは『攻殻』が初めてで、TVでは『ルパン三世 ルパン暗殺指令』(93)などをやっていたようです。
押井 そうなんだ。私、田中さんに限らず役者さんの経歴、よく知らないし、あまり深い付き合いはしない。長年の付き合いの(榊原)良子さんだって一緒に食事したのは数えるほどしかないからね。もちろん千葉(繁)くんは別だけどさ。
田中さんは洋画の吹替はやっていたみたいだけど、アニメ界では売り出し中だったのかもしれない。見事にハマってくれた。
── オーディション、やったんですか?
押井 事前に声を吹き込んだテープを聴いただけ。でも、とても良かった。
素子のようなキャラクターは難しくて、やれる人は実はそんなにいない。人に命令するのに慣れているようなタイプ。そんな人間性がのぞいてもイヤミにならないことも重要。自立していて、男性の視線を気にせずに生きている。女っぽさを前面に出さないものの、ちゃんと女性らしさを感じられなくてはいけない。しかもサイボーグなんだからね! これだけの条件に合った声優、いないでしょ。
── そうやって並べられるとそうですね。めちゃくちゃハードルが高そう。
押井 素子はまばたきもしないサイボーグで、しかも長ったらしいセリフもある。事前にそういうことをいろいろと喋り、彼女の解釈からあの素子の声が生まれた。テンポや口調は田中さんが作ってくれたんです。私が細かく注文をつけたわけじゃないから。
アフレコ前には基本、声優さんとキャラクターについて話すのが私のやり方。時には脚本の段階でやることもあるけど、やはりアフレコ前が多いよね。
本当に素子の声にハマったので、素子という名前を聞くだけで田中さんの声が聞こえてくるくらい。まあ、黄瀬(和哉)の『攻殻』(『攻殻機動隊 ARISE』(13))ではキャラデザインも年齢も違うので、違う声優さんがやったけどね。
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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己
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