押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?

『ゴジラ-1.0』はご覧になりましたか?<前編>

月2回連載

第130回

Photo:AFLO

Q.
『ゴジラ-1.0』がアメリカでの興行で成功を収めて話題になっていますが、押井監督は観ましたか? 世界的にもBBCが日本映画の成功とハリウッドの迷走と特集を組むくらい海外でも評判みたいです。製作費1500万ドル(山崎監督はそんなに出てないって否定してましたが)でハリウッドの超大作を超える興行成績をアメリカでは収めている点が話題になっているみたいです。

── 怪獣映画と自衛隊について語っていただいた前回の質問の流れから、押井さんが「『ゴジラ-1.0』を観たよ!」と仰ったので、今回はぜひ、その山崎貴監督の映画について語ってもらいましょう!ということになりました。取り上げるのが遅くなりましたが、本作については公開当時から上記のような質問がたくさん届いていたんです。

で、押井さん、ウワサの『ゴジラ-1.0』(23)はいかがでしたか?

押井 大変評判だったんでしょ? 日本だけじゃなく世界中で。アカデミー賞を取った(昨年の第96回アカデミー視覚効果賞)というし、そのアメリカでヒットもしたという。それは分からなくもない。彼らから見るとショッキングだと思うよ。あのゴジラは米軍みたいだから。しかも敗戦した日本が更に酷い目に遭わされる話だしさ。

そもそも、敗戦後の日本がどういう世界になっていたのか、それを映画で観たことはないんじゃない? 今のアメリカ人は。日本に勝利したことは知っている。でも、その後の日本のありさまを見たことはない。そういう意味では新鮮だったんじゃないかな。

── でも押井さん、そういう戦後の空気感はない映画じゃなかったですか? ゴミゴミゴタゴタした感じとか貧乏臭さとか。

押井 それは戦後のありさまを知っているからだよ。でも、知らないアメリカ人が観たら違う。『ゴジラ』を観る世代だって「戦後の日本はああだったんだ」と思ったはず。

── 押井さん、『立喰師列伝』(06)がありますよ! 戦後のどさくさ感といえば『立喰師』じゃないですか!

押井 そうだよ。でも、観てる人がほとんどいない(笑)。ここ30年くらい、戦後を描いた映画はほとんどないんじゃないの?

── 言われてみれば『立喰師』くらいかも。押井さんのこの映画、最初はヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門のドキュメンタリーにカテゴライズされていたんですよ。びっくりして押井さんに連絡した記憶があります。

押井 そうそう(笑)。でも、途中で気づいたみたいで普通のフィクションの扱いになった。ドキュメンタリーに入っていたときは賞をあげようという話もあったらしい。私としても、まさか『立喰師』でヴェネチアのレッドカーペットを歩くとは想像だにしてなかったから(笑)。ちなみに一緒に歩いたのはトシちゃん(鈴木敏夫)。映画にも出ていて、ちょうどジブリの映画で映画祭に来ていたんで。

── 出てましたね、鈴木さん。

押井 私がヴェネチアに行ったとき、記者会見場はジャーナリストで満席だった。なぜなら、久々に戦後を描いた映画だったから。イタリアもかつては戦後を描いた映画がたくさん作られていたけど、今はもう誰も撮ってない。そういう意味では日本と同じ。(ロベルト・)ロッセリーニや(フェデリコ・)フェリーニ、(ミケランジェロ・)アントニオーニらはみんな、もれなく戦後を描いていたのに!というわけですよ。

「なぜ日本も戦後を描かなくなったのか?」「最近の日本映画はどうなっているんだ?」、そんな質問がたくさん出た。

── どう答えたんですか?

押井 「敗戦という観念自体が消滅しつつある」みたいなことを言ったよね。

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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己

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