押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?

先日亡くなったデヴィッド・リンチ監督について、どういう考えをお持ちですか?<前編>

月2回連載

第132回

Photo:AFLO

Q.
先日、デヴィッド・リンチが亡くなりました。彼の作品は、観終わると何とも言えない気持ちになったり、さっぱり意味が分からないような怪作というかカルト映画ばかりだったとはいえ、何度も繰り返し観たくなるような映画でもありました。押井さんはリンチ監督に対してどういうふうな考えをお持ちですか? そして、どの作品がお好きでしょうか? ちなみに僕は、中学時代にショックを受けた『エレファントマン』と、いまだに理解できない『マルホランド・ドライブ』が好きです。

── 今回はデヴィッド・リンチに関する質問をたくさんいただきました。2025年の1月15日、78歳で亡くなり、日本でも数多く報道されましたよね。

押井 驚きましたよ。どうも、リンチは死なない、不死身だと思い込んでいたみたいで。きっと悪魔と契約しているんだろうと、訃報を聞いて決めつけていたことにあらためて気づいたくらい(笑)。

── あ、分かります。私もニュースを聞いたとき「びっくり! リンチも死ぬんだ」って思っちゃいましたから。そういう人、たくさんいるんじゃないですか?

押井 麻紀さんはリンチにインタビューしたことあるの?

── いや、ないんです。映画祭とかで見かけたこともない。ロスのマルホランド・ドライブにある自宅かスタジオでコーヒー豆とかTシャツを売っていた等は、耳にしたことはありますが。

押井 私は一度、見かけたことがあるんですよ。パリのシャルル・ド・ゴール空港で。それが最初で最後のリンチとの邂逅だった。カンヌ映画祭(※2001年『アヴァロン』が特別招待作品として上映された)の後ロスに行くことになっていて、カンヌからパリの飛行機が一緒だった。私はひとりだったので、リンチについていけばロスに行けると思い、勝手にガイドにしてあとをついて行ったんです。

── 押井さん、ひとりでトランジットしようとしたんですか? それって無謀じゃないですか?

押井 無謀極まりないと言ってもいい。だからこれは、生涯にそう何度もない大ピンチだったんだよ。

私はリンチのあとをつけて自動的にロスに行こうとしたんだけど、途中、オフィサーに止められてしまった。そのおっさんに「ここを通るには3枚のカードのどれかを持っていなきゃいけない。アメリカの市民権、あるいはグリーンカード、もう1枚はアメリカからの帰りのチケット。お前は何を持っている?」って。

私、帰りのチケットを持ってなかったんですよ! だから「帰国はどうするんだ?」と聞かれ「ロスでチケットをもらうことになっている」と言ったけれど、通用するはずがない。だからリンチのガイドはそこで終わっちゃった。

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取材・文:渡辺麻紀
撮影:稲澤朝博

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