押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?

先日亡くなったデヴィッド・リンチ監督について、どういう考えをお持ちですか?<後編>

月2回連載

第133回

Photo:AFLO

Q.
先日、デヴィッド・リンチが亡くなりました。彼の作品は、観終わると何とも言えない気持ちになったり、さっぱり意味が分からないような怪作というかカルト映画ばかりだったとはいえ、何度も繰り返し観たくなるような映画でもありました。押井さんはリンチ監督に対してどういうふうな考えをお持ちですか? そして、どの作品がお好きでしょうか? ちなみに僕は、中学時代にショックを受けた『エレファントマン』と、いまだに理解できない『マルホランド・ドライブ』が好きです。

──今年の1月15日、78歳で永眠したデヴィッド・リンチについてお話しいただいています。前回の押井さんは、パリのシャルル・ド・ゴール空港でリンチを見かけ、彼と同じL.A.行きの飛行機に搭乗するはずが諸般の事情で断念せざるを得なかった……というエピソードで終わってしまいました。

押井 はいはい。だからリンチは、根っからの傍流の人という印象だよね。彼の映画に出てくるのはマイノリティばかりじゃないの。ゲイとか小人とかエレファントマンとか、そんなのばかり。『マルホランド・ドライブ』(01)だってハリウッド・バビロンでしょ。

──ケネス・アンガーの世界でしたね。

押井 私は学生だった70年代、ATG映画を上映していたアートシアター新宿文化の地下にあったアンダーグラウンド映画の専門館、アンダーグラウンド蠍座の会員になり、足しげく通っていたんですよ。それこそケネス・アンガーとかいつも上映しているの。当時はそういう映画が最先端でかっこいいと思っていたからね。

浴びるようにアングラ映画を観た結果は「さっぱり面白くない」だった。このジャンルは私には合わない、やっぱり私は(イングマール・)ベルイマンが好きだ。(フェデリコ・)フェリーニや(ルイス・)ブニュエルの方がダンゼンいい、ということが分かった。やっぱりヨーロッパ映画の人なんですよ、私は。ヨーロッパにはアングラ映画ってほとんどないんじゃないの?

──ブニュエルの『アンダルシアの犬』(1928)とかは?

押井 あれはアバンギャルドというの! アングラとは違います! 有名なカミソリで切る目玉は犬のですよ。ブニュエル、尊敬しているけど、そこだけは許せない。あの頃の前衛映画はそういうもので、何をやってもOKだったから。今だと即、映画界追放ですけどね。

──リンチはアングラっぽいということですか?

押井 最後までアングラ映画の尻尾を引きずっていたと思う。発狂度が数多の監督とはまるで違うでしょ。8歳からタバコを吸っていたなら、ドラッグもやっていたんじゃない? そういう映画ばかりだから。

──押井さん、意外なことにリンチの訃報って、TVのニュースでかなりやっていたんですよ。しかも割と長い時間を割き『ツイン・ピークス』(90~91)の映像を流しつつ。その扱いに驚いちゃった。

押井 今のTVをやっているプロデューサーやディレクターが『ツイン・ピークス』のファンだったんじゃないの? そういう世代ならリンチと言えば『ツイン・ピークス』になる。

──意外とTVシリーズ、合ってましたよね。突然、丸太を抱えたおばさんが出てきて「つづく」になると、次が観たくてしょうがなくなるという感じでした。

押井 悪夢は無限に続くから、意外とシリーズものは合っていたのかも。おそらくリンチもスタッフやキャストも楽しかったんじゃないの? 私たちも相当楽しんだけどさ(笑)。

『ツイン・ピークス』の“丸太を抱えたおばさん”こと丸太おばさん Photo:AFLO

──質問には、押井さんが好きなリンチ作品を教えてくださいとありますが。

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取材・文:渡辺麻紀

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