押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?

押井さんがよくタミヤのTシャツを着用されているのは何かのこだわりですか?<後編>

月2回連載

第138回

※2024年7月撮影の押井さん

Q.
押井監督がよくタミヤのTシャツを着用されているのを見ます。宮崎駿監督のエプロンや鈴木プロデューサーの作務衣のように何かファッションのこだわりですか? タミヤのTシャツはゴールデンボンバーの鬼龍院翔さんも愛用していますね。

── 押井さんが夏になると頻繁に着用しているタミヤのTシャツにまつわる話をお伺いしています。前回では「プラモの趣味を続けるのは大変ではあるんです……」ということでしたが。

押井 プラモデルを組み立てるには細心の技術と繊細な神経が必要なんです。つまり気を抜けないということ。慎重に組み立てる順番を考えながら、まずはプランを立てる。プラモを趣味にしたモデラーとしての生活パターンを構築するのが必要なんですよ。

本格的なモデラーになると、そこから考証を加える。プラモデルは全部を再現しているわけじゃないから、写真等の資料を基に改造していくんです。ここはビスが足らないとか、この部分が省略されているとか、アンテナ線を張ってみたりとか、自作しながら加えていく。凝れば無限に凝れるの。

色を塗るときはコンプレッサーを使ったりするから火気厳禁。シンナーも使うので、冬でも暖房なし。むしろ窓を開けなきゃいけないくらい。なおかつコンプレッサーがゴトゴトとちょっとうるさくて、ベランダや窓際でやるしかない。コンプレッサーを使うときのためのボックスが市販されているんだけど、結構高いのでベランダで我慢する。オヤジになって資金力が備われば買えるけどさ。

だから、モデラーの夢は自分のプラモデル部屋を作ること。60万円くらいかけてあらゆる設備を揃える。ディスプレイ用のガラスケースも揃えたいじゃない? ただし、そうやっていくと確実に家族を疎外してしまうから。おっさんがプラモやっているときは奥さんはほったらかし、子どもとも疎遠になり、部屋に長時間こもって、ひたすら組み立てていく。不思議な趣味で一般性はないんですよ。

※2024年7月撮影の押井さん

── 押井さん、結婚しているときもプラモ、やっていたんですよね?

押井 最初の奥さんは食事をするとすぐに寝ちゃう人だったので、長い夜を戦車作りに費やしていた。でも、それがどんどん嵩じていって、隠しようがなくなる。

そもそも私はひとりでやる作業が好きなんですよ。お金を貯めて買うのも、当時で8万5000円くらいしたAKのモデルガンだったしね。当時の私の1カ月のお小遣いが1万5000円だったから、やっぱり「こんなものを買ったの?」と言われちゃう。なぜ服を買ったり靴を買ったりしないのかって。だから価値観が違うんですよ。

でも、私は日曜日になるとそのAKを分解して磨いて、また組み立てる。それが楽しい。奥さんはそういうのが気に入らない。しかも車は一度も洗わないし。

── 押井さん、離婚したんだから自由にモデラー生活を満喫できるようになったんじゃないですか? にもかかわらず止めちゃったのは?

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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己

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