押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?

映画の上映フォーマットや画角が様々になりましたが、この状況をどう考えていますか?<後編>

月2回連載

第140回

Q.
近年、IMAXや4DXなど上映フォーマットが多彩になっていて、画角も様々です。映画監督としてこの状況をどのように考えていますか? ひとつの映画に複数の画角がある場合、レイアウトや画面設計に変化はあるのでしょうか?

── 前回に続き映画の画角について話していただいています。押井さんは「画角には何の根拠もなく、フィルム会社が勝手に作った規格」といいつつ、「いろんなバリエーションがあるのはウェルカム」ともおっしゃっています。前回は、先日4K化した『紅い眼鏡』(『紅い眼鏡/The Red Spectacles』(87))のところで終わっています。

『紅い眼鏡 4Kレストア5.1chヴァージョン』
https://ttcg.jp/distribution/1193200.html

押井 『紅い眼鏡』は4Kにする意味があった。でも『攻殻』(『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95))はその意味があまりないと思っている。アニメーションでも情報量を詰め込むのは可能といえば可能ではある。そのいい例が『イノセンス』。バトーがドッグフードを買う店なんて、背景だけで2000枚は使っている。テクスチャーを張りつけたからですよ。棚に並んでいる商品のパッケージとかははめ込み。あの情報を1枚の絵で描けるはずはないからだよね。

一方、『攻殻』はほぼセルアニメだから基本は1枚絵。手作りデジタル映画なんだから、それを16倍にしたらとんでもないことになる。今だとモニタ上で大きな絵を描き、それを縮小してはめ込むことができるし、キャラクターも大きく描いてそれを縮小すればちゃんと動かすことができる。デジタルのよさはそこ。サイズに限定されないんです。

スクリーンサイズに関しては、そういう中間素材の問題もある。つまり、目に見えるところのサイズ問題と、見えないところのサイズ問題があるということです。

『ドラゴン・タトゥーの女』(11)のとき(デヴィッド・)フィンチャーは、4Kで撮ってあとでトリミングしたのは有名な話。ルーズに大きめに撮っておいて、編集するときにトリミングする。そうすると絵がデカいので劣化しないし、そもそも現場で厳密にフレーミングしなくていい。そういう使い方もできる。

『ドラゴン・タトゥーの女』

あとはカラコレ(※カラーコレクションの略。撮影した映像の色を補正する技術)。これも当たり前になった。天気にしても、昔は晴れるのをずっと待って撮影していたけど、今は曇りでも雨でも平気で撮って後で調整すればいい。

── カラコレって、カメラマンの立場はどうなるんだろうって思っちゃうんですけど。

押井 いや、重要ですよ。やはりいい絵じゃないとカラコレするにも範囲が狭まってしまう。モトがダメならそれ以上にはならないということだよね。

今は最終工程でカラコレをやらない映画はまずない。Vシネは別だろうけど、AVはやる。なぜって肌の色にこだわりがあるから。その場合だって現場で大量に照明を使わないときれいな肌には絶対にならないから。

やっぱり現場の仕事は重要。デジタルだからこそ素材としてきれいなものをあげる必要がある。そのとき、ようやくデジタルは威力を発揮するんですよ。

── なるほど!

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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己

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