押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
Netflixの『新幹線大爆破』はご覧になりましたか?<前編>
月2回連載
第141回

Photo:AFLO
Q.
Netflixの『新幹線大爆破』が大ヒットしているそうです。もし押井さんがご覧になっていたら是非、感想をお願いします!
※作品の内容に触れますので、未見の方はご注意ください。
── 今回は『新幹線大爆破』です。監督は、1975年公開の同名オリジナル作品の大ファンを公言している“しんちゃん”こと樋口真嗣さんです。
押井 しんちゃんが『新幹線大爆破』のリメイクを監督するというのはだいぶ前から知っていたんだけど、私は劇場公開するんだと思い込んでいた。Netflixだったんだね。楽しみにしていたとはいえ、しんちゃん、またリメイクなの?という感じではあった。『日本沈没』(06)、『隠し砦の三悪人』(『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』(08)、どちらもリメイクだったから。ただし、オリジナルの『日本沈没』(73)も『隠し砦の三悪人』(58)も傑作の誉れ高い作品だったけど、『新幹線大爆破』のオリジナルは典型的な底抜け映画。それでも私は公開のとき初日の1回目を観に行ったけどさ(笑)。
── 押井さん、それは樋口さんとお揃いですよ(笑)。
押井 まあね(笑)。昔の東映の話題作、『宇宙からのメッセージ』(78)とか、ほとんどが底抜けにもかかわらずなぜか初日の1回目に行っているんだよ。私、当時の東映の映画は残らず観ていたし。
── 樋口さんは子どもの頃から鉄オタだったので、オリジナルの公開、とても楽しみにしていたとおっしゃっていましたね。
押井 しんちゃんはいろんなもののオタクなので挙げ出したらきりがないけど、鉄オタというのは知らなかったなあ。「重機マニア」ではあるから、その一環としての鉄オタなんじゃないかな。
── 「じゅうき」って「銃器」じゃなく「重機」? そういうオタクいるんですか?
押井 います。でっかい機械が大好きな人たちだよ。クレーンとかブルドーザーとか。そういう中に鉄道も入る。要するに「はたらく機械」が大好きなの。大好きなのが重機に怪獣なんだから、しんちゃんのフェティッシュに関しては子どものときから止まっていると言ってもいい。
── その「はたらく機械」の中には軍艦や戦闘機などは入るんですか?
押井 入りません。それが好きなのは私のような軍オタです。軍オタというのは微妙な立ち位置なんですよ。子どもも軍艦や戦闘機は好きなんだけど、それははたらく機械として好きなわけで戦争のメカとして好きなのとはちょっと違う。その差は何かといえば、ホンモノを見られるかどうかなんじゃないかと私は思っている。
新幹線とかブルドーザーは簡単に見られるけど、軍艦や戦車は難しい。頑張って横須賀とかに行けば見ることはできるものの、乗り込むことはできないでしょ?
軍オタが微妙なのは、資料や写真は山のように持っているのに実際に乗ることは難しいところ。だから、そういう資料や動画を眺めるだけになる場合が多い。幸い私はこういう職業なので、見ることはもちろん、戦車も潜水艦も軍艦も戦闘機も乗ったけど。
── そうですね。
押井 しんちゃんの場合は、そういうのが好きで職業にもしちゃったから固定されてしまった。私も対象は違ってもそれと似たようなものなんだけどさ(笑)。
こういう業界に入るとフェティッシュが固定化されてしまう。モデルガン大好きのサラリーマンがそれを持って会社には行けないでしょ、普通。私の知り合いに、ガバ(コルト・ガバメント)をホルスターに入れてスーツの下に忍ばせて外回りしていた営業マンがいたけど、もしバレちゃったら大惨事になるからね。おそらく、そういう緊張感がたまらなかったんじゃないの? だから引っ越しとかで、モデルガンを車に乗せて移動するのって、とても緊張するんですよ。検問にひっかかって取り調べられたら終わりだから。
── なるほど! では、樋口さんの『新幹線大爆破』はいかがでしたか?
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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己
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