押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
Netflixの『新幹線大爆破』はご覧になりましたか?<後編>
月2回連載
第142回
Q.
Netflixの『新幹線大爆破』が大ヒットしているそうです。もし押井さんがご覧になっていたら是非、感想をお願いします!
※作品の内容に触れますので、未見の方はご注意ください。
── 前回に引き続き"しんちゃん"こと樋口真嗣さんがメガホンを取ったNetflix映画『新幹線大爆破』についてです。オリジナルは1975年、佐藤純弥監督、高倉健主演の同名作品。押井さんは、前半は新幹線のシステムを描いて、無駄なくテンポもよく、出色の出来と絶賛していました。今回は映画の後半について語っていただくことになりますが、どうも雲行きが怪しいようで……。
その前に、ここからはネタバレ全開なので、まだご覧になってない方は気をつけてください。1975年のオリジナルでは最初から犯人が分かっていますが、本作で明らかになるのは後半。つまり、ミステリ的なお楽しみもあるということです。
押井 犯人像、確かに驚くけど、その驚きはいい意味じゃない。非現実的すぎる。そこまで理詰めかつクールに徹していたのに、犯人像を明らかにしてからはどんどんリアルから離れていっちゃった。
なぜ75年版とつなげることになったのかは分からないけど、おそらく脚本上ではグッドアイデアだと思ったんだろうね。オリジナルの映像も使えるし、それが大好きなしんちゃんは嬉しかったんじゃないの? ところが、そのせいで、オレのおかげで今の新幹線はあると思い込んでしまったヘンなオヤジを登場させ、それにムカつきまくっている高校生の娘を登場させた。その娘が、75年版の犯人のひとり、山本圭の息子という設定のピエール瀧扮する発破技師の力を借りて新幹線に爆弾を仕掛ける……ってあまりにも非現実的でしょ?

── そのオヤジは当時、政府に、実行犯のひとり、高倉健を殺し新幹線を救った英雄として祭り上げられた元警官。実際は自爆してますからね、健さん。そういう思い込みの激しすぎるオヤジがいてもいいんですが、そのオヤジにムカついている娘がオヤジを爆死させるだけでは満足できず、新幹線まで爆破するって……とは思いました。
押井 そもそもあの女子高生、どうやってピエール瀧とあれだけの爆弾を新幹線に仕掛けたの? 75年版では、そのピエール瀧の父親、元過激派だった山本圭が列車に仕掛けているエピソードがあり、最低限のリアリティは演出していた。
というか、だいたい女子高生の動機が弱すぎるじゃないの!
── それってオリジナルも動機、弱いですよね。経営していた町工場が潰れて奥さんが息子を連れて出ていったから新幹線爆破しようって、かなりの飛躍がある。もしかしたら樋口さん、"弱い動機"の部分もオリジナルへのオマージュなのかも?
押井 そんなとこ、オマージュしてどうするの! 新幹線に苦い想いがある女子高生とピエール瀧がSNSで出会ったというだけで詳しいことはよく分からない。どうやって爆破計画を膨らませ、どうやって設置したのか、その辺がまるで分からない。
※続きは無料のアプリ版でお読みください
取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己
質問はこちらのフォームからお寄せください!